国税庁から「平成28年分の国外財産調書の提出状況」が公表されました。制度の導入から4年目の平成28年分は、提出件数は9千件を超える9102件となり、財産の合計額は3兆3015億円と前年より増加しました。一方で、国外財産から生ずる所得の申告漏れ事例も増えているようです。
■国外財産調書の提出状況
国外財産調書制度は、その年の12月31日において、その価額の合計額が5千万円を超える国外財産の保有者に対し、翌年の3月15日までに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書の提出を求めるものです。
昨年12月に国税庁より「平成28年分の国外財産調書の提出状況」が公表されました。
提出件数は増加したものの、まだまだ未提出者は多いものと推定されます。国税庁では、国外財産調書の提出を要すると見込まれる者や記載内容に不備がある者に対して文書照会等を継続するとしています。
なお、平成28年分について、財産の種類別の金額は次の通りであり、有価証券が最も多く、全体の51.8%を占めています。
≪財産の種類別総額(平成28年度分)≫
■申告漏れ事例
【事例1:国外財産調書の記載内容から不動産所得・利子所得の申告漏れが把握された事例】
日本の居住者である調査対象者が税務署に提出している国外財産調書の記載内容から、 調査対象者がX国に不動産と銀行口座を保有している事実を把握したものの、国外不動産については不動産所得の申告が、国外預金については利子所得の申告が無かったため調査を実施しました。 調査の結果、不動産登記情報等から調査対象者はX国に保有する不動産を貸付の用に供しており、不動産所得の申告が必要であることが判明しました。また、X国に保有する国外預金から利子が発生しており、利子所得の申告が必要であることが判明しました。
(コメント)
国外財産調書に記載された財産と、確定申告書で申告された所得との整合性は必ずチェックされるでしょう。海外に預金や不動産を保有しているにも関わらず、それらから生じた所得が申告されていなければ当然、申告漏れが疑われます。
預金の利子については、国内において支払いを受ける利子については源泉徴収で課税が完結する源泉分離課税が採用されていますが、海外で開設した預金口座の利子については、日本で源泉徴収する仕組みはないため、利子所得として他の所得と合算して確定申告しなければなりません。
【事例2:外国当局からの自動的情報交換資料から海外の預金利子、不動産譲渡益の申告漏れが把握された事例】
X国からの自動的情報交換資料により、調査対象者が保有する海外の預金に係る利子が生じている事実を把握したため、詳細を解明すべく調査に着手しました。 調査の結果、調査対象者は、X国の銀行に多額の預金を保有し、その預金から生じた利子が申告漏れとなっていたことが判明しました。 また、調査の過程で、海外に所有していた不動産を売却している事実を把握したため、 不動産売却に関する書類を確認したところ、不動産の譲渡益が発生し、申告漏れとなっていたことが判明しました。
なお、調査対象者は、3億円以上の国内財産、5千万円超の国外財産を保有しているにも関わらず、財産債務調書及び国外財産調書を提出していなかったため、各調書の提出を求め、提出を受けるとともに、国外財産に係る申告漏れに対して加算税を5%加重し賦課しました。
(コメント)
「自動的情報交換」は、法定調書から把握した非居住者等への支払 (利子、配当、不動産賃借料、給与・報酬等)についての情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付するものです。昨年、国税庁が発表した情報交換事績によれば、海外の税務当局から日本の税務当局へ提供された自動的情報交換の件数は前年比1.8倍と増えており、今後こうした情報を端緒とした申告漏れの把握件数は増えるものと見込まれます。
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