国外財産による課税逃れを封じるため、近年、国税当局は日本人が海外に保有する国外財産に対する監視体制を強化しています。令和2年度税制改正においては、国外財産に関する資料を提出しない場合の罰則規定が盛り込まれるなど、国外財産の税逃れにさらなる包囲網が敷かれています。

書類の提示等がない場合の罰則の創設

令和2年度改正では、海外に資産を持つ富裕層を対象に課税逃れへの監視を強化するための新制度が盛りこまれています。その一つが国外財産に関する書類の提示等がない場合の罰則の創設です。

国外財産を有する者が、税務当局から国外財産調書に記載すべき国外財産に関する資料(取引明細などのフロー情報等)の提示等を求められた場合において、その求められた日から60日以内で当局が指定する期限までに提示等をしなかった場合、申告漏れに対する加算税を以下の通りとする特例が創設されました。

・調書記載の国外財産に係る分についても加算税の軽減措置は適用しない

・調書不提出・記載不備に係る分の加重措置については、加算する割合を10%とする

 

この改正は、令和2年分以後の所得税又は令和2年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用されます。

改正前と改正後を比較すると以下の表のようになります。

(出典:財務省資料)

国外財産調書では12月31日時点の国外資産の残高を報告することとなりますが、金融資産の残高が増えていたとしても、それが不動産や株式などの売却収入によるものなのか、本人が保有する別口座からの資金移動等によるものなのかを判別することはできず、課税漏れの摘発に直接つなげることは難しい面がありました。

今回の改正では、金融口座の取引履歴などの提示を促すインセンティブを与えることにより、CRS(共通報告基準)等で得られた情報をより効果的に活用し、課税漏れの効率的な把握に繋げようとしたものといえます。

そのため、納税者としては、税務調査があった際に速やかに提示できるよう、申告段階から国外財産に関する関係資料を作成・保存しておくことが不可欠となります。

相続税に係る過少申告加算税等の特例の見直し

国外財産調書の提出がない場合等の加算税の加重措置の適用対象に、相続国外財産(相続又は遺贈により取得した国外財産)に対する相続税に関して修正申告等があった場合が加えられました。

また、相続国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合に、過少申告加算税等の特例が適用されるか否かの判定の基礎となる国外財産調書は以下の通りとなります。

国外取引等の課税に係る更正決定等の期間制限の見直し

現行制度では、法定申告期限から一定の期間(一般的に5年、偽りその他不正の場合は7年等)が経過すると、申告漏れが確認されても更正・決定はできません。

令和2年度改正では、税務当局が納税者に国外取引又は国外財産に関する書類の提示等を求めた場合において、納税者がそれらの書類を税務当局が指定する期限までに提示・提出しなかったため、税務当局から租税条約等の規定に基づき外国税務当局に情報提供要請がされた場合(※)、その情報提供要請から3年間、更正・決定を行うことができることとなりました。

(※)税務当局から納税者に対し、情報交換要請の事実を通知した場合に限ります。

この改正は、令和2年4月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます

 

【今後の運用のイメージ】

(出典:財務書資料)

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