有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人などの、いわゆる「富裕層」に対する税務調査が強化されており、海外取引を行っている富裕層の場合には調査による追徴税額も多額となる傾向があります。今回は、近年、新聞報道された国外財産が絡む申告漏れの事例を紹介します。

国税庁では、いわゆる「富裕層」による資産運用の多様化・国際化が進んでいることを背景に、税務調査を強化しています。

国税庁がこの度発表した「平成28事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について」によれば、平成28事務年度においては、富裕層に対して4188件の調査を実施し、1件当たりの追徴税額は304万円で、所得税の実地調査1件当たりの追徴税額154万円の約2倍となりました。とくに、海外取引などを行っている富裕層に対しては、533件の調査を実施し、1件当たりの追徴税額は772万円ととくに高額となった模様です。

今回は、新聞報道された国外財産が絡む申告漏れの事例をいくつか紹介します。

平成27年4月30日 日本経済新聞

『2012年に死去した直木賞作家K氏の遺族3人が東京国税局の税務調査を受け、遺産相続した株の評価額や配当金など20数億円の申告漏れを指摘されていたことが29日、分かった。相続税と所得税の追徴税額は過少申告加算税などを含め計約9億円。3人は既に修正申告し、納税した模様だ。

関係者によると、K氏は建設機械メーカーのHが中国に設立した関連会社2社の株を保有する香港法人の大株主で、多額の配当金を得ていた。

K氏は12年5月に88歳で死去。妻と長男、長女の3人は香港法人の株式を相続財産として申告したが、東京国税局は遺族側による株式の評価額は実態より約8億円低いと指摘。申告漏れは他の財産と合わせて10数億円に上った。

また、3人は13年までの2年間にこの株の配当約10億円を受け取っていたが、所得として申告せず、妻と長男は国外財産として報告もしていなかった。』

平成27年3月28日 毎日新聞

『半導体商社「X」株を巡るインサイダー取引事件で逮捕・起訴されたT被告が、国外に多額の財産を保有していたのに、法律で義務付けられた「国外財産調書」を提出していなかったことが分かった。T被告は東京国税局から2013年までの3年間に約1億円の申告漏れを指摘され、このうち国外財産関連分の所得について、通常より5%多い15%の過少申告加算税を課された模様だ。調書不提出による加重制度の適用が明らかになるのは初めて。

[…]関係者によると、シンガポールの関連会社に総額約20万米ドル(13年末の当時のレートで2千万円超)の貸付債権を保有。預金も含めた国外財産は5千万円を超えていた。5千万円超の海外資産は「国外送金等調書法」により税務署への届け出が義務づけられているが、期限の14年3月までに調書を出さなかった。

T被告は11〜13年、国外財産のうち、貸付債権の一部(貸付金の利子収入)やT被告が代表を務めていた台湾やシンガポール、アメリカなどの現地法人から報酬など約1億円の所得について、日本で税務申告していなかった。海外納税分を引いた所得税の追徴税額は、加重された過少申告加算税を含め約2千万円という。』

平成27年10月22日 産経新聞

『韓国の大手銀行「新韓銀行」(ソウル)の株を保有する在日韓国人らが大阪国税局の税務調査を受け、平成25年までの3年間で受取配当金など計約15億円の申告漏れを指摘されたことが22日、分かった。[…]

関係者によると、申告漏れを指摘されたのは関西のパチンコ関連企業の経営者ら数人。新韓銀行の口座で管理していた同行株式の配当や株の売却益、預金の利息を日本で申告していなかったもようだ。韓国で納税していたため、日本で納税義務があるとは知らなかったのが原因という。

国内の居住者は国籍を問わず、国内外の資産や所得が日本で課税対象になる。従来は、国外での調査権限を持たない国税当局は富裕層が国外で得た資産や所得を把握するのが難しかった。今回は日韓の租税条約により提供された銀行口座の情報と、国外財産調書を照らし合わすなどして所得を把握した。』

国税当局は、海外との資金のやり取りや国外財産についての情報を収集するため「国外送金等調書」「国外財産調書」等の法定調書に加え、「租税条約等に基づく情報交換制度」を活用して情報収集を行っています。そうした情報と申告内容とを照らし合わせ、申告漏れがあると想定されると税務調査に移行する可能性が高まるでしょう。


 

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