いよいよ確定申告がスタートします。サラリーマンは基本的に年末調整で済みますが、なんらかの事情があって年末調整を受けていなくても、確定申告によって税額が精算されます。2020年(令和2年)の確定申告期間は、同年2月17日(月)〜3月16日(月)まで。この期間内に、2019年(令和元年)分の会計結果を税務署へ報告(確定申告)します。 第1回の今回は、医療費控除について解説します。

1、医療費控除

Q: 医療費控除は、1年間に支払った自分を含めた家族の医療費が「一定の金額を超えた場合」に、確定申告すれば、その年の所得から差し引くことができるとされていますが、10月に娘が結婚しました。それまで(1~9月末)の医療費は結構支払っているので、結婚するまでの医療費は合算して計算しても良いのでしょうか?

→医療費控除の一定額の計算式は「実際に支払った医療費-保険金などの補てん分-10万円」となっており、所得が200万円未満の場合は「所得の5%」となります。この「実際に支払った医療費」には、自分自身の医療費だけではなく、家族の医療費も含めることができます。所得税法では、「納税者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費」は医療費控除として申告できると規定されているのです。

そのため娘が「生計を一」(せいけいをいつにする)にした期間、この場合であれば1月〜9月末までに支払った医療費は、医療費控除の対象となります。合算して計算して問題ありません。注意したいのが、「生計を一」の考え方です。その線引きに関しては100%の明確な基準があるわけではありません。

所得税法といった国が定めた法律では明らかにしていませんが、国税庁が定めた所得税基本通達2-47には「生計を一」について、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではなきとしています。通達では、

(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

と定められています。つまり、家族が学業や仕事などで離れて住んでいても“金銭面で生活を援助”しているときは「生計を一」に該当するとされるのです。

この“金銭面の生活を援助”をしている事実を証明するためには、銀行振込や現金書留で送金をして、振込票や通帳、書留領収書を残しておく必要があります。

振込票や通帳などは年末調整や確定申告で提出しませんが、税務署から問い合わせが来たときのために証明ができるようにしておかなければなりません。

一方で、両親と二世帯住宅などで同じ建物に住んでいても、「明らかに独立した生活」をしていれば、「生計を一」とみなされません。

 

Q:昨年、子どもを無事出産したのですが、そのときに「出産手当金」を受けました。確定申告に際して、医療費控除について調べていたら、対象となる医療費のなかから、「保険金等で補填される金額」は除かなければいけないという説明がありました。確定申告で医療費控除を受けす場合、「出産手当金」は医療費から差し引かなくてはいけないのでしょうか?

→医療費の支出に関連して、健康保険組合や共済組合などが健康保険法により支給するものはいくつかありますが、「保険金等で補填される金額」に含まれるものには、
・ 高額医療費
・ 出産育児一時金
・ 配偶者出産育児一時金
・ 療養費
があります。これらに関しては、支出した医療費から控除しなければなりません。

また、健康保険組合などからの給付金でなくても、生命保険契約に基づく入院給付金や医療保険金についても支出した医療費から除かねばなりません。

しかし、ご質問の「出産手当金」については、医療費を補填する保険金等にはあたりませんので、支出した医療費から控除する必要はありません。「傷病手当金」も同様です。
というのも、両方とも出産や傷病のために勤務ができず、給与の一部が支給されないことを理由に給付されるものなので、「医療費の支出の事由を給付の原因として給付されるもの」とは性格が違うためです。

では、出産手当金と傷病手当金を両方とも受けることはできるのかという疑問ですが、どちらも生活費の保証のための健康保険制度なので、どちらか一方が支給されれば生活を保証することになり、両方を受けることはできないことになります。

健康保険法では、出産手当金と傷病手当金の両方を受給できる場合には、出産手当金を優先的に支払うとされており、もし傷病手当金が先に給付されていた場合については、出産手当金がその期間については給付されたとみなされる記載されています。支給額は傷病手当金と同様に標準報酬日額の2/3です。

 

Q:昨年、大病をして、多額な医療費がかかってしまったので「高額医療費制度」を利用しました。高額医療費制度を利用した場合、確定申告の医療控除との併用は可能でしょうか?

→高額な医療費を払ったときは、確定申告の医療費控除を受けられるほか、高額療養費制度を利用し、医療費の一部の払い戻しを受けることもできます。
医療費控除と高額療養費制度は、どちらか片方しか使えないというものではなく、併用することも可能です。

高額療養費制度は、同一月の医療費の自己負担額が高額になった場合に申請により自己負担限度額を超えた額が支給される制度です。月の1日から末日までの間に、同一人物が同じ病院で支払った医療費を合計し、2万1千円を超えた場合に高額医療費の計算の対象となります(70歳以上の方は2万1千円に満たなくても対象となります)。

また、同じ健康保険に入っている家族の医療費も、同一月に2万1千円を超えれば合算が可能です。注意が必要なのが、高額療養費は“同一月内”で計算するので、月をまたいでの入院の場合は、医療費の金額により高額療養費制度の対象となりません。なお、高額療養費の支給期限は、診療を受けた月の翌月の初日から2年間となっています。

さて、医療費控除と高額療養費制度は併用して利用できると説明しましたが、確定申告する際には、1年間に支払った医療費から高額療養費制度で還付された額を差し引いて申告しなければなりません。なぜなら、医療費控除の計算方法で控除される「保険金などで補填される金額」に該当するからです。

 

Q:医療費控除を受けようと考えていますが、総所得金額が200万円以下の場合、適用要件が変わると聞きました。具体的に教えてください。

→医療費控除が受けられるのは1年間(1月から12月)の医療費が10万円を超えた場合が基本とされています。医療費としては、「病院での診療」「治療」「出産」などです。ただ、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額とされています。
そのため、総所得金額が100万円なら、「100万円×5%=5万円」となります。

 

Q:過去に治療で高額な医療費がかかっていたのですが、そのときに医療費控除の確定申告をしていません。今回、過去に遡って医療費控除は受けられますか?

→基本的には、過去5年間であれば遡って確定申告することで医療費控除を受けることができます。たとえば、今年の確定申告(2019年12月まで)であれば、2014年から2018年の5年分は遡って確定申告書を提出できます。なお、この場合に使う確定申告書には還付申告用といった特別な様式があるわけではなく、通常のもので大丈夫です。給与所得者なら申告書A様式を使います。

ただし、その年分の確定申告がすでに終わっていると、対応方法が異なってきます。いったん確定申告書を提出したとなると、税額が過大で還付を受けたい場合は「更正の請求」をすることになります。

注意が必要なのが、更正の請求も「いつまで遡れるのか」という点です。
法定申告期限が2011年12月2日より以前か以降か2区分です。このいずれかによって、遡れる期間が1年か5年に分かれます。
2011年12月2日より前だと、1年しか遡れませんが、同年12月2日以降だと、5年遡れます。

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