海外取引ではコミッションの支払等が交際費に当たるとして課税されるケースがよく見られます。今回紹介する事例は、海外の取引先の役員に対して支払った手数料は、交際費等に当たらないとして課税処分の全部が取り消された事例です(平成3年7月10日 裁決)。

事案の概要

P社は、貿易業(自転車の輸出)を営む同族会社であり、X国に所在する取引先であるA社の代表者B男、及びC社(代表者D男)との間で仲介手数料に関する契約書(以下「本件契約書」)を締結した。
A社は、本件契約書に基づいて算定した仲介手数料及び商品販売に係る不良品、納品不足等の補償金の合計額を「売上値引」として処理していた。
売上値引の支払については、B男らの指示により日本国内の銀行へ送金したほか、B男らの関係人が来日した際や、P社の社員がX国へ出張した際にB男らに現金で支払っていた。
これに対し、国税当局は、以下のような理由から、本件契約書は架空に作成されたもので、本件売上値引は交際費に該当し、交際費に該当する費用を売上値引としたことは仮装隠蔽にあたるとして重加算税を賦課した。

  • ・ 本件契約書に記載されたB男及びD男の各署名は、いずれも本人の筆跡とは認められないため、契約書は架空に作成されたものである。
  • ・ 本件売上値引額は、得意先から請求された形跡はなく、その受領者がB社等の得意先の役員個人と認められることから、これらの役員に対する取引謝礼金として支払われたものであり交際費等に該当する。

P社は、これらの処分を不服として、国税不服審判所に審査請求した事案である。

審判所の判断

審判所は、以下のように判断し、国税当局による交際費課税を取り消した。

① 本件契約書にされているB男名義の署名は、X国の公証人によって同人の筆跡であることが証明されている。また、P社が発行した送金小切手に裏書きされたD男名義の署名は、X国の公証人によって同人の筆跡であることが証明されており、その署名と本件契約書にされているD男名義の署名を照合すると、これらの筆跡は同一であると認められる。
② P社には本件契約書に基づく商品売買取引の事実があり、かつ、P社はその取引によって相当の利益を得ていることから、P社が本件売上値引をB男らに支払うことには理由がある。
③ C社は、自転車のブランド名のF等を有しており、また、P社はそのブランド名を使用して商品販売取引を行っていることから、P社が仲介手数料をC社に支払ったことには合理的な理由がある。
④ 仲介手数料の額は、あらかじめ交わされた本件契約書によって支払われたものであり、その提供を受ける役務の内容及びその支払基準等もその契約書において明らかにされており、かつ、その額はその役務の内容に照らして相当であると認められる。
⑤ 以上から、本件契約書は、P社とB男らとの間で正当に交わされたものであると認められ、交際費等には該当せず販売費等とすべきものである。