今回紹介する事例は、従業員が法人の仕入れた商品を横領し、インターネットオークションで販売していたことが税務調査で発覚したものです。国税当局は販売による収益は法人に帰属するとして課税処分しましたが、審判所は、従業員の行った行為は法人の行為と同視されるものではなく、その収益は法人には帰属しないと判断しました(令和元年5月16日裁決)。

事実関係

  1. X社は、農業機械器具の販売等を行う法人である。X社の従業員Yは、インターネットオークションサービスに、Y個人のアカウントを用いて、X社の仕入れた商品を出品して販売する取引を反復継続して行った(以下、この一連の取引を「J取引」という)。従業員Yは、J取引の落札代金を、Y名義の銀行口座で受領した。
  2. X社は、X社名義で、商品をインターネットオークションに出品して販売したことはなかった。
  3. 従業員Yは、平成28年2月に管理部長に昇任した。Yの担当業務は、商品の発注、販売管理ソフトへの入力、商品の倉庫における管理、商品の運送業者への引渡し及び本社店舗における来訪者対応業務であった。
  4. Yは、X社の経営方針に関わる会議の構成員とはなっておらず、X社の経営に関与する立場にはなかった。Yは、X社の代表者及び関係者に無断でJ取引を行っていた。アカウントのユーザーIDには、X社が関与することをうかがわせる文字列は含まれていなかった。
  5. Yは、J取引において販売された商品を、荷送り人としてYの住所・氏名を記載した伝票を貼付けして、X社が発送する他の商品と共に運送業者に引き渡してX社の本社から発送し、その送料をX社に負担させていた。Yは、J取引に係る落札代金等を、いずれもY個人の銀行口座で受領し、生活費等に費消していた。
  6. J取引の落札者から領収書の発行を求められた場合には、Yの個人名で発行した。
  7. Yは、国税当局の調査を受け、J取引による所得があるとの指摘を受けた。これを受け、Yは代表者に対し、X社の仕入れた商品をネットオークションに出品して販売していた旨告白し、その結果、X社代表者等が、J取引の存在を知るに至った。
  8. 国税当局は、J取引は従業員Yが行ったものであるが、法人の行為と同視できるとして、J取引に係る収益をX社の所得とする課税処分を行った。X社は処分の取消しを求めて審査請求した。