国税OB税理士が監修。公認会計士・税理士・会計事務所・企業経理担当、税金・会計に関わる“会計人”がいま必要な情報をお届けします!

会計人ニュース

注目キーワード

改正民法で関心高まる贈与税の配偶者特別控除 早期の住宅売却などに課題も

2019年7月1日から民法の相続関連の法改正が一部の規定を除き施行された。今回の改正は、相続により、残された配偶者の生活を保護することが目的。ところが、新制度を適用した場合、活用の仕方によっては「贈与税の配偶者控除」などが適用できないケースがある。活用するに当たっての注意点などに迫ってみた。

1、民法の改正

改正民法で20年連れ添った配偶者へ贈与・遺贈された現物の住宅については、遺産分割の相続分を計算する際に、原則として持ち戻し計算を不要とすることを可能にする制度が導入されました。遺産分割時の持ち戻し免除の意思表示の推定規定(民法903条4項)です。具体的には贈与者が亡くなり相続が開始した場合、その居住用不動産の価額分を特別受益として扱わず相続分の計算上、持ち戻し計算をしなくて良いとの贈与者の意思があったものとして、遺産分割の際の配偶者の相続分をそれだけ増やせる効果が期待できるものです(詳しく知りたい方は次のアドレス法務省HPの資料をご覧ください http://www.moj.go.jp/content/001263484.pdf)。
同制度は今年7月から施行されています。もっとも遺留分の計算上、遺産分割時の持ち戻し免除の意思表示の推定規定の適用を受けた居住用不動産について除外されないので注意が必要です。

遺産分割時の持ち戻し免除の意思表示の推定規定は残された配偶者の生活を守るという考えから導入されたもので、贈与税の配偶者控除と同じ考え方に立つ制度です。この贈与税の配偶者控除とは、20年以上連れ添った夫婦間の贈与で認められている優遇税制として知られている制度です。住宅(居住用不動産)やそれを取得する金銭をもらった場合、贈与税の計算上、贈与された住宅の評価額や金銭などの課税価格から基礎控除110万円のほかに最高2千万円控除できるというものです。

平成29年分までの適用状況は図の通りです。平成27年に相続税の増税が行われましたが、それ以前の25、26年は、増税に備えた「生前贈与」が行われた形跡がうかがわれますが、全体的な流れとしては減少傾向です。ただ、今回の民法改正で前述のような制度が導入された結果、今後、「贈与税の配偶者控除」の適用状況にも変化があるかもしれません。

<図:贈与税の配偶者控除の適用状況(人数・控除額)>

2、贈与税の「配偶者控除」の注意点

ただ、この贈与税の配偶者控除を利用する場合、贈与された住宅を売る予定があるのであれば贈与税の配偶者控除の適用が認められないこともあるので注意が必要です。とくに譲渡所得課税の3千万円特別控除を利用するケース。配偶者に住宅の持ち分を生前贈与しておけば、譲渡者は2人分となって有利になるため、贈与税の配偶者控除の適用を検討する向きも多いのもうなずけますが、すぐに売ることを前提に贈与税の配偶者控除を利用したことから、課税当局が、贈与税の配偶者控除の適用要件を満たさないとして否認したケースがあるのです(平成25年5月8日国税不服審判所裁決)。

ポイントになったのは、「贈与税の配偶者控除」の要件の1つ、贈与された翌年の3月15日まで住宅に入居し「その後引き続き住み続ける見込みである場合」に限って、この「贈与税の配偶者控除」が適用される点(相続税法21条の6第1項)。金銭の授受があった場合には、その翌年の3月15日までに住宅を取得する必要があります。

争いとなったのは、平成23年初頭に不動産業者に売買の仲介を依頼、同年5月に納税者Aが配偶者から住宅の敷地の3割、家屋の半分の持ち分の贈与を受け、直後に売買契約を締結したケースです。不動産業者は、この住宅の売却と新居の購入がずれるとAらが困るとの理由で、新居が決まればこの住宅を同社が買い取る保証をしていました。贈与を受けたAは、同時期に購入の契約をした転居先マンションの引き渡しを受けるまでの4カ月間、この住宅に住み、翌年、「配偶者控除」の適用をして贈与税の申告をしました。

ところが課税当局は「配偶者控除」の適用を認めなかったことから、国税不服審判所(以下審判所という)で争うことになりました。Aは、贈与時点では売却の交渉はしていても、売却の意思決定はしていないと反論。審判所は、贈与税の配偶者控除(以下本件法規定という)について、「夫婦間における贈与が将来の生存配偶者の生活保障を目的として行われることが多いこと、税制面における妻の座の優遇などの面が考慮され」設けられたとし、「その控除の対象財産となる居住用不動産の意味はその趣旨に合致するように限定的に解すべき」と解釈。これにより「贈与を受けた不動産について、贈与を受けた時点において既に他に売却することが予定されている場合には、売却し買主に引き渡すまでの間にその不動産に居住することが予定され、また、現に居住し続けたとしても、本件法規定にいう『その後引き続き居住の用に供する見込みである場合』には該当しないと解するのが相当」としました。

Aの反論について審判所は、新居となる物件探しは夫婦そろって赴き、新居を決める際も夫婦で相談して決めたことや、不動産会社が住宅を直接買い取る保証をしていたことからすると、Aが本件住宅の持ち分につき贈与を受けた時点でAだけが本件住宅に住み続けるつもりであって、これを売却する意思はなかったというのは不自然だとし、「配偶者控除」の適用はないと判断しています。

また、転居するまでの4カ月間、この住宅に住んだことについて、審判所は概略「転居先の売主が退去するのに合わせたのに過ぎないのであって、Aらが贈与日以降も住宅に引き続き居住していた事実をもってしても、配偶者控除の適用はないとの判断に影響を与えるものではない」と述べています。

つまり、すぐに売ることを前提に「配偶者控除」を適用するのは危険ということです。
とはいものの、「住み続ける」ことを前提にしていても、先々なにが起こるかわからないことから、実際の適用には事実認定が重要になることは言うまでもありません。この辺りを踏まえながら検討することが重要です。

3、現物の住宅を贈与する場合の注意点

このほか注意が必要なのが現物の住宅を贈与したとき、登録免許税がかかるほか、ケースによっては不動産取得税がかかることがある点です。不動産取得税を定めた地方税法には、贈与税の配偶者控除を適用して贈与された現物の住宅について、不動産取得税を非課税にするといった規定は見当たりません。したがって、こうした贈与による住宅の取得についても、原則として課税されることになります。

不動産取得税は、一定規格を満たす住宅を取得した場合、価格(原則として固定資産税評価額)から最大1200万円を控除できる「住宅家屋の課税標準の特例(地法73条の14)」の適用ができます。また敷地も、「住宅用土地の減額(地法73条の24)」が適用可能です。中古住宅の贈与では、床面積が「50㎡以上240㎡以下」であり、昭和57年1月1日以後に建築されたものであるか、新耐震基準に適合するものとして証明されたものであることが要件になります。住宅家屋の控除額は新築当時の控除額となります。大方は、住宅家屋の固定資産税評価額が経年減価により逓減しているため、税額が発生するケースは多くはないでしょう。

なお、贈与する住宅の床面積が、上記の要件を満たすものであっても、建築時期が昭和57年以前の場合で、耐震基準不適合既存住宅を取得したものとされた場合では、取得から6カ月以内に耐震改修をし、耐震基準に適合したことの証明を受けることで、その住宅の新築当時の「住宅家屋の課税標準の特例」の控除額に税率を乗じた金額を税額から控除することが認められる仕組みです(地法73条の27の2)。この場合、逆に改修をしなければ、同制度の適用は受けられません。実際、贈与税の配偶者控除の適用を前提とした現物の住宅の贈与で、上記の耐震基準を満たさなかったばかりに、不動産取得税が課税され、トラブルになった事案があります(東京都裁決平成31年3月6日)。

20年連れ添った夫婦間で贈与する住宅が古い場合には、不動産取得税が課税されるケースがあることは、頭の片隅に置いておくべきです。

著者: 遠藤純一

タクトコンサルティング 情報企画室課長  

平成3年 エヌピー通信社に入社。 編集局にて「納税通信」担当後、編集長代理を経て副編集長。平成14年 タクトコンサルティング入社。情報企画室にて、情報収集と情報発信を行っている。
■株式会社タクトコンサルティング/税理士法人タクトコンサルティング
https://www.tactnet.com/

ページ先頭へ