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元国税庁国際担当官 多田恭章の海外取引に関する税金知識:判決・裁決紹介 海外に出国した個人が居住者と認定され、タックスヘイブン対策税制を適用された事例

近年、タックスヘイブンを使った租税回避に厳しい目が向けられています。今回の事案は、「個人」に対してタックスヘイブン対策税制が適用された事案です。納税者は、生活の本拠は海外にあり、「非居住者」に該当するためタックスヘイブン対策税制は適用されないと主張しましたが、日本での滞在日数等を総合勘案した結果、日本の「居住者」と認定され、タックスヘイブン対策税制が適用されました。(平成18年5月29日裁決)。

事実関係

個人Xは、F国等に所在する外国法人の代表取締役等の地位にあり、G国(軽課税国)に本店を置くH社に50%超の出資していた。
税務調査において、Xは、F国に住所があり日本の居住者には該当しないと主張した。しかし、国税当局は、Xは日本法人の代表取締役の地位にもあり、その職務を遂行するために日本に居住する必要があり、客観的事実を総合的に勘案すれば、Xは日本に生活の本拠を有しており、居住者であると判断した。その上で、H社にタックスヘイブン対策税制が適用され、H社に留保されていた一定の利益を雑所得とする課税処分を受けた。
Xは、当該課税処分に不服があるとして、審査請求をした。

【納税者(個人X)の主張】

【国税当局の主張】

審判所の判断

(1)個人Xは、日本の居住者に該当するのか?
所得税法上、居住者とは「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」をいうと規定されている。
また、国内に住所を有する個人とは、国内に生活の本拠を有する個人をいい、生活の本拠であるかどうかは、その者の住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の有無及び所在、所有する資産の所在並びに国内外の滞在日数等の客観的事実を、総合的に勘案して判定するのが相当とされている。
審判所は、以下の事実関係を総合的に勘案し、Xの生活の本拠は日本にあるとして、Xを居住者と認定した。
①Xは、日本においても内国法人の代表取締役の地位にあり、その職務を遂行するために日本に居住する必要があり、実際に日本においてXが所有する自宅に配偶者とともに居住しているのであるから、日本においても職業上及び私生活上居住する必要があったと認められる。
②Xの日本国内滞在日数は、平成13年は171日、同14年は247日であり、F国に滞在した日数は、平成13年は29日、同14年は40日と、Xが生活の本拠地であると主張するF国の滞在日数を日本に滞在した日数が大幅に上回っており、相対的に見て日本に滞在する職業上又は私生活上の必要性が優っていたと認められる。
③生計を一にする配偶者が日本に生活の本拠を有していた。また、Xは日本に自宅及び賃貸用不動産を所有する一方、F国においては不動産を所有していなかった。

(2)タックスヘイブン対策税制は適用されるか?
Xは、上記のとおり、日本の居住者に該当する。また、H社は軽課税国であるG国を本店所在地とする外国法人であり、Xは発行済株式総数100,000株の50%を超える50,998株を所有している。
以上から、審判所はXに対してタックスヘイブン対策税制が適用されると判断した。

コメント

パナマ文書やパラダイス文書が公開されたことにより、「タックスヘイブン」という言葉が注目されているが、日本ではこのタックスヘイブンを使った租税回避を防止するための制度として「タックスヘイブン対策税制」がある。
このタックスヘイブン対策税制は、法人のみに適用されるわけではなく、日本の「居住者」である個人に対しても適用される。
よって、日本居住者である個人が軽課税国に法人を設立し、利益を軽課税国に留保していると、タックスヘイブン対策税制が適用される可能性がある。タックスヘイブン対策税制が適用されと、海外子会社の所得のうち持分割合に相当する金額を「雑所得」として総合課税されることとなるため、軽課税国を使った節税の効果はほとんど失われることとなる。
海外出国し非居住者となれば、タックスヘイブン対策税制は適用されないが、今回の事案のように税務調査によって居住者と認定されてしまうと、遡ってタックスヘイブン対策税制が適用されてしまうので、居住者・非居住者の判定は慎重に行う必要がある。

著者: 多田恭章

租税調査研究会 主任研究員

元国税庁国際業務課主査。
中小企業に対する税務調査や国際税務に関する経験等をフルに活かし、企業の方々の抱える疑問や不安を少しでも解消できるよう、適切なアドバイスをしていきたい。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
https://zeimusoudan.biz/

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