国外財産に係る所得税や相続税の課税の適正化を図るため、国外財産の保有状況について提出を求める「国外財産調書制度」が平成26年1月に施行されています。富裕層に対する税務調査も年々厳しくなっており、国外財産の申告漏れ事例も増えています。

《ケース》

私は平成27年3月に海外の金融機関に定期預金を開設し、毎年利息を受け取っています。保有している国外財産の総額を計算したところ、5千万円を超えていましたが、これまで国外財産調書を提出していませんでした。また、私は以前から国内にマンションを保有しており、不動産所得があったため、毎年確定申告していましたが、海外の定期預金の利子については申告不要と思い、確定申告には含めていませんでした。

今後、どのように対応したらよいでしょうか。また、国外財産調書制度には、インセンティブ措置があると聞きましたが、それはどのような制度でしょうか。

 

 

 

 

■国外財産調書制度の概要

近年、経済のグローバル化により、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題となりました。こうした状況を背景として、国外財産を保有する納税者本人が、その保有する国外財産について申告する仕組みとして国外財産調書制度が創設され、平成 26 年1月から施行されました。
この制度では、その年の 12 月 31 日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除きます。)は、翌年の3月 15 日までに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければなりません。

ここで、「国外財産」とは、「国外にある財産をいう」とされており、「国外にある」かどうかの判定は、基本的には相続税法第10条の規定によることとされています。

例えば、①「不動産又は動産」はその不動産又は動産の所在、②「預金、貯金又は積金」は、その預金、貯金又は積金の受入れをした営業所または事業所の所在、③「有価証券等」は、その有価証券を管理する口座が開設された金融商品取引業者等の営業所の所在、とされています。

■インセンティブ措置とは

国外財産調書は、納税者が自主的に国外財産についての情報を記載し提出するものでるため、適正な提出を促すためのインセンティブとして、過少申告加算税及び無申告加算税(以下「過少申告加算税等」といいます。)の特例措置や罰則が設けられています。

  • 過少申告加算税等の軽減措置

国外財産調書を提出期限内に提出した場合には、国外財産調書に記載がある国外財産に関して、所得税又は相続税の申告漏れが生じたときであっても、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%減額されます(国外送金等調書法6①)。

  • 過少申告加算税等の加重措置

国外財産調書を提出期限内に提出しなかった場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合(記載が不十分と認められる場合を含みます。)に、その国外財産に関して、所得税の申告漏れが生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%加重されます(国外送金等調書法6②)。

なお、この「加重措置」は、相続税及び死亡した者に係る所得税については適用されません。

  • 罰則

国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合又は、正当な理由がなく提出期限内に国外財産調書を提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金が科されます(国外送金等調書法10)。

■提出期限後に提出された国外財産調書の取扱い

提出期限を過ぎて国外財産調書を提出した場合、上記の特例措置や罰則の適用はどうなるのでしょうか。

この点については、提出期限後に国外財産調書を提出した場合であっても、その国外財産に関する所得税等又は相続税について、調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その国外財産調書は「提出期限内に提出されたもの」とみなして、上記の過少申告加算税等の優遇措置又は加重措置の特例を適用することとされています(国外送金等調書法6④)。

■今後の対応

国内において支払いを受けるべき利子については源泉徴収で課税が完結する源泉分離課税が採用されています。しかし、海外で開設した預金口座の利子については、日本で源泉徴収する仕組みはないため、他の所得と合算して確定申告しなければなりません。

したがって、《ケース》の場合、海外の定期預金の利子が所得税の申告漏れとなっているため、平成27年分以降の所得税の修正申告をするとともに、国外財産調書を期限後提出すべきといえるでしょう。

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