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【シリーズ】独立若手公認会計士の日常 1.俺、監査法人辞めるわ

主人公である26歳若手公認会計士が監査法人を辞めた勢いで独立し、せっかく安定したのに再就職して自分の居場所をだんだんと見つけていくフィクションライフスタイル。
この物語に登場する人物や団体、事象はフィクションです。

1.俺、監査法人辞めるわ

俺は大手監査法人に努める若手公認会計士。学生合格で監査法人に入社してもう5年目。上場会社の主査も経験してシニアスタッフとして代わり映えの無い日常を送っている。

監査法人での仕事の条件を考えてみると、正直、この安定した生活も悪くはない。いつか結婚して、子供が出来て、ライフワークバランスとかいうものを考えていくなら寧ろ美味しい職業だろう。昔はブラックな組織だったらしいが諸先輩方の苦労のおかげで残業が是とされないくらいの組織風土になっている。残業代は稼ぎにくくなったが一般事業会社の同年代と比べると悪くはないだろう。決して良くもないが。

修了考査を終えた2年ほど前から同期がだんだん辞めている。既に残っているのは3割ほどだ。勢いのある奴はCFO候補としてベンチャーに就職していったり、独立しやすい税務経験を身に付けるために税理士事務所に修行に出ていったり、コンサルティング会社に就職していった。専門性を高めたいマニアックな奴らは相続税や国際移転価格税制などが得意な税理士事務所にこれまた修行に出ていった。

俺はというと今の監査という仕事の専門性については、正直なところ面白みは感じていない。社会に必要な仕事であることはよく理解していて、扱われる立場としても悪いものではないから仕事自体に大きな不満があるわけではない。

順番に辞めていった同期達とたまにやる飲み会で会うと、いつも羨ましくは思っている。水を得た魚のように活き活きとしているからだ。聞く話は全部イメージできるものだし、そいつ自身が特別ラッキーな境遇でもないのだろう。だから自分も辞めたらきっとそんな風な仕事を経験できるのだとは思う。

それでも監査法人という安定感と、これまで学生合格で、ある意味『社会』を経験してきていない自分としては慎重になってしまっている。辞めると言ったら親なんかはまず反対しそうだ。監査法人に残るということが悪いことではないはずなのだが、「監査法人に残ってしまっている」、「早く卒業しなきゃいけない」という漠然とした焦燥感は修了考査を合格した後の同期が辞め始めてからずっと感じている。自分は出遅れているのではないかと思うくらいだ。

そんな最中、また監査業界で不正が起きた。もちろん全く関わっていなかったが、公認会計士というだけで身の回りからも事件についてたくさん聞かれた。監査業界に身を置く者としての難しさや、やるせなさを感じた。監査業界を卒業した面々は「俺の仕事には関係ないぜ」と自分の仕事に打ち込んでいて強く思えた。実際、転職していった同期達は日に日に社会人としてみんな強くなっていっているのではないかと感じる。

監査をしていてもクライアントは一般企業の方が多いので、いわゆる一般の社会人の方々と接することも多いが、監査する側、される側という立場の上で話しているせいかフランクにはならない。まあフランク過ぎてはよくないとも思ってはいるが。

監査は作業的には大変なことも多々あるが、いわゆる仕事で本気でぶつかるというようなことが無い。ぶつからないにしても、ベンチャーが新しい売り上げを追いかけるような不確実な状況の中で成し遂げていくような切磋琢磨もない。このあたりの感覚について、(監査法人の)ソトに出ていった同期達は「今日はあんなことがあって」、「今度はあんなことがあって」活き活きと『自分事のリアル』を語っている。決まった手順書を進めている感じはみじんも感じられない。

これでも俺だって学生時代は部活でスポーツに打ち込んできて、熱い方だと思っている。プライベートもフェスに行ったり、フットサルに行ったりと活動的に過ごしているつもりだ。監査法人以外の友人たちも多い。

だけど1日の大半を占める仕事という時間が作業の連続に感じてしまっているため、自分の軸を感じられず熱さを持てないのだ。監査はロジカルに基準に従って進めていくものなのだから当然と言えば当然だし、そこに社会的な価値や存在意義があることも理解している。しかし、言ってしまえば自分の監査に対する熱さが足りない。こなしていけば終わってしまう安心感に物足りなさもあるのだ。

焦る必要性もないが募りに募っていく物足りなさや焦燥感。そんなとき同期で既に独立して成功している奴から珍しく飲みの誘いをもらった。行ってみると、単刀直入に「独立して仕事を手伝ってくれないか」との話だ。世の中にフリーランスが増えていて確定申告の引き合いが止まらなく、手が足りないということだ。

誘われた働き方は公認会計士ではなく税理士だ。その人生も悪くないと思う。個人で生きていくという意味では公認会計士よりも汎用性があり優れた生き延びるスキルだとすら思う。

しかし、くだらないプライドで、せっかくより難易度の高い公認会計士を合格して修了考査までクリアしているのに、相続税や国際移転価格税制など難易度が高いと言われている分野ならまだしも、わざわざフリーランス向けの所得税を中心とした対応の税理士になるのは気が引けた。なので今の仕事に物足りなさを感じて転職もぼんやり考え始めていたが、せっかくの誘いだったが断った。

断りはしたが凄い奴だ。まだ独立して2年目なのにお客さんが引く手あまたということなのだから。そこまで口が上手くて営業センスがある奴という印象ではなかったが、人はわからないものなのかもしれない。他の独立した同期達の「今」もだんだん興味が沸いてきた。今まで同期の飲み会があっても他人事と聞いていたが、ちゃんと聞いてみたいと思った。そんな風に思っていると、監査法人で働き続けることは少なくともないなと思った。

そんな風に感じた翌日、自分でも不思議なくらい自然と直属の上司に話せた。前からいつかは辞めると思うことは話していて「俺もなー、」と言っていてくれていた方だったからかもしれない。とは言えさっそくパートナー面談となり止めが入った。もう少し勉強してからでもいいんじゃないかと言われた。ただ監査法人で勉強しても監査法人でしか役に立たないと感じてしまっていたので、逆に固まってしまい、早々に辞める旨を告げることができた。

引き留めを一度振り切ると淡々としたもので、辞める時期、引継ぎ、有休消化の段取りと着々とここもまた監査のように事務的に進んでいった。同期がスムーズに転職していっていたのをたくさん見ていたので、次の会社の目途もついていないところだったがあまり不安はなかった。入っている監査チームに近い数の送迎会も開いて頂いた。嫌いになって辞めるわけではないから縁は大切に残しつつ、立つ鳥後を濁さないように注意を払ったつもりだ。名残惜しさもなく、次も決まっていないためワクワク感もさほどなかったが、学生からの社会人未経験の俺を育てて頂いた組織ではある。ようやく次のステージに踏み出せる安堵と振り切れた自分の気持ちに晴々しさはあった。


次章『2.監査法人辞めた後の選択肢はなんだ』は近日公開!

【youtuberとしても活動中:お金のカラクリ侍

著者: 松本ゆうや

公認会計士

立命館大学卒。34歳。大手監査法人を修了考査合格直後に転職、会計系コンサルティングファームへ。財務調査、IPO、事業再生、不正調査対応といった会計業務を経験しつつ、新規事業開発やマーケティング支援まで幅広く経験し独立。独立してからコンサルティング業務を中心にしつつ、自ら飲食店や広告代理店も経営し、ベンチャー役員参画、多様なコンテンツ開発を自社で行うなど多角的に活動。フリーランスの公認会計士の立場からお金のカラクリ侍としてYouTubeも開設している。
◆youtube:お金のカラクリ侍
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