都道府県税の1つである個人事業税は、個人事業主が所定の第1種事業から第3種事業を営んでいる場合に納税義務が発生する税制です。実は最近、納税者が営む業務が、個人事業税の課税対象とされる「事業」にあたるかどうかで、納税者と課税庁の都道府県で争いが多発しています。個人事業主はもとより、個人事業主に関与する会計事務所からも注目されています。
保険営業は「代理業」!?
最近話題になっているのが、保険会社に勤務し、事業所得があるとして所得税の確定申告を行っていた保険外交員に対し、個人事業税が課税された東京都の事例です。東京都では、事業所得のある複数の保険外交員に対し、個人事業税の課税対象となる「代理業」だと認定しています。従来とは異なる扱いであり、保険業務に関係する業界で注目されています。
昨年、保険外交員である納税者が課税を巡り、東京都に対して不服申立を行って裁決が出たケースでは、約1,500万円の事業所得があったことから、所得税の確定申告をしていた保険外交員の業務が、個人事業税の課税対象となる「代理業」にあたるかどうかが争われました。(平成30年6月20日)。
審査した東京都は、保険外交員の業務について個人事業税の対象となる第一種事業の「代理業」に当たるとの都税事務所の認定を支持、保険外交員の不服を退けています。
裁決書によると、保険外交員Aは会社から受け取っていた外交員報酬について、所得税の確定申告で事業収入として記載したほか、経費欄に交際費等合計1,300万円余りを計上していました。申告書の閲覧等をした都税事務所職員は、保険外交員Aが少なくとも保険契約の締結の媒介を行っていると認められる以上、「代理業」に該当するとして、個人事業税の課税対象となると判断、29年9月に課税処分を行いました。
審査会の答申では、まず、次の法令上の規定と取扱いを確認。
1、 地方税法72条の2第3項では、個人事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課するものとされていること
2、「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)(平成22年4月1日付総税都第16号総務大臣通知。以下「取扱通知」という。)によれば、事業を行う個人とは、当該事業の収支の結果を自己に帰属せしめている個人をいうものであり、他の諸法規において雇傭者としての取扱いを受けているということのみの理由で直ちに法上「事業を行う者」に該当しないとはいえないのであるが、「その事業に従事している形態が契約によって明確に規制されているときは、雇傭関係の有無はその契約内容における事業の収支の結果が自己の負担に帰属するかどうかによって判断し、また契約の内容が上記のごとく明確でないときは、その土地の慣習、慣行等をも勘案のうえ当該事業の実態に即して判断すること」とされていること
3、東京都の個人事業税事務提要では、代理業は、①一定の商人のために(原則として特定の者のために)、② 反復継続して行われ、③取引を代理し、又は媒介する、④独立した事業であると認められることが必要であるとした上で、「個人事業税にいう代理業は、通常は、自らが支配、管理することのできる営業所を有し、営業費を支出し、自己の活動形式と労働時間を決定して、そのなした行為について手数料を歩合的に受け取っているものであること。身分的従属関係のみを重視し、実質的に自己の責任において営業行為とみなし得る収支計算を行っている者に対して課税しないことは、課税の均衡を失することとなるため、十分調査を行うこと。」としていること
次いで、主な事実関係を以下のように整理しました。
ア、 確定申告書等によると、Aは会社のために、保険外交員として、保険募集業務及びそれらに関連する業務を行い、会社から報酬の支払を受けていたこと、申告書に職業を「保険外交員」と記載し、報酬の種目を「外交員報酬」とした上で、会社業務に係る当該報酬を事業所得として青色申告により申告していることが認められること
イ、 Aの場合、収入金額の46パーセント余に及ぶ営業費を負担していることが認められること
ウ、青色申告決算書によれば、月ごとの売上金額の最大額と最小額との格差は392万余円に及んでいること
こうしたことから、審査会は「請求人(A)は、会社に対して単に労務の提供を行っているのではなく、自己の危険と計算において独立して事業を行っているものと認められる」としてAにつき、事業を行う「個人」であると認定しました。結局、Aの行う会社業務は「「『代理業』」に該当すると判断するのが相当であり、 法72条の2第3項の第一種事業の『代理業』 に当たるもの」と判断しました。
東京都はこの答申を受けて、Aの請求を棄却しています。
2018年7月から2019年6月までに、東京都では同様の趣旨の裁決が14件あり、いずれも納税者側が負けています。
古くて新しい「不動産貸付業」の規模をめぐる争い
不動産貸付業は、個人事業税において「第一種事業」の1つとして列挙されています(地法72条の2⑧)。具体的には「不動産貸付業」とは、「継続して、対価の取得を目的として、不動産の貸付けを行う事業」をいい、規模の認定は「所得税の取扱いを参考とする」が、「アパート、貸間等の一戸建住宅以外の住宅の貸付けを行っている場合においては居住の用に供するために独立的に区画された一の部分の数が(中略)10以上であるものについては、不動産貸付業と認定すべきものである」とされています(「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」(平成22年4月1日総税都第 16号総務大臣通知)。
この不動産貸付業の認定をめぐっては、これまでもたびたび、納税者と課税当局が争いう場面が見られました。というのも、認定に関する定めは都道府県の条例やその運用を解釈した課税事務提要などで明らかにされていますが、ローカルな基準も含まれているからです。
(東京都の認定基準を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。)
東京都の事例では、納税者が自家用との認識で使っていた「空き室」が、東京都から「貸室」と認定され、「不動産貸付業」にあたるとして事業税が課税されたことから納税者が審査請求を行い、争いとなりました(東京都平成31年2月21日裁決)。
裁決書によると、東京都は次の事実関係を確認し、課税しています。
1、 職員が所得税の申告内容確認のため申告書や収支内訳書を閲覧したところ、収支内訳書の減価償却費の計算の表の「減価償却資産の名称等(繰延資産を含む)」の欄に「貸店舗」及び「貸部屋」と記載があり、この不動産の貸付割合は「100.00」%と記載されていたこと。
2、職員が現地調査を行ったところ、外観及び郵便受けの目視により、1階の店舗3室並びに2階3室、3階3室及び4階1室の住宅部分の合計7室、総合計10室の独立的区画を有する1棟の建物であることを確認したこと。
しかし納税者は、この不動産の4階の1室が空き室であり、自家用として利用しているから「不動産貸付業」の規模に満たないと反論していました。
審理にあたった東京都の審査会は、東京都の課税事務提要では「貸付不動産の室数等の算定に当たっては「空室等であってもこれを含めて算定する。空室等が貸し付ける目的で設けられたものであるかどうかは、当該空室等が減価償却されているかどうかにより判定して差し支えない。」としている」ことを確認。
また審査会は、個人事業税の納税義務者が前年分の所得税につき確定申告書を提出した場合には、事業税の申告がされたものとみなすとされ(地法72条の55の2①)、その場合、確定申告書に記載された事項のうち事業税の申告に必要な事項に相当するもの及び確定申告書に附記された事業税の賦課徴収につき必要な事項は、事業税の申告がされたものとみなすとされている(同法②、③)ことも確認。
このため審査会は、この事案につき東京都が適正に個人事業税を課したものと判断しています。
トラブルを防ぐためには、ローカル又は細かい定めなどがないかどうかについて課税当局に確認することが必要です。
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