今回お話を伺った実力派会計人はクリフィックス税理士法人代表社員、公認会計士・税理士の山田徳昭氏。大手会計ファームに匹敵する専門性・品質と中小会計事務所の相談がしやすい距離感のハイブリッドともいえる法人を支える山田代表のキャリアや今後のビジョンに迫ります。(取材・撮影 レックスアドバイザーズ 村松)
公認会計士としてのキャリア
―公認会計士を目指されたきっかけを教えてください。
山田:就職をしたのは昭和のバブル期の末頃で、同級生たちのほとんどは銀行や証券会社に就職していました。しかし、自分は本当にその流れに乗っていいのか、埋もれてしまうんじゃないかという不安がありました。それが公認会計士になろうと思った一因でした。
大学院卒業後は中央青山監査法人に入ったのですが、大学で仲の良かった友人が1年先に入所していたので、彼と同じ部門に入りました。
―実際にご入所されて、監査法人での業務はいかがでしたか。
山田:入所当時は、今から考えてみれば「古き良き時代」でした。クライアントは先生と尊敬してくれて、監査をしてもらうという一面もありましたが、「一緒に決算を作り上げていくパートナー」のような感覚もありました。その頃は、こういう形での社会貢献もあるな、という面白みを感じて働いていたと思います。
また、IPOが注目され始めた時期だったので、2~3日間くらいの短期間で問題事項を洗い出す業務なども、普通の監査とは視点が違い、興味がありました。
変化する監査法人の体制、変化するお客様との関係
―監査法人から独立されるきっかけはありましたか。
山田:8年間、監査法人にいましたが、入所当時と独立する前とでは監査法人の状況も変わっていました。先生と言われて、いろいろな意味で慕われていた古き良き時代を経て、徐々に監査法人と会社とのもたれ合いが問題になり、夜の会食を禁止にするようなクライアントもでてきました。
会社と監査法人とが一緒にやっていくパートナーといった関係から、毅然とした態度で接するべき関係、利害が相反する関係へと変化していったのです。
確かに、厳格な姿勢で監査を行い、きちんとした情報を投資家に届けることは重要だと思っています。しかしリアルな現場では、決算時の多忙な経理担当者を捕まえて「この数字おかしくないですか」とその数字の根拠を、数十分、場合によっては1時間以上かけて聞かなくてはいけない。会計監査をしている会議室へ経理担当者に来てもらうと、明らかに嫌がっていることもありました。忙しいというオーラが出ている人に、座ってもらって長時間話す。そういうことを仕事だと割り切れる方もいらっしゃると思いますが、私の場合は、一生の仕事としては、正直、きついなと思いました。
独立については具体的なビジョンがあったわけではなかったのですが、「お客さんに寄り添った仕事の方が自分には向いている。」そう実感したことが、独立をした一番の理由ですね。独立当時は個人事務所でしたが、今のクリフィックスという法人名の由来も「クライアントファースト」からきています。
独立後の苦労、転機

―独立後、お客様はスムーズに獲得できましたか。
山田:税理士会が開く無料の相談会に参加してお客様との接点を増やしたり、個人事業のお客さんを紹介してもらったりしていました。それでも、最初の2~3年はあまり先が見通せない状況でした。
例えば、当時30代前半だった自分と歳が近く、結婚式に呼ばれるくらい懇意にしているお客様もいました。しかし、その結婚式から2年後には契約を切られてしまったんです。その方からは「個人事業主の仲間と話していたら、山田さんの半分のお金でやってくれる事務所もある。」と言われました。もちろんサービスを減らせば半分にはできるのですが、そこにいっちゃうと何も差別化ができなくなってしまうと思ったんですよね。「アドバイスも含めたサービスでは、現在のような値段になる。そうしたアドバイスは3~5年のスパンで考えれば必ず役に立つ。」とお話しをしましたが、分かってはもらえませんでした。
―現在では上場企業や金融機関のクライアント様が多いですよね。そのような良い流れが生まれるきっかけはあったのでしょうか。
山田:きっかけとしては、監査法人の友人が、個人事務所としては大きな規模の会社をいくつか紹介してくれるようになったことでしょうか。そうした規模の会社なので、それなりに難しい税務上の論点が出てくることもありましたが、独立してから数年間、税務を集中して学んでいたので、対応できました。
当時、監査法人から独立をしていった大半の人は「事業計画をたてましょう」、「財務分析で他社比較をしましょう」など、わりと会計士のスキルを活かすようなサービスの持っていきかただったんですよね。そのような中、私は論点が分かれるような税務の取り扱いについても、それなりに勉強していました。
―他との差別化を図っていた、ということですね。
山田:そうですね。バブル時に「埋もれてしまうかも」と思い、銀行へ行かなかったように、その時も勘が働いたのかもしれません。他の税理士や会計士が簡単には習得できない、ということは、大きな参入障壁になります。
監査法人から紹介されたお客様は、税務と会計、双方の相談をしたい人が多く、そうしたニーズにきちんと応えられれば、信頼され、また次の仕事にも繋がりました。
―監査法人からの紹介を得て、その後は順調に成長されたのでしょうか。
山田:監査法人からの紹介を得て急速に成長したのはリーマンショック前だったのですが、今思えば、経営者として一番ダメな頃だったと思っています。
自分としても「今は監査法人から紹介があるけれど、5年、10年経って、知っている人が監査法人内から減ってくれば紹介も減る」というのは分かっていました。しかし、5年後のためにやっていたことといえばゼロだったのです。結局そのツケがきて、リーマンショック後は業績も下がり、しばらく低迷しました。
そこから自分なりに考えて、「人財」の重要さをあらためて認識しました。今では私自身の仕事の3、4割を採用や教育に振り分けるようになりました。エージェントさんを始め多くの方の協力を得ながら、会社の魅力をどう伝えたらいいのか、社内教育の密度を上げてもっと短期間にできないか、と工夫しています。現在、それが少しずつ結果に出ている手応えがあります。
クリフィックス税理士法人の魅力とは

―差別化を意識されていたとのことですが、改めて、クリフィックス税理士法人はどのような特徴があるのでしょうか。
山田:そうですね。上場会社や金融機関のクライアント様から便利に思っていただくための方策として、当法人では会計士にも税務の勉強を、税理士にも会計基準を勉強してもらっています。スタッフが税務と会計の知識を持って、自分の言葉でお客様にアドバイスできる。これは大きな強みになります。
現在のお客様の層は上場会社やそのグループ会社がとても多いのですが、そのほとんどがお客様からの紹介で仕事をいただいています。お役に立てていることが、結果として新しいお客様に繋がっています。
―スタッフの方に伝えていることや徹底されていることなどはありますか。
山田:私からスタッフへ話していることの1つは「お客様は自分のした質問に対して、”こういった回答がくる”、という目線はすでに持っている」ということです。例えば大手の会計事務所の場合は、報酬がタイムチャージのことが多いため、聞かれていないことに対して時間を使うとか、80点の答えでいいのに95点の答えを出すために時間を使うのは、あまり現実的ではありません。
しかし、当法人は顧問契約が主なので、お客様に質問を受けていないことに関しても、お客様の役に立つことを先回りしてお伝えしやすい環境にあります。そうすると、あそこの事務所はなかなかいいぞ、と思ってもらえます。
それに加えてもう一つの特徴は、外部のアドバイザーではなく、身内に近い立場としてご相談いただけるという点です。例えば、「監査法人からこんなことを言われている」「社長からこんな無理を言われているんだけど…」といったご相談も受けます。もちろん、こちらで解決できることばかりではありませんが、お客様が困っていれば話を聞いて、何かできることはないか考えてみるという距離感なのです。距離が近く相談しやすいというのは、お客様にとっても使い勝手が良いのではないでしょうか。
―会計人、組織人として、先生が特に大事であると感じていることは何でしょう。
山田:新しく入社した人は、誰もが新しいことを目の前にして勉強しよう、頑張ろうと思います。しかし、その気持ちが3年後、5年後になると、だんだん弱くなってきます。一方、10年たっても成長したいと思う気持ちを強く持てている人は、結果として早く昇進していますね。
これからのビジョン
―この先はどのようなビジョンをお持ちですか。
目標として二つの日本一を掲げています。一つ目は、業界で働いている人がクリフィックスで働いてみたいと思う、すなわち会計業界での就職人気度という意味での日本一。二つ目は、様々な会社が仕事を依頼したいと思うという意味での日本一です。
働きたいと思ってもらうためには仕事のやりがい、働きやすい環境、そして待遇や給与、この3つをきちんと向上させていくことが大切だと思っています。そして、これも毎年目標に近づいてきていると思っています。
業務面に関していうと、クラウド会計も普及してきていますし、よく会計士、税理士はAIに取って変わられるランキングで必ず上位に挙げられますよね。確かにそういう面もありますが、一方で付加価値を付けられる分野もはっきりしてくるのではないでしょうか。
例えば、大企業の経理部、税務室長など税務に詳しい方でも、再編や国際税務などに関わる難しい論点になると自分で責任を持って答えを出すことは難しいです。そういったニーズを掌握できれば、お客様にも当法人の価値を見出していただけるはずです。
KaikeiZine読者へのメッセージ

AIの台頭で、税理士の二極分化が起きると思います。しかしその中でも、クオリティの高いサービス、難易度の高い税務のニーズは必ずあります。当法人でも自分の専門性を常に磨いている方はお客様からの評判が高いですし、それがまた別のお客様を紹介される源にもなります。
新しいお客様を紹介されるのは自分の仕事を認められたということですから、とても嬉しいものですよね。さらに良いサービスをしたいと思えるし、それが伝わってまた良い評価をもらえる。当法人では今、この良い循環が生まれています。そして、こういった輪に入りたいと思う方がいらっしゃれば、是非一緒に仕事ができればと思います。
【編集後記】
クオリティの高いサービスや難易度の高い税務対応は今後も間違いなく必要な分野ですね。ありがとうございました!