国税当局が海外取引や国外財産の情報を収集するための手段の一つが「租税条約に基づく情報交換」です。国税庁は「平成28年事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を発表しました。それによると、情報交換件数は前年より大幅に増加しており、情報の集積は着々と進んでいるようです。

■情報交換事績の概要

国税庁は、「平成28年事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を発表しました。それによると、情報交換の3類型(要請に基づく情報交換、自発的情報交換、自動的情報交換)のすべてにおいて、情報交換件数が前年より伸びており、着実に情報収集が進んでいることが分かります。

(注1)「要請に基づく情報交換」は、税務調査において、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、必要な情報の収集・提供を外国税務当局に要請するもの。具体的には、海外法人の決算書等、契約書、インボイス、銀行預金口座取引明細書などの他、外国税務当局の調査担当者が取引担当者に直接ヒアリングして得た情報などが入手できます。
(注2)「自発的情報交換」は、調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するもの。
(注3)「自動的情報交換」は、法定調書から把握した非居住者等への支払等 (利子、配当、不動産賃借料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価等)についての情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付するもの。

上記の事績から明らかなように、海外から日本に提供された情報の件数が大幅に増えており、各国の税務当局間での協力・連携が一層強化されたことの表れと言えます。これにより、これまでは発覚しなかった国外財産に関する申告漏れが今後明るみに出る可能性が高まるでしょう。確定申告時期を迎えるに当たり、申告漏れがないように十分に注意したいところです。

■情報交換を活用した事例

国税庁がこれまでに発表した情報交換を活用した事例を紹介します。

(事例1)情報交換制度を活用し、架空の支払手数料を把握した事例
内国法人の法人税調査において、その製品輸出先であるA国の居住者Bに対して支払ったとする手数料に不審点が見受けられたため、A国税務当局に対して、当該手数料の会計上の処理の確認を要請した。A国税務当がBに接触し、手数料の会計処理を確認した結果、内国法人が支払ったとする金額とBが実際に受領した金額に大きな差があり、内国法人の計上した支払手数料が架空のものであることを把握した。

(事例2)情報交換制度を活用し、架空の売上値引きを把握した事例
調査法人は、機械の製造及び販売を営む法人である。調査法人は、Y国の取引先A社に対し、正規の金額で機械販売をしたにもかかわらず、納品した機械に欠陥があり、売上値引きをしたと仮装することにより、所得金額を圧縮していた。
調査において、取引先A社に対する売上値引き処理について不審点が見受けられたため、真実の取引実態を把握するために、Y国税務当局に対し、A社の経理処理等について租税条約に基づく情報提供の要請を行った。Y国税務当局がA社に接触し、取引実態を確認した結果、機械の購入に関して調査法人の主張する値引きの事実はなく、調査法人が架空の売上値引きを計上していた事実を把握した。

(事例3)情報交換制度を活用し、非居住者が国内不動産の譲渡で得た所得を把握した事例
日本国内の不動産を譲渡したことにより所得が生じた場合、非居住者であっても、 日本において確定申告をする必要がある。
非居住者A(X国の居住者)について、不動産の移転登記資料から譲渡所得を得ていることが想定されたが、日本において申告をしていなかった。 このため、X国税務当局に対し、非居住者Aについて情報提供を要請し、調査を進めた結果、非居住者Aは、日本国内の不動産をY国の居住者Bに譲渡しており、その譲渡により所得を得ているにもかかわらず、その申告をしていない事実を把握した。

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租税調査研究会事務局
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