税理士法人が社員と所員(所員等)を対象として行った海外旅行の費用を福利厚生費として計上したところ、国税当局は所員等の受けた経済的利益は給与等に当たるとして源泉所得税の課税処分をしました。税理士法人側は審査請求しましたが、処分は適法であるとの裁決が下されました(平成30年5月18日付、非公開裁決)。

本事案の事実関係
- 税理士法人(以下「X社」)は、6泊7日(現地5泊及び機中1泊)の日程で海外旅行(以下「本件旅行」)を企画し、実施した。
- X社は、旅行時において3名の社員及び14名の所員が在籍していた。各社員はいずれも税理士法第48条の4《社員の資格》に規定する社員であることから、法人税で規定する役員に該当する。また、各所員は、X社の使用人に該当する。
- X社は、所員等の全員(17名)に本件旅行への参加の希望を募り、その結果、本件旅行には社員のうち2名(以下「本件社員」)、所員のうち8名及び社員の家族1名の合計11名が参加した。
- 本件旅行は、現地に滞在中、終日自由行動とされていたが、搭乗する航空機及び宿泊するホテルはあらかじめ指定されていた。
- X社は、本件旅行に要した費用のうち渡航費及び宿泊費の合計額を負担し、福利厚生費として処理した。
- 国税当局は、所員等が受けた経済的利益は給与等に当たるとして、源泉所得税の課税処分等を行った。X社は処分の取り消しを求めて審査請求を行った。
レクレーション費用に関する通達等
所得税基本通達36-30《課税しない経済的利益‥使用者が負担するレクリエーションの費用》では、使用者が役員又は使用人(以下「従業員等」という。)のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した従業員等が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった従業員等(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない旨定めています。
また、「所得税基本通達36-30《課税しない経済的利益‥使用者が負担するレクリエーションの費用》の運用について」(法令解釈通達)では、使用者が、従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うこととするが、次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えないものとしています。
- 当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による。)以内のものであること、
- 当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等の50%以上であること
審判所の判断
- 本件旅行は、従業員等である所員等及びその家族に対する慰安旅行であり、これは基本通達の定めるレクリエーション行事に当たる。
- 本件旅行の日程が6泊7日(現地5泊及び機中1泊)にわたり、X社が負担した参加者一人当たりの旅行費用の金額が高額(金額は不開示)であることからすれば、社会通念上一般的に行われていると認められるレクリエーション行事ということはできない。
- したがって、本件参加者が受けた本件旅行費用に係る経済的利益は、基本通達にいう「課税しなくて差し支えない」ものには当たらず、旅行費用に係る経済的利益は、参加者それぞれに対する給与等に該当する。
- X社の社員は、法人税法上の役員に該当する。社員が受けた旅行費用に係る経済的利益は給与等に該当し、また、当該給与等は法人税法に規定する定期同額給与、事前確定届出給与又は利益連動給与のいずれにも該当しないため、社員が受けた旅行費用に係る経済的利益の合計額は、X社の損金の額に算入することはできない。
コメント
社員旅行費用については、「4泊5日以内」「全従業員の50%以上が参加」という要件を満たしたとしても、金額が高額と判断された場合には、社会通念上一般的に行われているものとは認められず、給与課税されることとなります(本事案の場合には6泊7日なのでその時点で通達の要件を満たしていません)。金額については明確な基準がありませんが、一般的には10万円以内が無難かと考えられます。
また、不参加者がいる場合の取り扱いにも注意が必要です。自己の都合で旅行に参加できなかった人に金銭を支給すると、参加者も合わせた全員に不参加者への金銭支給額と同額の給与の支給があったものとして課税されてしまいます。