新型コロナウイルス感染症の影響によるストレスの増加やメンタルヘルス不調は、個人の問題だけでなく、組織の問題でもあります。組織として従業員のメンタルヘルスを保つ取り組みを、健康経営という観点からも見ていきます。

■メンタルヘルス不調と組織の損失
新型コロナウイルス感染症の流行によって、外出自粛などによる制限や環境変化、先行きの不安からストレスが増大して、メンタルヘルス不調の相談が増えています。個人のメンタルヘルス不調は、組織の問題も引き起こします。メンタルヘルス不調が深刻になると、うつ病などにつながって休職や離職という事態になりかねません。このような仕事を休業している状態を「アブセンティーズム」と言います。アブセンティーズムは、組織の生産性低下や人員不足といった問題につながります。
休職や離職に至っていなくても、心身の不調を抱えながら仕事をしている状態を「プレゼンティーズム」と言います。プレゼンティーズムの状態にあると、仕事のミスの増加、作業効率や集中力の低下といった問題が起きやすくなります。「仕事のやる気が起きない」「あまり考えがまとまらない」「仕事で人と会うのが苦痛」といった状態になりやすいです。
厚生労働省の「コラボヘルスガイドライン」では、メンタルヘルスの問題を含む健康リスクによって従業員を低リスク、中リスク、高リスクに分けた場合のコスト(損失額)を算出しています。これによると、低リスクのグループでは、プレゼンティーズムによる平均年間損失が1人あたり約50万円となっています。中リスクや高リスクのグループでは、1人あたりの平均年間損失は約70万円になると推定されています。

■メンタルヘルス不調の対策
従業員がプレゼンティーズムの状態になると、生産性が低下し企業としてコストが発生します。そして、プレゼンティーズムは、将来的なアブセンティーズムにつながる可能性があります。そのよう観点からも企業としてメンタルヘルス不調への対策が重要です。
まずは、従業員のメンタルヘルスの状態を把握する必要があります。それには、ストレスチェックの実施が有効です。ストレスチェックについては、「コロナウイルス禍でのストレスとストレスチェック」の記事を参照ください。自分で自分のメンタルヘルスを保つ「セルフケア」についても紹介しております。
また、ストレスを感じている自覚のある人、ストレスチェックで高ストレスと判定された人が相談できるように、企業として相談窓口の設置が重要です。中小企業では、内部に相談窓口を設けるのはリソース的に難しいでしょう。内部の人には相談しにくい内容もあるかもしれません。産業医と契約している事業所では、そちらでメンタルヘルスの相談を受け付けてくれる場合もあります。公的な相談窓口としては次のようなものがありますので、これらの相談窓口を従業員にアナウンスして紹介するのもよいでしょう。
厚生労働省が行っているメンタルヘルスのポータルサイト事業です。電話やメール、LINEでメンタルヘルスに関する相談をすることができます。
独立行政法人労働者健康安全機構が運営しており、全国47の都道府県に設置されています。窓口相談や電話相談などを受け付けています。
心の病気について相談することのできる支援機関であり、各都道府県や政令指定都市に設置されています。電話での相談を受け付けています。
・健康保険組合の相談窓口
会社で加入している健康保険組合で、健康に関する相談窓口が設けられています。(健康保険組合によって異なります)
■健康経営の推進
メンタルヘルス不調に陥った(もしくは陥りそうな)人への個々の対処だけでなく、会社として従業員の心身の健康維持に取り組む視点が重要です。ここでは、健康管理を経営的な視点で考えて戦略的に実践する「健康経営」を紹介します。健康経営を進めることで、従業員の活力向上や生産性の向上などの組織の活性化をもたらし、企業価値や業績の向上につながると期待されます。

経済産業省では、健康経営を実践している企業を顕彰する「健康経営優良法人」の認定制度を設けています。また、東京証券取引所と共同で健康経営に優れた上場企業を「健康経営銘柄」として選定して、健康経営を推進しています。
健康経営に取り組むメリットとして、次のようなことが挙げられます。
・生産性の向上
健康経営に取り組むことで、アブセンティーズムやプレゼンティーズムを回避して、個々の従業員のパフォーマンスが向上し、組織の生産性も上がります。
・ワークエンゲージメントの向上
心身ともに健康で働きやすくなり、いきいきと活力を持って仕事に取り組みやすくなります。
・人材確保
健康経営に取り組んでいる企業は、離職率の低下や採用力の強化を期待できます。
経済産業省の調査によると、健康経営度の高い企業の方が全国平均と比べて離職率が低い傾向にあります。

また、就活生や就職を控えた学生を持つ親に対するアンケートでは、就職したい(させたい)企業として「従業員の健康や働き方に配慮している」企業が上位に挙がっています。

健康経営の実践にあたっては、次のような項目が挙げられています。

この中に「ストレス・メンタルヘルスに対する正しい理解の促進」があります。
従業員に対して、ストレスやメンタルヘルスについての啓蒙や研修を行って、セルフケアや相談先などを知ってもらうことが重要とされています。
コロナ禍では身体や心の健康が改めて注目されています。従業員が健康で働きやすい環境を整えることが企業の成長につながります。感染を防止する取り組みに加えて、心の健康を保つ環境を整えて、従業員のワークエンゲージメントと企業成長につなげていただきたいと思います。
(健康経営は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。)
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