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「金」で不可解な取引横行 国税当局も税逃れに監視の眼

時価数億円の金が盗難される事件や国外持ち出し等の不可解な事件がマスコミを騒がせている。「有事の金」と言われ、政情不安になると金取引が活発化することに影響しているとの話も聞かれるが、国税当局も税逃れを目的とした金取引に対して厳しい眼を向けている。

1グラムおよそ4800円-

これは平成29年6月現在の金地金の価格だ。
この価格は、10年前の2007年に比べ、約1900円弱も高くなっている。

最近では、電子回路等に利用される実需のみならず、個人が保有するために購入するケースも多いと聞く。世界的な政情不安から、揺らぐ通貨の信頼性を横目に金の価値上昇やペイオフ対策になることから注目されているようだ。

金は紙のお金に比べ、確かに燃えないなど安定的な資産である。しかし、盗難等の怖れがないとは言えない資産でもある。そうした金に纏わる不可解な事件が最近、新聞を騒がせている。摩訶不思議な金の延べ棒の盗難事件をはじめ、国外からの金地金密輸事件などの犯罪だ。

金地金等の取引をめぐっては、いわゆる犯罪資金の洗浄(マネー・ロンダリング)に利用される可能性があることから、犯罪収益移転防止法でその対策が講じられている。併せて、平成24年からは、脱税防止の観点から、法定調書制度の導入が行われた。把握しにくかった金地金などの取引を、国税当局が持てる情報網に取り込み、個人などの譲渡所得税の脱税をけん制、申告書と摺り合わせ申告漏れ指摘の実効を上げるのが狙いだ。

制度の内容は、①金地金を業者に売る際、売る個人などが住所・氏名を告知するのを受けて、取引業者側が本人確認する「告知制度」、②告知を受けた業者に対し、200万円超の対価を払う取引に関する調書を税務当局へ提出する義務を負わせる「調書制度」の2つ。

告知制度は原則、金を業者に売った個人は、対価、いわゆる現金を受け取るまでに、その業者に対して「住所・氏名」を告知、さらに住民票の写しや健康保険の被保険者証、運転免許証などの本人確認ができる所定の書類を提示するもの。業者は、確認に関する帳簿にどんな確認書類が提示され、確認したかを記載し5年間保存することが義務付けられた。

調書制度は、200万円超の金地金を買い取った業者は、取引相手の氏名・住所・対価・重量などを記載した支払調書を税務当局へ提出するもの。

国税庁によると、金地金、白金地金等に係る所得税の調査の実績は次のとおり。

(注) 上段は、対前事務年度比(%)である。

今のところ、目論見通り、効果が上がっていると言ってよさそうだ。

こうしたなか、一連の告知・調書制度導入前夜のどさくさに紛れた事案を国税当局が執拗に追及している姿が浮かび上がってきた。最近の国税不服審判所の裁決事例を見ていくと、こうした傾向が強く見て取れる。

たとえば、金地金の譲渡所得の過少申告を疑われたA氏だが、自分に成りすました別人C氏が譲渡したもので、自分とは関係ないと言い逃れていたケース(平成28年11月17日)。

裁決書によるとA氏は、平成21年から同23年にかけて貴金属等の販売・買取業者の店舗に9回来店し、金地金を業者に売却。代金は同伴した別の来店者が収受していた。しかし所得税の確定申告では、金地金の譲渡所得については記載がなかったという。このため管轄の税務署は、業者や本人に税務調査を行い、申告漏れがあることを指摘したう上、修正申告を勧めたが、A氏はこれに応じなかったため、追徴に踏み切ったという。

税務署と真っ向から争うことになったA氏は、国税不服審判所で「金地金取引は、以前に、ある取引の代金等の一部として金地金を引き渡していたC氏が自分に成りすましたもの。業者の買取票の筆跡はまねされたもので、取引の際の身分証明書として出された運転免許証等は以前のある取引で渡していたもので悪用された」と言い放った。

これに対して国税不服審判所は、「来店者が、請求人の氏名、住所、生年月日、職業等を自書した(中略)買取票を作成して本件店舗に提出した上、応対した店員により、本件来店者が本件各買取票に記載された売主、すなわち請求人と同一人であることが、(中略)本人確認書類と照合することによって確認されていることからすれば、(中略)取引を行った来店者は請求人本人であると認められる」として、A氏の言い分を一蹴している。

また、金地金を専門業者に保管してもらうサービスを舞台にした事例も出ている。

同サービスは、専門業者が製錬した金地金を預かるのが基本。ただ業者によっては、他社製金地金等を持ち込んだときに、持ち込んだ金地金を専門業者が鑑定し、一定条件を満たす場合にだけ買取を行っている。同時に客に、同価値の同社製金地金を購入してもらう両建て取引を行い、そこで客が取得したものを保管してもらう形式だ。

事例はそこで発生した。持ち込んだ個人資産家が、あくまで金は「預けた」という認識で居たためだ。争点は、両建て取引について所得税の取扱い上、いったん売買があったといえるのかと言う点(国税不服審判所平成28年4月8日裁決)。審判所の結論は、交換譲渡があったものとして課税を認めている。現在この事例は裁判に発展している模様だ。

ともあれ、国税当局の執念は相当なもの。今後網にかかるであろう不正な金地金取引の解明にも注目が集まりそうだ。

著者: 遠藤純一

タクトコンサルティング 情報企画室課長  

平成3年 エヌピー通信社に入社。 編集局にて「納税通信」担当後、編集長代理を経て副編集長。平成14年 タクトコンサルティング入社。情報企画室にて、情報収集と情報発信を行っている。
■株式会社タクトコンサルティング/税理士法人タクトコンサルティング
https://www.tactnet.com/

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