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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~国税通則法の煽動罪と、平和の扇動者チャップリン~

国税通則法126条1項には「煽動」をした者に対する罪が設けられています。平成29年度税制改正により改正された同規定は、いよいよ本年4月1日より施行されますが、同条項にいう「煽動」とは、果たしていかなる意味を有するのでしょうか。国税犯則取締法の廃止とともに国税通則法内に創設された同条項について、今回は、「平和の扇動者」であるチャップリンの名演説と併せてこの規定を考えてみましょう。

平和の扇動者チャップリン

世界中で多くの人に愛された喜劇王、チャールズ・チャップリン(Charles Spencer Chaplin,1889年4月16日-1977年12月25日)は、昨年、没後40年の節目を過ぎ、生誕129年を数えています。さて、チャップリンの数々の名作の中でも、1940年のアメリカ映画『独裁者』〔原題:The Great Dictator〕は国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)のアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler, 1889年4月20日-1945年4月30日)のファシズムを皮肉った名作として有名です。ヒトラーといえば、周知のとおり、ドイツ国民にアーリア民族の選民思想、反ユダヤ主義を説き、第二次世界大戦へと向かわせ、障碍者に対するテーフィア(T4)作戦(安楽死作戦)や、ユダヤ人に対する強制収容所におけるホロコーストを実施した独裁者でした。ヒトラーの扇動者としての能力は、事の是非を措けば、たぐい稀なるものであったと評されもしましょう。激情的でエネルギッシュなアジテーションは、多くの国民の支持するところになったのですから。
さて、そのヒトラーを滑稽に描いたチャップリンは、映画の中で、次のように演説をしています。

You the people have the power, the power to create machines, the power to create happiness.
You the people have the power to make life free and beautiful, to make this life a wonderful adventure.

あなた方皆さんは力を持っている。機械を作り出す力を、平和を作りだす力を!
この人生を素晴らしいものとするために!人生を自由に、そして美しくするための力もあなた方は持っているのだ!

Then in the name of democracy, let’s use that power – let us all unite.
Let us fight for a new world, a decent world that will give men a chance to work, that will give youth a future and old age a security.

「民主主義の名のもとで」その力を使おう!私たちは集結しよう!
新しい世界の為にさあ戦おう! そこでは、人々には仕事を、若者には未来を、老人には保障を与えよう!

世界の解放のために戦おうと、チャップリンはその映画のラストシーンで演説をぶっています。チャップリンもまたその映画の中では見事に扇動者を演じているのです。チャップリンは生前、自身を「平和の扇動者」だと語っていたようです(朝日新聞平成29年4月16日付け朝刊「社説」)。

虚偽の申告等を煽動した者への罰

ところで、人の心を揺るがせ、扇り、その気にさせるような扇動煽動という行為は、近年、租税法の世界でも注目されています。平成29年度税制改正では、国税犯則取締法が廃止され、その見直しとともに国税通則法内に諸規定が設けられたことが注目されましたが、その際に創設され、本年4月1日より施行される同法126条1項の「煽動した者への罰」はとりわけ注目すべき規定といえましょう。

すなわち、同条項は、「納税者がすべき国税の課税標準の申告(その修正申告を含む。以下この条において『申告』という。)をしないこと、虚偽の申告をすること又は国税の徴収若しくは納付をしないことを煽動した者は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。」と規定しており、扇動者に対して懲役刑又は罰金刑を科すこととしているのです。

果たして、どのような者がこの条項の適用を受けることになるのでしょうか。虚偽の申告等による税金対策を提案する税理士などの租税専門家はこの対象となり得るのでしょうか。条文上、具体的に対象者が限定されていないことから、その範囲を巡っては議論が起こると思われます。同条項の創設議論に関する情報は十分に明らかにされていたのでしょうか。その検討のための情報は乏しいといわざるを得ないようにも思われ、今後の実際の運用状況を注視していく必要があると考えます。

「民主主義の名のもとで」この規定はどのように議論され、今後いかに適用されていくのでしょうか。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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