主人公である26歳若手公認会計士が監査法人を辞めた勢いで独立し、せっかく安定したのに再就職して自分の居場所をだんだんと見つけていくフィクションライフスタイル。この物語に登場する人物や団体、事象はフィクションです。

前章『2.監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~③自己分析した状況を踏まえて選択肢をよく考えてみる~』

(関連記事)

・第1章 俺、監査法人辞めるわ

・第2章① 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~①そもそも俺は何がしたい~

・第2章② 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~②公認会計士としてキャリアを積んできた俺の強みはなんだ~

・第2章③ 監査法人辞めた後の選択肢はなんだ~③自己分析した状況を踏まえて選択肢をよく考えてみる~

 

転職キャリアを考えるにあたり、自分の好き嫌いなどの判断軸と、公認会計士のビジネス素養と監査という特殊な業務環境で得た経験から勝負するための強みを認識した。自分を分析できたところでキャリアについて選択肢を検討し、キャリアへの“適性”を考えた。

本章『3.勢いでなんか独立してみた』

色々とキャリアを検討してみたが目移りする。キャリアを考えるようになった原点に戻ってみよう。監査法人を辞めた理由は、自分が能力をフル発揮して気持ちよくチャレンジできる組織環境で働きたいからだ。そして自分の強みは最難関国家資格と呼ばれるハードな公認会計士の資格を合格まで乗り切れた胆力と時間管理術、そして監査法人で培った公認会計士としての業務経験によるビジネス分析力やバックオフィスの専門能力、関わってきた業界に関する専門知識だ。

 

これらを踏まえたうえで次のキャリアまでのスケジュールを考えてみる。

一般的に正社員としての転職は、退職したら半年以内に次の会社に就職しているペースでないと価値が下がると言われている。理想は3カ月ほどで転職を完了させるとよいとされているようだ。

まず、求人を集めて実際にエントリーし、書類選考が通る期間を考えると1カ月。複数社で採用試験を受けるとなると、面接が各社2~3回あり、先方のスケジュールもあるので、面接だけでも2~3カ月は見ておく必要がある。となると、どんな形で働きたいか絞る過程には退職してから2カ月ほどしか時間がとれない。悠長にいったん気分転換で世界一周にいってきますとかは言っていられないのだ。

公認会計士とはいえど、正社員として転職をしていくなら基本的には同じだ。こういったスケジュールが求められるのは【転職に対するスタンス】が採用に影響するからだ。よほど合理的な理由がない限り、かなり重要な要素になる。簡単に言えばどのくらい働く気があるのか、合理的に転職に向き合っているのかを見定められるということだ。

もちろん、公認会計士ならではの要素もある。公認会計士はいわゆる高度専門職である。このため、本当に実務に役立つ特別なスキル習得や一度独立をチャレンジしたなど、そういった前向きな取り組みであれば強みとして良い印象を持ってもらいやすい。ただし、中途半端なことをしていれば残念にしか見えないので、【公認会計士に箔をつけるチャレンジ】が求められる。

今のままのスキルや経験でもいわゆるエリートとして条件が良い転職をしていけるだろう。しかし今回のキャリアは焦って決めたくない。監査法人卒業というタイミングは、これからのビジネスマンとしての自分のキャリアの大きな羅針盤となるからだ。

退職して1カ月ほど経っても羅針盤が定まらずにいた。自己分析をして自分の好き嫌いや強み、転職キャリアへの適性を理解したからと言ってスッと決められるものではないようだ。判断基準はわかってきたが、どの選択肢も良し悪しがあり、大事な選択となるとなかなかに優柔不断になってしまっている。

モヤッとしていたら、監査法人の退職前に「独立して仕事を手伝ってくれないか」と声を掛けてくれた元同期がまた誘ってきてくれた。優柔不断なところではあるが、手伝って欲しいと言われる仕事が税務であり、自分の適性としても目指したいキャリアとしても好ましいものではなかったので断ろうと思ったが、今回はM&Aの財務調査の仕事をスポットで2カ月ほど手伝って欲しいとのことだった。

M&Aとは、「Mergers(合併)」and 「Acquisitions(買収)」の略語だ。買収先の財務状況をチェックしてほしいという依頼だ。買収がまとまるための判断材料として使われるため長期間の調査ではなく、スピードも要求されるが、影響が大きいため正確さも当然に求められる。特に普段から関わっている先を調査するわけではなく、ゼロから調査をするので難易度が高い。一人でやり切れる量ではないのでチームで取り組む。

売上が20億くらいの会社で、現場でのヒアリングや調査を2~3人ほどで4日ほど、事前のすり合わせや報告会など調査以外のクライアント対応で2日ほど、資料をとりまとめて修正対応もすると4日ほどを要する。さらに、細かい質問などをメールや電話などのオンライン対応で2日ほどと、全体で2カ月程度のスケジュール感だが、実稼働量で言えば合計で12日間もあれば足りる案件だ。

経費を除いた報酬として60万円での協力依頼である。日当で言えば5万円とフリーランス公認会計士として自分で営業したわけではない案件としたら悪くない。

加えて、キャッシュとしての条件よりも監査法人の人間としてではなく、フリーランスの立場で案件に携われるという経験が嬉しい。転職活動にも支障がないほどのスケジュールであるし、是非やらせてほしいと快諾した。

とは言え、財務調査ばかりしているわけにもいかないので、履歴書や職務経歴書を書き進めながら、求人票を得るために職業紹介会社に登録にいった。公認会計士は特殊な仕事であるため専門の人材紹介会社があるらしい。そういったところに登録してみた。一般の職業紹介会社では特殊な技量やマインドを持った公認会計士という存在について理解していない担当者がつく可能性があるが、専門なのであれば安心だし、話が早い。求人も将来のキャリアを見据えて提案してくれる。担当者からは、紙だけでは感じづらいようなキャリアの志向性や能力を把握するためのヒアリングがあり、適性を理解してもらってスタートした。そこからは求人票をもらって持ち帰り、必要に応じて質問をしてエントリーし始めた。

エントリーはそれなりに通った。面接も問題なく、すぐに来て欲しいと言ってもらえる企業さえいくつか見つかった。中途採用の公認会計士はニーズが高いらしい。しかし、エントリーして面接までした癖に、自分としてはしっくりこなくて内定を辞退してしまった。

このまま転職活動を継続しても同じことの繰り返しになってしまう。夢を見すぎなのか、でもその夢が何かすらもまだピンと来ていない。頑張ってくれた職業紹介会社の担当者には申し訳ないが、少し転職活動を保留にしてみることにした。

保留にしてどうしたかというと、財務調査の仕事もこなしつつ、監査法人ではないところで働いている元同期や、大学時代の友人や社会人の友人のベンチャーで頑張っているやつらなどとの飲みニケーションに時間を費やすことにした。実際に働いているやつらの生の声が聞きたかったのだ。監査法人退職から1カ月経ったころから毎日のように飲み歩くようになった。

よくそんなに飲む相手がいるなと思われそうだが、この手の動きが活発なやつらは飲みニケーションをとても大事にするようで、仕事も飲みで繋がっているようだ。知見を広げたいから面白いやつがいる飲み会に声を掛けてくれと残していくと、お誘いがたくさんもらえるようになった。

そして、その飲み会はとても面白いのだ。そもそも活発にチャレンジするやつらだから清々しくて、努力が出来る。人間性が高いというのはこういうやつらのことをいうのだろう。少しぶっ飛んでいて危なかっしいやつや、どう考えてもビックマウスなやつもいるが、行動してチャレンジしているという意味では俺に理解できないだけなのだろう。とりあえずそういうやつらも付き合って飲んでいる。一言で言えば面白いからだ。

また、そういうやつらが心配で仕方なくなってしまい、飲みながら気づいたらむしろ色々と教えている。もちろんそれについて報酬が取れるわけではないが、ベンチャーとは言え、経営者をやっているのにそんなことも知らないのか思うことがたくさんあるのだ。医者で言えば目の前に患者がいるのに放っておけないようなイメージだ。

すぐに転職することは辞めたことだし、何よりフリーランスとして経験をたくさん積むことによってキャリアで見えてなかった何かに近づける気がしていた。不安定ないつ受託できるかわからない財務調査などの公認会計士らしい仕事だけを追いかけるのではなく、ひとまず目の前に来た仕事は出来るだけ追いかけるようにした。

気づくと、監査法人を退職して5カ月目でフリーランス公認会計士としてなんとか食っていけるように安定していた。今している仕事がしたかった仕事かと言われれば、バックオフィスの万事屋のような状態で理想ではないが、フリーランスとして自立して食っていけるようになったという経験は大きい。スキルとしては特別アップしたつもりはないが、ビジネスパーソンとしての大切な何かを得ている気がするのだ。勢いからの成り行きに近い形で独立したが悪くない。

 


次章『4.食いつなげる仕事、いや食いつなげた仕事というべきか』は近日公開!

【youtuberとしても活動中:お金のカラクリ侍

 


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