国税庁は、2018年6月までの1年間(2017事務年度)において実施された相続税の税務調査の結果を発表しました。海外資産に関連した調査件数は、1,129件と集計を始めて以降で最多、申告漏れは70億円と前年比で約3割増加しました。

海外資産に関する調査を重点的に実施
2017事務年度における実地調査の件数は12,576 件、このうち申告漏れ等の非違があった件数は 10,521 件で、非違割合は83.7%となった。すなわち、調査が行われた事案のうち約8割で申告漏れが見つかったことになる。
国税当局は海外資産に関する調査を重点的に実施している。海外資産に関連した調査件数は、1,129件と集計を始めて以降で最多となり、申告漏れは70億円と前年比で約3割増加した。北米やアジアに保有する資産を適正に申告していないケースが多く見られたようだ。

CRSは富裕層にとって脅威?
国税庁は、CRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)により日本人が海外の金融機関に持つ約55万口座について、外国税務当局から情報提供を受けている。
今後は、納税者の資産運用の国際化に対応するため、CRS情報を積極的に活用し、海外資産の申告漏れの把握に努めるとしている。
税務署では、CRS情報を基に国外財産を適正に申告しているか厳しくチェックし、申告内容に疑問がある場合には、お尋ね文書を発送したり、税務調査が行われることになる。
新聞報道
以下は2018年12月14日の日本経済新聞の記事の一部である。
国税当局による国外財産の情報収集が着実に進んでいく中、富裕層サイドも対策に向けて動き出している様子がよく分かる。
国税・富裕層 国境なき戦い
「申告していない海外資産がある。相談できますか?」。N税理士法人には富裕層からの問い合わせが年間で数十件寄せられ、現在も相談が相次ぐ。タックスヘイブンとして知られるバージン諸島などに数億円規模の預金や債券を保有しているケースが多いという。同法人の代表税理士は「海外だから、ばれないだろうという意識はもう通用しない時代になってきた。今後も海外資産に関する問い合わせは増えてくるだろう。」とみる。
相談急増の背景には、経済協力開発機構(OECD)で策定されたCRS(共通報告基準)という新制度に18年から日本が参加したことにある。各国の税務当局が、自国の金融機関に外国に住む顧客(非居住者)の口座を報告させ、交換できる制度だ。顧客の住所、口座残高などを対象となり、隠し口座の発覚など、海外資産が「ガラス張り」になる可能性がある。
海外の税逃れに対する包囲網が狭まる中、対策を講じる動きも活発化している。「あなたの口座情報を日本の国税当局に提供します」。17年ごろから、海外の金融機関に口座を持つ日本の富裕層などに、こんな趣旨の手紙が届いている。金融機関がCRSに基づき顧客情報を税務当局に報告することの確認を事前通知しているとみられる。
富裕層を顧客に持つプライベートバンカーによると、手紙を受け取った人の中には、海外口座を解約する人や新制度では報告対象とはならない海外不動産に資産を組み替える人もいるという。都内の弁護士は「手紙が届いて、慌てて資産回避先を相談してくるような人もいた」と明かした。