南青山税理士法人代表・公認会計士・税理士の仙石実氏は有限責任監査法人トーマツからコンサルティングファームを経て独立され、現在は経営に携わる実力派会計人。これまでのキャリアや独立するまでの経緯、業容拡大の秘訣について話を伺いました。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 村松)
公認会計士としてのキャリア
会計士を志した理由は何でしたか。
仙石:経営に必要な知識を得られるためです。父が会社経営をしていたので、将来は自分も会社を経営したいと思っていました。自分自身が経営者になるために会計や税務の領域を知っておかなければならないと思い会計士を志しました。
合格後、トーマツにご入所されて、独立されるまでの経緯を教えてください。
仙石:トーマツでは、お客様や所内の先輩・後輩との関係も良好で、重要な仕事を任せて頂き、マネージャーに同期よりも早く昇進しました。トーマツという大きな看板を背負って仕事をすることに大変魅力を感じていました。
当初から独立希望であったことや、もともとお客様や周りの方に貢献したいという気持ちが強く、それを形にできるビジネスをしたいと思っていました。仙石家の先祖は仙石秀久という戦国武将なのですが、自分自身が士(サムライ)として刀一本で戦える専門家を目指したいという気持ちが強くなり、2011年の6月末にトーマツを辞めました。
トーマツから独立しても監査経験だけでは、お客様に貢献するのは難しいので、元トーマツの先輩の会計事務所で1年半修業しました。当時は監査の経験しかありませんでしたが、そこで税務、IPO、M&Aなど様々な経験をすることができました。現在、代表として採用面接を行っているのですが、今面接にくる方たちと全く同じ状況です。「いろいろなことに挑戦してみたい」と皆様仰っていますが、まさに私も多くのことに挑戦したい気持ちでした。
先輩の会計事務所で学んだ経験がなければ、独立後に成功することは難しかったのではないかと思います。先輩には非常に感謝しています。
独立後のキャリアと経営者としての「志」
独立された時、特に意識していたことはありましたか?
仙石:監査法人に在籍していた頃から、いまの南青山グループの経営理念である、「専門性」「誠実性」「迅速性」の3つのポイントを意識していました。監査法人という大手にいると、どうしても迅速性が失われがちです。クオリティを重視している一方、スピード感は劣ります。私自身、担当者としてどの部分を意識していたかというと、お客様とのコミュニケーションです。お客様へのレスポンスの早さは業務をするうえで非常に重要です。
また、専門性を高めて、誠実に対応していくことを意識していました。業務を早く終わらせて早く帰ろうと考えているだけだと、仕事が作業になり雑になってしまいますしモチベーションも続かないと思います。お客様に貢献したいという志を持って誠実に対応していれば、仕事の質が変わり、専門性と誠実性はお客様に必ず伝わります。
このように「専門性」「誠実性」「迅速性」に則り仕事に取り組んできた結果、独立後にトーマツ時代のクライアントが何社もお客様になってくださいました。売上が1兆円の企業からも顧問を預からせていただきましたし、誰もが知る大手の小売りやイーコマースの会社など、名だたる企業が当初からお客様になってくださいました。
会計事務所の売上が1年目で1千万円と言われる中、弊社グループの売上は1年目で1億円を超え、信用・信頼を積み上げる中で徐々にお客様が増え、それに対応するように従業員も増えていきました。トーマツ時代からのお客様には大変感謝しています。
順風満帆にスタートされたように思われますが、苦労されたことはありますか?
仙石:初めは様々な交流会に参加し、名刺を渡して自分のプレゼンもしていました。交流会に参加した時は、必ず一社はお客様になっていただこうと必死でした。そのようにして確実に1社、2社とお客様になっていただき、今に至ります。
失敗をしたことや、受注できなかった案件もあります。それでも後悔をしたり、後ろを向いたりしてもしょうがないと思い、胸を張って常に前を向いていました。お客様にいかに前向きにコンサルできるかが重要と考えていました。
会計士の後輩からよく独立の相談を受けることがあります。独立の後にゼロから営業活動をするよりも、独立する前に他社との関係性を良好にすること。心構え、志を持つことをアドバイスしています。そうでなければ、失敗する可能性が大きくなると思います。独立のあとにゼロから営業活動を始めるのでは遅いです。常にお客様のために自分の責務を全うするという志を持つことが重要です。
独立当時、他の会計事務所との違いは意識されましたか?
仙石:特に重視したのは、経営者とのコミュニケーションや関係性の近さです。あえて業務の細分化を行わないようにしています。また、可能な限り経営者にお会いするようにしています。ビッグファームの中には、お客様に会う人と、実際に申告書を作成する人を分けているところもありますが、弊社では一気通貫で担当させることにしています。各メンバーが経営者と会う機会をつくることで、経営者の様々な課題にどのように対応していくのか現場で学ぶことが重要だと思っています。今後のAI時代にはオフラインのコミュニケーションが重要になってくると思います。
経営者とお会いしていると、様々な分野の情報収集ができます。トップの経営者は志高く勉強されている方が多いですし、新しい情報にふれることで知識を高められます。ある会社の経営者のサポートが、他の経営者が話していたことがヒントになって良いサポートができた、ということも多いです。
お話を伺った中で、いくつかのキーワードが出て来ていると思うのですが、一番大切にしていることはなんでしょうか。
仙石:「志」ですね。他者を想い、心を燃やして生きられるような「志(こころざし)のある生き方」が大切だと思います。志がある人とない人は、会った瞬間に分かります。自分の責務を全うするという志、使命感と言ってもいいかもしれません。
冒頭にもお話しましたが、士(サムライ)業として刀一本でどれだけ専門家としてお客様に貢献できるか、という思いで仕事をしています。自分に天から与えられた専門性をお客様に提供していくことが自分自身の使命だと思っています。人はそれぞれ持っている能力も違いますが、その能力を最大限に活かし縁ある人を幸せにすることが重要です。
常に自分の中でお客様に貢献できるものはないかを考えています。私自身はそういう考え方です。メンバーにも「専門性」「誠実性」「迅速性」の経営理念のもとお客様に貢献してほしいと思っています。
使命とは命を燃やす、使いつくす、というイメージでしょうか。
仙石:そうですね。人生は限られていて、時間はどんどん過ぎていきます。食べるためだけに働くのでは、自分の人生の時間を浪費しているように感じてしまいます。自分が心を燃やせることに人生の時間を使いたいと思っています。そういう考え方に共感してくれるメンバーに集まってほしいです。
ただ、こういった自分の考えを押し付けることはありません。今の時代のワークライフバランスも尊重しますし、リモートワークも含め男女にかかわらず、働きやすい環境も意識しています。
今回新しく「IPO・M&A ACADEMY」を立ち上げていらっしゃいますが、その経緯やビジョンを教えてください。
仙石:IPOやM&Aは企業のキャッシュフローの最大化です。キャッシュフローを生むためには事業計画の策定が必要です。経営目的や理念を前提に、それらを実現するために事業があり、その評価としてのキャッシュフローが生まれるという「経営の本質」を決して見失わないようにすることが重要だと思っています。そのような考え方を経営者の方に学んでいただきたいと思って始めたのが、この「IPO・M&A ACADEMY」です。
そして、今回、大手企業様にスポンサーに入っていただいていることも重要だと思っています。当グループが価値あるものを提供しているから、大手企業様からご協賛いただけていると思っています。以前から経営者教育をやりたかったので、素晴らしい企業様、メンバーの方たちと、IPO・M&Aを通していろいろ学んでいただきたいです。
KaikeiZine読者へのメッセージをお願いします
仙石:今後会計業界はAIなどの導入により変革の時代に入ると思います。一部の会計事務所・税理士事務所の中には顧客から頼まれたことをただ実施するだけで、顧客への提案をしないというところが少なくありません。当グループでは、専門的知識・ノウハウを生かし、必ずプラスアルファの提案を加えます。お客様が何を求めているかをきちんと理解し、適切なアドバイスをできることが、士業が残っていくためのカギだと思います。
決裁者である経営者に貢献し、コミュニケーションが取れていれば、会計事務所は必ず生き残れます。会計事務所が残っていくためには、密なコミュニケーションを通してオーナーが求めているものを確実につかんでいく力が必要不可欠です。
オーナーの役に立つためには、情報収集や、勉強をして専門性を高めないといけません。専門的であり、誠実であり、迅速に行動できることが必要です。これはどんな業界でも、成功するための原理原則だと思います。今後もこの原理原則を守っていくことが、これからの会計業界において重要になると思っています。
今後も、当グループは志をもち、お客様に貢献するという責務を全うしたいと思っています。
【編集後記】
経営者が求めているものを引き出し、価値を提供していくことが生き残っていくために重要であるということですね。志をもってお客様に貢献したいという気持ちが伝わってきました。ありがとうございました!