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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~法律名の変更~

社会の変容に対応すべく、既存の法律改正の際、法律の題名が変更される場合があります。例えば「証券取引法」から題名変更された「金融商品取引法」は、投資性の強い金融商品を幅広く対象とする横断的な利用者保護法制の構築や、開示制度の充実、取引所の適正な運営の確保などを目的に、法改正がなされています。今回は法律の題名変更にスポットを当てて、国税通則法の改正議論を振り返ってみましょう。

法律題名の変更

最近の法律題名の変更といえば、平成18年に題名が改正された「金融商品取引法」が記憶に新しいでしょう。

「金融商品取引法」は、従来の「証券取引法」の題名が改正されたものですが、その際、金融先物取引法、外国証券業者に関する法律、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律、抵当証券業の規制等に関する法律の4法が廃止されるとともに、全89法律の改正とその一部が金融商品取引法に統合されることになりました。
このような題名変更は、租税法の世界でもあるのでしょうか。

原油及び輸入石油製品、ガス状炭化水素(石油ガス:LPG及び天然ガス:LNG)並びに石炭に対して課される税金に石油石炭税がありますが、これを規定する「石油石炭税法」の前身は「石油税法」です。
平成15年度の税制改正により、旧名の「石油税法」から法律の題名が変更され「石油石炭税法」となりましたが、これにより、新たに石炭に対する課税がなされることとなり、また、LPGやLNGに対する税率が引き上げられました。

幻に終わった国税通則法の題名変更

このような改正のほか、実現にこそ至りませんでしたが、民主党政権下では、国税通則法の題名変更に関する議論がなされました。

平成22年12月16日に閣議決定された「平成23年度税制改正大綱」は、第1に「納税環境整備」として次のように謳っていました。

「納税者の立場に立って納税者権利憲章を策定するとともに、税務調査手続の明確化、更正の請求期間の延長、処分の理由附記の実施等の措置を講じることとし、国税通則法について昭和37年の制定以来、最大の見直しを行います。」

具体的には、「納税者の立場に立って納税者権利憲章(以下『憲章』といいます。)を策定します。」とし、「国税通則法について、第一条の目的規定を改正し、税務行政において納税者の権利利益の保護を図る趣旨を明確にします。さらに、憲章の策定を法律上義務付けることとし、その策定根拠、憲章に記載すべき事項を法定するとともに、各種税務手続の明確化等に関する規定を同法に集約します。同法の法律名が改正後の法律の内容をよく表すものとなるよう、題名を変更します。」として、「納税者権利憲章の策定」とそれを端的に表すような題名への変更を論じています。

これを受けて、平成23年度税制改正関連法として提出された「所得税法等の一部を改正する法律案」では、国税通則法が「国税に係る共通的な手続並びに納税者の権利及び義務に関する法律」に変更されることとなりました。

しかしながら、その後、平成23年10月11日政府税制調査会は、「東日本大震災からの復興のための事業及びB型肝炎対策の財源等に係る税制改正大綱」において、国税通則法改正の取扱いについて、「納税者権利憲章の策定等(『納税者権利憲章』の作成・公表、国税通則法の題名変更、同法の目的規定の改正)については、見送ることとする。」とし、国税通則法の題名変更は見送られることになったのです。

ここでは、「政府は、国税に関する納税者の利益の保護に資するとともに、税務行政の適正かつ円滑な運営を確保する観点から、納税環境の整備に向け、引き続き検討を行うものとする。」とされ、国税通則法の名称変更の提案は保留とされ、引き続きの検討事項とされたわけです。

そのため、平成23年法律第114号として成立した「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」では、国税通則法の題名変更に係る部分が内閣修正によって削除されています。

法律の題名は、その法律がいかなる法律かを端的に表す手段として、最も重要であると思われます。
小職も、上記の民主党政権での議論以前から、国税通則法を、題名変更のみならずその性格付けとしても「国税基本法」化すべきと主張してきましたが(酒井克彦「国税通則法を国税基本法へ」税務事例40巻12号24頁以下(2008)、同「納税者の権利保護と事前手続の充実策─国税基本法制定の提案に向けて」慶応法学12号1頁以下(2009))、法律の題名変更は、その法律の性質決定にも大きな影響を及ぼすものですから、その改正のハードルは相当高いものといえましょう。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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