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家を相続 首都圏在住の相続人は空き家売却傾向が強い

空き家対策の一環として、平成28年度税制改正で誕生した「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」(租税特別措置法35条3項、以下、空き家の譲渡特例)を適用する相続人が、施行当初の平成28年に全国で4千件規模に上っていることが明らかとなった。適用状況から見えてくる不動産市場の動向について探ってみた。

税制上の特例措置である「空き家の発生を抑制するための特例措置の特例」が創設された背景からおさらいする。

平成28年度税制改正に向けた税制改正で国交省は、「空き家の発生を抑制するための特例措置の創設」という名目で、所得税の10%税額控除制度を要望していた。これは、相続した空き家と敷地を有効活用するため、家屋の耐震リフォームか、家屋の除却の費用負担を軽減する趣旨のもので、相続した空き家の譲渡に際しての特例創設ではなかった。

当時、放置された空き家が増加する中で、空き家対策の基本を取りまとめた「空き家等対策の推進に関する特別措置法」の施行により、空き家の所有者等は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空き家等の適切な管理に努めることとされていた。また、閣議決定された2015年版「骨太の方針」には、「空き家等の適切な管理・利活用を推進する」ことが盛り込まれ、住宅政策上、さらなる空き家対策が求められている状況だった。

国交省の狙いとのズレ

そこで国交省は、1、空き家化している住宅の多くが旧耐震基準下で建築されたものであり、2、相続が原因で空き家が発生するケースが多く、3、耐震改修や、除却には150万円から250万円程度の費用がかかるとの認識から、耐震改修または除却の費用負担を軽減する所得税の税額控除を要望したのだった。

ところが蓋を開けてみれば、税制改正では「空き家の譲渡特例」が創設されることに。これは、相続した空き家を賃貸に出すということが相続人に望まれていたとする調査(空き家所有者アンケート・価値総合研究所)もあったものの、一方で売却希望も声も少なくなかったことが影響したものと推察される。

こうした一連の流れを受け、平成28年度与党「税制改正大綱」では、「適切な管理が行われていない空き家が地域住民の生活環境に悪影響を及ぼしていることを踏まえ、こうした空き家の発生を抑制する観点から、相続により生じた空き家であって旧耐震基準しか満たしていないものに関し、相続人が必要な耐震改修又は除却を行った上で家屋又は士地を売却した場合の譲渡所得について特別控除を導入する」とされた。

一定条件を満たす譲渡とは

創設された空き家の譲渡特例は、一人住まいの親が住んでいた住宅を、その親の死亡に伴い相続した人が売る場合に適用できる優遇税制。所定の要件を満たせば、譲渡所得から最大3千万円を控除する。

適用対象は「相続開始の直前まで被相続人が住んでいた居住用家屋とその敷地」。

適用には①家屋が区分所有建築物でないこと、②昭和56年5月31日以前に建築されたものであること(旧耐震基準)、③相続開始の直前まで同居人がいなかったことの3つの要件を満たすことが必要。適用対象者は、上記の住宅等を相続により取得した個人で、相続した空き家の実家を平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に、一定の要件を満たす譲渡した場合に適用がある。一定の要件を満たす譲渡には、次の2つがあげられる。

  • 空き家の実家を新耐震基準に適合するようリフォームして敷地とともに譲渡する場合

〈2〉 空き家の実家を除却し、敷地のみを譲渡する場合

どちらも、相続してから譲渡するまでに、建物や敷地を相続人が商売などの事業に用いないこと、他への貸付の用などに供していないことが要件となっている。

この空き家の利用制限について国税庁は「一時的に利用されていた場合であっても、事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたこととなることに留意する」「当該貸付けの用には、無償による貸付けも含まれることに留意する」としているようです。

もっとも、相続が開始した日から3年を経過する日の属する年の年末までに譲渡したものに限られ、譲渡対価が1億円超である場合はこの特例の適用はない。

手続き面では、確定申告書に「対象譲渡をした被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋及び被相続人居住 用家屋の敷地等の所在地の市町村長又は特別区の区長の次の事項を確認した旨を記載した書類」(以下確認書といいます。)を付けて申告しなければならない。

 

施行当初の適用は4,488件

平成28年度税制改正で創設された「空き家の譲渡特例」がどれだけ適用されたかを示す最新データがある。国税庁への情報公開により取得したもので、平成28事務年度(平成28年7月1日から平成29年6月30日まで)の間に適用された件数は、4.488件にのぼる。

これは事実上、平成28年中の親からその住宅を空き家で相続した人が、その空き家を譲渡して「空き家の譲渡特例」を適用する旨の確定申告を平成29年3月15日までに行った件数とみて間違いはない。

次の表1は平成28年事務年度の適用件数(国税庁)と確認書数(平成29年3月末まで、国土交通省のデータを国税局管内都道府県ごとでまとめたもの)のデータだ。

表1

図1

適用件数では、東京国税局の管轄地で全体の38%を占め、東京を含めた大阪・名古屋・関東信越の国税局管轄地で全体の80%を占めている(図1)。

一方、カウント時期は若干ずれるが、確認書数の動向と比べると、東京と関東信越で適用件数が確認書数を上回っていることが分かる。

確定申告は、譲渡した相続人の住所地ベースのデータ、確認書は売却した住宅の所在地ベースのデータであることからすると、1、三大都市圏の相続人は相続した住宅を売るケースが多いということ、2、東京、関東信越では、相続人の住所地以外に所在する住宅を売っている傾向が強いことが分かる。

空き家対策の一環として生まれた「空き家の譲渡特例」。相続不動産を新たな市場に引き出す政策としてヒットしているわけだが、今後は東京オリンピックに向け、こうした傾向がさらに強まるのか、注目される。

 

著者: 遠藤純一

タクトコンサルティング 情報企画室課長  

平成3年 エヌピー通信社に入社。 編集局にて「納税通信」担当後、編集長代理を経て副編集長。平成14年 タクトコンサルティング入社。情報企画室にて、情報収集と情報発信を行っている。
■株式会社タクトコンサルティング/税理士法人タクトコンサルティング
https://www.tactnet.com/

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