租税の専門家として使命と責任を負う税理士は、国民の信頼を受けて、租税行政の一翼を担っています。今日では、税理士も自身の事務所等の広告を行うことが解禁されていますし、書籍を販売したり、セミナーを実施することもありましょう。そのような際に、一般の消費者や納税者の判断を誤らせないような慎重なる態度が求められることはいうまでもありません。
「カップ焼きそば」は「焼きそば」か?

唐突ですが、「カップ焼きそば」は焼きそばでしょうか?
焼きそばをそばを炒めた(焼いた)ものだと定義するとすれば、「カップ焼きそば」は焼きそばとは思えません。しかしながら、筆者が食べたそれの容器の表面のどこにも「焼きそば風」などとは書いてないですし、堂々と「カップ焼きそば」と表示されています。「カップ焼きそば」とはそういうものなのだといえばそれで済むのかもしれませんが、問題は、消費者がそれを誤解するかどうかという点にあるのではないでしょうか(筆者は「カップ焼きそば」のネーミングに文句をいうつもりはなく、慣れ親しんだ商品名であって問題はないと思っています。)。
税理士の広告等とその信憑性
ところで、税理士法において税理士の広告行為が解禁されたのは、平成13年のことです。
こうして広告行為が認められるようになった今日において、税理士が自身の執筆する書籍や事務所のHPや広告で、例えば「タワーマンションで節税ができます」とか、「逆ハーフタックスプランによる保険契約を使って節税が可能です」などと断定的に謳うことは許されるのでしょうか。
これについては、その内容の信憑性が問われることになると思われます。
街の書店では、必ずしも税理士が書いたものではないと思われますが、「脱税」をすすめるかのような表現を採用した書籍も販売されています。景品表示法上の誤解誘因の問題はここでは取り上げませんが、その表示された内容や広告によって読み手である納税者に誤解を生じさせた場合の責任問題には注意が必要です。
そもそも信憑性のないゴシップ記事
ここで、内容の「信憑性」について問題となった興味深い判決を紹介したいと思います。いわゆるロス疑惑を巡る報道に係る損害賠償請求事件において、東京地裁平成4年9月24日判決(判時1474号77頁)は、「被告Nのリポート記事の類は社会的事象を専ら読者の世俗的関心を引くようにおもしろおかしく書き立てるものであり、東京スポーツの本件記事欄もそのような記事を掲載するものであるとの世人の評価が定着しているものであって、読者は右欄の記事を真実であるかどうかなどには関心がなく、専ら通俗的な興味をそそる娯楽記事として一読しているのが衆人の認めるところである。そして、真摯な社会生活の営みによって得られる人の社会的評価は、このような新聞記事の類によってはいささかも揺らぐものでないこともまた経験則のよく教えるところである。
したがって、このような評価の記事欄に前記のような内容の記事が掲載されたからといって、当時の原告が置かれていた状況を合わせ考慮すると、記事内容が真実であるかどうかを検討するまでもなく、原告の社会的地位、名誉を毀損し、あるいは低下させるようなものと認めることは到底できないものというべきである。」と判示しています。
すなわち、東京スポーツの記事内容について、それが真実であるかどうかについては読者は関心がないから、記事内容が真実であるかどうかを検討するまでもなく、記事内容から社会的地位や名誉の棄損を認めることはできないとしたのです。
「税理士の広告であるから、真実であるかどうかについて検討するまでもない」などということになってはならないのは当然です。税理士の広告がゴシップ記事のような扱いをされてしまっては、税理士全体の品格について疑念が生じてしまうことでしょう。税理士の広告は、「カップ焼きそば」の容器などとは違うのですから。