今回は、タックスヘイブン対策税制が改正されたことにより企業の実務に与える影響について検討します。企業にとって大きな影響がある項目としては『受動的所得の範囲の拡大』『推定規定の導入』『ペーパーカンパニー等の会社単位の合算課税制度の創設』が挙げられます。これらの改正により、事務負担の増加や合算対象となる所得の増加などが懸念されますので十分な注意が必要です。
5 実務上の留意点
タックスヘイブン対策税制が改正されたことによる実務上の主な留意点として、以下のものが考えられます。
留意点1 部分合算課税の対象となる受動的所得の確認が必要となる。
受動的所得(従来の「資産性所得」)に対する部分合算課税の規定は、平成22年度の税制改正で導入されたものですが、今回の改正により部分合算の対象となる受動的所得の範囲が従前より拡大しました。
したがって、これまでは部分合算の対象となる受動的所得がなかった外国関係会社であっても、今後は部分合算課税の対象となる可能性もありますので注意が必要です。
留意点2 「経済活動基準」を満たすことを明らかにする書類の整備が必要となる。
今回の改正で、いわゆる「推定規定」が導入されました。これは、国税当局の職員が内国法人に、その外国関係会社が経済活動基準を満たすことを明らかにする書類等の提出を求めた場合等において、期限までにその提出がないときは、その外国関係会社は経済活動基準を満たさないものと推定するというものです。
この「推定規定」が導入されたことによりにより、今後は子会社が行っている経済活動の内容を示す一定の書類等の作成が必要となり、事務負担の増加が見込まれます。
留意点3 租税負担割合が20%以上30%未満の国に外国子会社がある場合には、ペーパーカンパニー等に該当しないかどうかの確認が必要となる。
今回の改正により、租税負担割合が30%未満の国や地域に所在する「ペーパーカンパニー」「事実上のキャッシュボックス」「ブラックリスト国所在のもの」などの3つの類型に当てはまる外国関係会社が合算課税の対象となりました。したがって、従来は合算課税の対象とならなかった租税負担割合が20%以上30%未満の国に外国子会社等が存在する場合には、これら3つの類型に該当しないかどうかの確認が必要となります。
以下の表は、法人税率ごとの主な国・地域を示しています。法人税率20%以上30%未満の国の中で注意すべきは「オランダ」でしょう。日本企業の中には、オランダを使ってタックスプランニングを組んでいる企業が見受けられます。これまでは、租税負担割合が20%以上の場合にはタックスヘイブン対策税制の対象外でしたが、今後は、オランダのように租税負担割合が20%以上の国であっても、株式の配当や預金・債券の利子などの受動的所得の割合が高い「キャッシュボックス」などに該当する場合には会社単位の合算課税が行われることとなります。
今回のタックスヘイブン対策税制の改正は、BEPSプロジェクトの『行動計画3:外国子会社合算税制の強化』の内容を踏まえたものです。今後、各国ともBEPSの議論に対応すべく様々な税制改正が行われるものと思われます。我が国のみならず他国の改正の動向にも注視する必要があります。