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メンタルヘルスとワーク・エンゲージメント

新型コロナウイルス感染症の影響で、在宅勤務やリモートワークが増加しています。これまでと仕事の進め方やコミュニケーションが変わり、ストレスがたまりやすくなっています。それに加えて、1人で職場と離れて仕事をしている環境では、ワーク・エンゲージメントが重視されます。メンタルヘルスとワーク・エンゲージメントの関係を見ていきましょう。

■新型コロナウイルス感染症とメンタルヘルス不調

緊急事態宣言が解除されて人や経済の動きは戻ってきていますが、まだ従来の水準にはほど遠く、依然として新型コロナウイルス感染のリスクに警戒しなければなりません。このような状況の中で、4月に全国の精神保健福祉センターに寄せられた新型コロナウイルス感染症に関する心の相談は4946件に上りました。2月7日から3月31日までの約2ヶ月の相談件数は1741件でしたので、約3倍に増加しています。

これまでに経験したことのない環境の変化やこの先どうなるか分からない不安などによって、強いストレスを受けている人が多いことの表れでしょう。在宅勤務やリモートワークでは、仕事の進め方やコミュニケーションの面などで変化がありストレスを感じる場面が出てきます。上司にとっては、普段顔を合わせないメンバーの様子が分かりにくくなっている面もあるでしょう。

■ストレスチェックとワーク・エンゲージメント

メンバーのストレス状態を把握するには、ストレスチェックが有効です。ストレスチェックは、自分のストレスの状態を知って、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態のときは医師の面接を受けたりするために行います。会社としては、ストレスチェック結果から、仕事の負荷状態を把握して仕事の軽減などの措置を行って、メンタルヘルス不調の防止につなげます。

労働安全衛生法にて、従業員が50人以上いる事業所では、毎年1回、ストレスチェックを全ての従業員に対して実施することが義務付けられています。(契約期間が1年未満の従業員や、通常の従業員の所定労働時間の4分の3未満の従業員は義務の対象外とされています。)従業員50人未満の事業所は、ストレスチェック実施の「努力義務」が課せられています。ストレスチェックの実施にあたっては、厚生労働省が「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」を用いたチェックを推奨しています。

職業性ストレス簡易調査票では、次の3領域について質問項目が設けられています。

  • ①仕事のストレス要因
  • 職場における心理的な負担の原因についての項目
  • ②心身のストレス反応
  • 心身の自覚症状についての項目
  • ③周囲のサポート
  • 職場における他の従業員による支援についての項目

ストレスチェックは、従業員のセルフチェックによって、ストレス状態の高い人には必要な支援を行って、メンタルヘルス不調を防ごうという取り組みです。問題の発生を防いだり少なくしたりするアプローチですから、職場を改善して活力ある組織にしていくのにつながりづらい面があります。そこで、社員がいきいきと働ける職場作りを実現するためにワーク・エンゲージメントの調査を行って、職場の改善につなげようとする企業が増えてきています。

■ワーク・エンゲージメントとは

ワーク・エンゲージメントは、仕事に対してポジティブで充実した心理状態を言います。この心理状態は、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態です。これらを一時的に持っている状態ではなく、安定的に持っている状態を言われます。ワーク・エンゲージメントが高い人は、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしています。

出典:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」

(独)労働政策研究・研修機構「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」によると、ワーク・エンゲージメントが高い職場では、新入社員の定着率が高く、従業員の離職率が低いという結果が示されています。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」の中でも、ワーク・エンゲージメントは働きがいを持つための重要なキーワードとして挙げられています。新型コロナウイルス感染症の影響で在宅勤務やテレワークが続くと、一人で仕事への活力や熱意、没頭を継続するのは難しいかもしれません。そのような状況の中で、ワーク・エンゲージメントの重要性はさらに高まっていると言えます。

ワーク・エンゲージメントの特徴は、次の図で示されます。これは、仕事への態度・認知と活動水準を軸にとった図になります。

出典:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」

ワーク・エンゲージメントは、仕事への態度・認知が肯定的で活動水準が高い状態です。つまり、自分の仕事に対してやりがいと誇りを感じており、熱心で積極的に仕事に取り組んでいる状態です。

それに対して「ワーカホリズム」は、活動水準が高く一生懸命に働いていますが、仕事への態度・認知は否定的です。ワーカホリズムでは「働かなければならない」という強迫観念にかられて仕事をしており、「働きたい」と前向きに取り組むワーク・エンゲージメントと対照的です。

仕事に対して楽しさや進めやすさなどを感じてポジティブにとらえるのは、「職務満足感」です。しかし、ワーク・エンゲージメントと異なり、活動水準が低く仕事への熱心な取り組みが少ない状態です。「バーンアウト」は、ワーク・エンゲージメントと対極にあり、仕事への態度・認知が否定的で活動水準が低い状態です。疲れ果てて仕事への興味・関心が薄れてしまい、熱意が低下して自信も失ってしまっています。

■ワーク・エンゲージメントを知るには

ストレスチェックにおいて、「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」の使用が勧められていることを紹介しましたが、職業性ストレス簡易調査票にワーク・エンゲージメントやハラスメント、上司のマネジメント、人事評価に関する項目を追加した「新職業性ストレス簡易調査票(80項目)」が公開されております。新職業性ストレス簡易調査票は、東京大学大学院医学系研究科のサイトからダウンロードできます。新職業性ストレス簡易調査票では、ワーク・エンゲージメントに関する内容として、次のような質問項目が追加されています。

  • ・仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
  • ・自分の仕事に誇りを感じる

また、世界的に見ますと、ワーク・エンゲージメントの測定にあたって、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)が広く活用されています。UWESの短縮版では、活力・熱意・没頭のテーマごとに、次のような9つの質問項目が設けられています。

(活力)

1.仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる

2.職場では、元気が出て精力的になるように感じる

3.朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる

(熱意)

4.仕事に熱心である

5.仕事は、私に活力を与えてくれる

6.自分の仕事に誇りを感じる

(没頭)

7.仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる

8.私は仕事にのめり込んでいる

9.仕事をしていると、つい夢中になってしまう

これらの項目について、どれくらいの頻度で感じるかを点数化してワーク・エンゲージメントの測定を行います。なお、UWESを用いた国際比較(日本を含めた16ヶ国の比較)によると、残念ながら日本のワーク・エンゲージメントのスコアは相対的に低い状況にあります。

■ワーク・エンゲージメントを高めるには

ワーク・エンゲージメントを高めるには、「仕事の資源」と「個人の資源」を充実させることが重要と言われています。

・仕事の資源

仕事の資源は、本人に影響を与える周囲の環境であり、次のようなものが挙げられます。これらは、仕事の負荷を軽減して、モチベーションの向上やパフォーマンスの発揮を促す効果があります。

-仕事の裁量権を付与する

-仕事のパフォーマンスに対する適切なフィードバックを行う

-上司などによるコーチングを実施する

-上司や同僚など周囲のサポートを増やす

-トレーニングの機会を設ける など

・個人の資源

個人の資源は、本人の内的・心理的な要因であり、肯定的な自己評価やポジティブな心理状態です。次のようなものが挙げられます。

-自己効力感を高める

-レジリエンス(困難にも屈せず乗り越える力)を高める

-楽観性を持つ

-希望を持ち、目標に向かって粘り強く取り組む など

ワーク・エンゲージメントを高める具体的な取り組みとして、「ジョブ・クラフティング」を紹介します。ジョブ・クラフティングは、Wrzesniewsk & Duttonによって提唱された概念であり、仕事のやりがいや満足度を高めるために、仕事の進め方や考え方に変化を加える手法と言えます。ジョブ・クラフティングには次の3つの観点があります。

・作業クラフティング

主体的に仕事に取り組めるように、仕事のやり方や範囲を見直すことです。タスクやスケジュール管理の方法を見直すのも1つです。たとえば、自分が仕事を進めやすいようにTODOリストを工夫することもこれに当てはまるでしょう。

・人間関係クラフティング

取引先や上司、同僚などとの関わり方を積極的に変えることで、仕事を進めやすくして、仕事のやりがいを実感できるようにします。たとえば、職場の先輩に自分から相談して仕事のアドバイスをもらうようにすることなどが挙げられます。

・認知クラフティング

仕事の目的や貢献度をとらえ直すことです。より高い視点から自分の仕事の意義を再定義して、やりがいをもって仕事に打ち込めるようにします。

これについては、ドラッカーの「マネジメント」に記されている石工のエピソードがよく挙げられます。仕事をしている3人の石工に「あなたは何をしているのですか?」と尋ねました。1人目の石工は「これで暮らしを立てている」と答え、2人目は「腕のよい石工の仕事をしている」と答えました。それに対して、3人目の石工は「教会を作っている」と答えました。同じ仕事をしていても、「生計を立てるため」「石を切る作業をしている」と思って働くのと、「教会を作る」という目的を意識して働いているのでは、仕事に対する誇りや熱意は異なってくるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の影響で、従来の習慣や価値観を見直されている今だからこそ、仕事の意味をとらえ直す機会にできるとよいのではないでしょうか。

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著者: 市岡久典

ビジョナリーマインド代表/中小企業診断士

ベンチャー・中小企業の困りごとを解決する経営サポーター。日本オラクル(株)にてITコンサルタントとして従事した後、KLab(株)にて経営企画室・管理部門の責任者として上場準備を担当。「ベンチャー・中小企業の経営を伴走して支える」「働く人の悩みに寄り添い成長を支援する」を理念に、2010年に経営コンサルタント・心理カウンセラーとして独立。
創業からの成長ステージに合わせて、事業計画策定、資金調達、内部体制の整備、システム構築、IPO支援など、さまざまな課題の解決を支援している。また、マネジメントやメンタルヘルスに関する研修、経営者や従業員へのコーチング・カウンセリングも行っている。
著書「なぜ部下は思い通りに動かないのか」(労働調査会)

■経営支援と人材支援のビジョナリーマインド
http://3cos.jp

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