国際化がますます進む時代、会計士、税理士に求められることも変化する。ある発表では『今後20年でなくなる業種20』に会計業務がランクインしたそうだが、日本国内と海外を見てきたJグローバルコンサルティング株式会社(日本法人:東京・港区、代表=中川利海税理士 以下、「Jグローバルコンサルティング」)代表の中川利海税理士の見方はそれを否定する。これから海外を目指す若手にぜひとも一読いただきたいインタビューになった。

海外で活躍できる人材に必要な心得は基本的なこと

―「会計事務所」という前置きが入りますが、これまでのご経験から、どのような人材が海外で活躍できるとお考えですか。

中川 われわれ会計士、税理士の仕事は大きく二区分あると思います。ひとつは「監査」のように会計基準通りの正しい数字をゴールとすること、もうひとつは「お客様に喜んでもらうこと」をゴールとすることだと思います。後者はちょっとあいまいですよね。

たしかに、お客様によってニーズも異なります。ただ、共通のニーズも多いです。それは、数字のプロとして経営者の良き相談相手になることなのですが、経済が複雑高度化、IT化などしていく中、それについていかなければなりません。国際化も外せないトピックだと思います。国際化に対応できる会計士、税理士は不足していると感じます。

国際化に対応できる人材になる上で大切なことは、結構基本的なことだと思います。お客様の気持ちに共感して、「なぜこの会社がこれから海外に出なければいけないのか」を理解することです。

たとえば、飲食業、小売業やサービス業の社長には「日本国内では今後売り上げが伸びないから海外に進出しよう」、製造業の社長には「日本の人件費が高い、ないし下請けのため大手についていくので工場を海外に移転しなければいけない」など、いろいろな話があると思うんです。

そんな思いに共感し、理解し、お役に立てられるように一生懸命こちらも勉強しながらアドバイスをする。そんな心構えが必要だと思います。

“国際”の分野で会計士、税理士を思い浮かべると帰国子女のイメージが強いかもしれません。確かに帰国子女は英語はぺらぺらです。

でも、日本企業のオーナーと話すと、気持ちに共感できていないからだと思いますが、全然話が合わないこともよくあります。

 

―気持ちに共感できない理由は何だと感じていますか。

中川 たとえば、帰国子女で海外生活の長い人は、日本の商慣習の中小企業経営者の考え方、行動を理解できない人が多くいるような気がします。

私が「英語がぺらぺらな人」という条件で人材を探しますと、考え方などが海外っぽくて合理的というかドライな人が多い傾向にあります。そういう方はビッグ4やインバウンドがメインの事務所が良いかもしれません。

うちのようにアウトバウンドがメインですと、英語力よりも根っこにあるマインドが一番大事になってきます。

日本の中小企業のお役に立ちたい、人に喜んでもらいたいという気持ちを持っていれば、英語はアジア英語で十分です。実際、中小企業で欧米に進出する会社は多くなく、アジアが大半ですから。

あとはビビらず積極的に自分から話すことが大事です。外国人は空気読んでくれませんから(笑)。とにかく、英語よりも日本語で日本人経営者ときちんとコミュニケーションをとることが最重要です。

 

―コンサルティングなどの人と接する仕事では、コミュニケーション能力は重要だと皆さんが言っていますね。

中川 コミュニケーション能力は本当に大切です。ほかに信頼関係を築くには先生商売じゃダメで、社会人の基礎として、きちんと挨拶するとか、時間や期日を守るとか、身だしなみをきちんとするとか、いろいろな要素があると思います。

会計事務所の国際サービスの仕事は大きく二区分あります。インバウンドとアウトバウンドです。インバウンドがメインの事務所なら、TOEIC900点以上の能力を活かしてしっかりした英語能力のある会計人材が重宝されると思います。

私の事務所はアウトバウンドがメインです。お客様は基本的に日本人社長。これから海外に出て行こうとか海外に進出済みで海外子会社もきちんと管理運営していきたいと考えていたりして、海外子会社を含む連結ベースでの相談にのってもらいたいと考えています。

最後はやっぱり信頼関係とコミュニケーション能力が求められると思います。

 

―これからの若手が目指すべきキャリア像はどのようなものでしょうか。

中川 目指すべきは、国際サービスの業務も担える『総合コンサルタント』ですね。3つの要素があるように思います。

  • お客様のお役に立つ
  • 人間として誠実で正直で、親身に対応する
  • 専門家として国際的見地を加えて総合的アドバイスをする

国際的見地というのは、ビジネスの国際化をふまえて、たとえば会計でいえば、海外子会社側の財務諸表を日本基準に読み替えてみる。

たとえば税務でいえば、各国にそれぞれの税制や二国間の租税条約が存在することを前提にした上で、移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、出国税などの国際税務に関する知識です。英語が必要な場面も出てきます。

 

―国際税務を学ぶ機会はどのように作ればいいとお考えですか。

中川 私が2008年に国際部を立ち上げたときも、2013年にシンガポール事務所を立ち上げたときもそうでしたが、初めから全部できる人なんていません。

そこはOJTを通じて「まず制度趣旨を理解した上で、ポイントはここ!」ということをひとつひとつ積み重ねていかなければなりません。私も日々勉強を続けています。

日本と海外で活躍する中川先生からメッセージ

 

―これからの若い人にアドバイスはありますか。

中川 これからはIT知識と英語力が欠かせなくなるので勉強しておくことをお勧めします。

私は正直ITは得意なほうではないのですが、必要性を強く感じます。最近日本では「freee」や「MFクラウド」が有名ですね

。海外では「QuickBooks」など数社が同様のシステムを導入しています。こういったソフトでは記帳代行は人が行わずITが自動化して、仕訳を完了させます。

仕訳が完了すれば、今や元帳はもちろん、決算書まで一瞬で作成できてしまいます。

 

―アメリカの確定申告では、AI技術で申告する試みもありますね。

中川 そのうち日本もどんどんそうなっていくと思います。これからの人に誤解してほしくないことは、記帳代行やその延長の決算申告のような書類作成業務は徐々に減っていくかもしれませんが、グローバル化などの難しい課題に対する経営者の悩みに応える業務はなくならないということです。

経営者と信頼関係を築き、コミュニケーションをしっかりとり、提案型のビジネスモデルを構築することが大切だと思います。

お客様の気持ちに共感し、理解して、能動的に提案するという姿勢はAIではできないことです。こうしたサービスがこれからの会計業界ではますます必要とされていくのではないでしょうか。

このようなコンサルティング分野は会計業界においてもますます増えていくと感じますし、実際やってみるととてもやりがいがありますね。


Jグローバルコンサルティング株式会社 代表取締役
東京税理士会会員相談室相談委員(国際税務担当)
税理士 中川 利海(Toshimi Nakagawa)

櫻井会計事務所、KPMG税理士法人国際部を経て、2004年より株式会社AGSコンサルティング国内部にて非上場企業・上場企業に対して、経営管理支援、上場会社会計税務支援などに従事。その後、2008年に同社国際部創設、日本企業に対するアウトバウンド会計税務支援に従事。2013年に同社シンガポール事務所の創設、在シンガポール日系企業に対して、会計・税務支援、シンガポール企業に対して、対日投資支援などに従事。2016年 Jグローバルコンサルティンググループを創業し現職。2017年 東京税理士会会員相談室相談委員(国際税務担当)就任。

■Jグローバルコンサルティング株式会社
http://jglobal.co.jp/


 

■インタビュー
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