今回の実力派会計人は、公認会計士・税理士 榎卓生氏。独立をして25年。現在は税理士法人大手前綜合事務所の代表として12名のスタッフを抱える実力派会計人だ。今回は、榎氏のこれまでのキャリア、そして理念として掲げているFutureに込められた意味・今後の展望について話を伺った。(取材:レックスアドバイザーズ 市川)
公認会計士を目指すまで~独立までのキャリア
士業を目指したきっかけについて教えてください。
榎:大学に入学するより前に家庭の事情もあり仕事をしていたので、人より少し遅れて20歳で大学に進学をしました。入試の日の大学の正門前で配られていた専門学校のパンフレットを見て、初めて公認会計士という資格があることを知り、目指してみようかなと思いました。同い年の人たちより卒業が遅くなる分、資格を取って働くのもいいなと思ったのです。
調べてみると、社会に役立つ、会社をサポートする資格とあり、会計士になれば税理士としても働けるのも魅力的でした。さっそく勉強を始めてみたところとても面白く感じ、2年生のときには半年ほど大学を休学して集中して勉強し、2年後の22歳で現在の論文式試験にあたる二次試験に合格しました。合格と同時に、現在のEY新日本有限責任監査法人へ就職しました。昭和60年10月のことです。大学は夜間でしたので、昼間は仕事、夜は大学へ通いました。就職して最初の1年間は仕事と大学の両立に加えて、週3日、夜に公認会計士の実務補修所にも通い大変でしたが、なんとか大学在学中に三次試験に合格して公認会計士となることができました。
監査法人に就職されましたが、独立のきっかけは何でしたか?
榎:監査法人には11年在籍しました。監査のほか、IPOなどさまざまな仕事を経験し充実していましたが、監査を一生の仕事とするかと考えたときに、少し悩みました。監査とは、粉飾していないか、財務諸表が適正か、社会的な信用をバックボーンに見ていく仕事です。それは社会的に見てとても大切な仕事ですが、私は相手に直接喜んでもらえる仕事がしたいと思い始めました。相手の悩みを聞き、それを解決して喜んでもらって、ありがとうと言われたかったわけです。経営者の良き相談相手として、身近な存在として感じてもらいたいと思いました。監査法人を10年で一区切りでと思っていたのですが、最終的には11年目で退職しました。
退職後は個人の、榎公認会計士事務所として独立しました。平成9年、33歳くらいのときですから、今から25年ほど前です。1年後にコンサルティング会社(現在の株式会社マネージメントリファイン)を発足させました。これは、個人税理士の立場で会社を訪ねたときに、会社の税理士さんに警戒されてしまったことがきっかけでした。コンサルティング会社として訪問したら、既存税理士さんも比較的受け入れてくれやすくなりました。事務所はそこから5年ほどして税理士法人化しました。
また、当時は監査法人の大阪支店を作らないかという話もあり、大阪事務所長をしたこともあります。そこでは特定のお客様の監査をしていました。しかしもとより監査よりも悩んでいるお客様のサポートがしたかったので私は退職して監査法人は別のメンバーに運営を任せました。税理士法人大手前綜合事務所と株式会社マネージメントリファインの経営に専念することになり、会社サポートには労務面も不可欠と感じたこともあって、社労士さんにも参画してもらいサービスを提供しはじめました。労務メンバーはその後、株式会社みらい人事労務サポートとしてお客様の人事・労務エリアを支援しています。

相手を思いやる心を大切に。Futureに込められた意味
経営理念に熱い想いが込められていると伺っています。
榎:行動・思考理念をFuture理念として、このように6つ掲げています。この6つはみんなで週初め気持ちをあらたに「今週も頑張るぞ!」との思いで唱和しています。また、少人数でやっているので、お互いを思いやる心を大切にしています。競争も必要ですが、それ以上に誰かが困っていたら誰かが自主的に助けようとする環境作りには気を配っています。
また、常に意識していることとしては、お客様に何か相談されて未知なることも多々ありますが、知りませんとかわかりませんとはすぐには言わないで、何とか解決しようという粘りをもつようにしています。本当にわからないことは、そのエリアの専門家に確認や相談をします。
社内でレベルアップできるように名南経営のMyKomonを導入して、スケジュール管理はもちろん、お客様とのやり取りには電子会議室、日報、そしてフォーラムも使っています。フォーラムは、専門性の高い判断を求められる際に、その道のプロたる人に直接的に質問できる場でたいへん重宝しています。
今後は、育児や介護をしている職員がより働きやすい体制を作って行きたいと思っています。家庭の事情でオフィスまで勤務できなくとも在宅やフレックスでその人に合った働き方を追求していきたいと思います。今は在宅職員が2名、出勤時間を拘束しないフレックスで働いている職員が3名います。私が勤務をしていたときから昭和・平成・令和と3つの時代を公認会計士として過ごしてきましたが、会計事務所も時代に合わせて変わっていかなければなりません。変わることは今までのものを捨ててしまうイメージがあるかもしれませんが、私は変化できることは成長に繋がることだと思っています。Future理念にもあるUp Dating Mindの気持ちを大切にしていきたいと思っています。

顧客が成長し、より高い付加価値を提供する
今後の展望を聞かせてください。
榎:今後は、事業承継を視野にしっかりと考えていこうと思っています。お世話になったお客様たちの事業承継を見届けサポートしながら、時代の流れをとらえながら、会社や経営の在り方、私自身のことも今まで以上に深く考え、永続的に会社が発展していくよう事業承継をしっかりすすめていきたいと思っています。
今は「毎月一回帳簿を見るだけ」という時代ではありません。逆説的かもしれませんが、今後はお客様のところに訪問しなくても、頼りにしてもらえる身近な存在として感じてもらえる事務所にしていきたいと思っています。訪問して一日がかりになってしまう業務が行かなければ1時間で終わるものなら、効率を上げて人件費を抑えた方が、職員にもお客様にも還元できます。顧客満足度を維持しながら、同じことをするならより短時間でというのは、人件費が大きなコストである会計事務所の追求すべき経営課題であるかと思います。経営分析の資料を作った上で、お客様と価値観や目標を共有して定期的にWeb上でしっかり話し合ったりすることで、画面越しでも十分な信頼関係を築くことができます。
それでも本当に行かなければならないようなとき、例えば経営者が深刻な相談をしたいと言ったときなどは、即座に訪問するようにしています。メリハリが必要だと思っています。
これは、先ほどの事務所の特徴にも繋がりますが、当事務所は記帳代行をほぼ受けていません。98%自計化を進めています。記帳代行をしても、かかる時間の割にはあまりお客様に付加価値を感じていただけないと思っています。大事なポイントは、お客様に自計化していただき、さらにディスカッションすることで、会社の経理の方が成長できるという点です。スタッフも経理担当者をサポートし支援することでスキルがあがります。
経理担当者のスキルが上がれば、精度の高い経理が徐々に実現されてきます。その結果、お互いの時間の節約にも繋がりますし、その空いた時間で私達がさらに付加価値の高いサービスを提供した方がお客様のためになります。
小さなことですが、経理の方と話したときに「会計ソフトの使い方をマスターできた」とか「新しい機能を見つけた」といったことを嬉しそうに伝えてくれます。そういう姿を見ると、このやり方でよかったと思えます。お客様と会計事務所が共に成長していく。これからもそういった関係であり続けたいと思っています。
【編集後記】
今回はオンラインで取材をさせていただきましたが、在宅勤務やフレックスなど新しい制度をどんどん導入されている印象でした。今後も新たな価値をお客様に提供されていくのですね、榎先生、ありがとうございました。
税理士法人大手前綜合事務所
●創業
2002年10月8日
●所在地
大阪市中央区大手前1丁目7番31号 OMMビル15階
●理念
私たちは暖かなプロフェッショナルマインドをもち真摯な心でお客様に接します。
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