今回お話を伺ったのは赤坂有限責任監査法人/株式会社赤坂国際会計/赤坂税理士法人 代表の池田勉氏。多岐にわたる財務の世界をトータル的にサポートし約100名の従業員を抱える池田氏のこれまでのキャリアと今後のビジョンに迫ります。
会計士としてのキャリア
会計士を志したきっかけについて教えてください。
池田:自分の家庭環境から、手に職をつけたいと思うようになったことがきっかけです。私は山形県の海沿いにある魚屋の次男として育ったのですが、祖母は冬の猛吹雪の中、早朝からリヤカーを引っ張り市場へ行き、仕入れた魚を行商しており、祖父は庭仕事やトラックの運転手を行い、とにかく働いていました。そのような祖父母に可愛がられ、働く後姿をよく見ていたからかもしれません。
その思いから、商業高校で簿記2級を取得、さらに専門性を高めるべく、大学は関西大学商学部に進み、大学4年生のころから会計士の勉強を開始しました。
受験生活は苦労がありながらも順調でしたが、短答式に合格した年の3月、可愛がってくれた祖父が亡くなりました。当時の受験制度では5月に短答式試験・7月に論文式試験があり、祖父に合格の報告をしたい一心で勉強し、その年に論文式にも合格しました。合格できたのは祖父のおかげだと思っています。
合格後、青山監査法人へご入所されています。こちらを選ばれたのは何か理由があるのでしょうか。
池田:思いがけない出来事があったからです。1995年は就職氷河期であり、大多数の監査法人は合格発表日当日、定員に達し次第、採用の応募を締め切るような状況でした。私は、10月4日が合格発表日にもかかわらず、一緒に受験した友人から10月5日が合格発表日だと聞かされており、10月4日の昼頃に別の人からの電話で自分が合格していることを知ってから、慌てて監査法人に応募の電話をしました。どの監査法人も、「もう定員になりました。」と取り付く島もなかったのですが、唯一応募できた青山監査法人に、1週間後に繰り上げで入所できました。
そうして入所し、10年弱働くこととなりました。初めの3年は大阪事務所で一般的な上場企業の監査をしていましたが、定型的な業務が中心であり、業務の幅を広げたいという思いから、東京事務所の金融部に異動しました。
東京では、はじめは外資系金融機関の監査をしたのですが、どうしても英語が苦手。それなのに、1999~2000年頃から日本に不良債権ファンドが進出してきたタイミングだったので、さらに英語が必要になりました。金融機関の融資の資料を朝に渡されて、その債権をいくらで買えばいいのか評価するという業務です。夕方までに完成した資料出すと、夕方から説明が始まって、夜の11時ぐらいからニューヨークと電話会議。会議中、先方から怒られることがありましたが、英語で怒られても内容が理解できなくて、英語ができる先輩から「お前、すごく怒られているよ。」と言われて。根気強くコミュニケーションを繰り返し、最後の方は先方に褒められるようになったのですが、やはり英語ですので、褒められていることもよく分かりませんでした(笑)。
2000年頃の金融の動きは、かなり大きかったのではないでしょうか。
池田:そうですね。不良債権ファンドが進出する一方で、金融機関にお金を借りていた企業は事業の継続が困難となります。そこで、事業再生、企業再生のアドバイザリーが必要となるのです。さらに、不良債権を買ったファンド、不良債権を売った金融機関の監査も行いました。つまり、お金を貸す側と借りている側、不良債権を買う側と売る側、全ての側面から関わることになったわけです。この過程で、それぞれの視点を知ることができたのはいい経験でした。
不良債権を買うファンドはどういう部分を見て値を決めるのか。お金を貸した金融機関は当初どういう思いで貸して、どのくらいの金額でファンドに売るのか。お金を借りる側は銀行から借りていたのが、債権者である不良債権ファンドから借りるようになるので、どう交渉していけばいいか。当事者全ての視点から一つの事象を見ることができましたね。
他にも、2000年から監査法人を退職するまでの間、それまで金融検査が入っていなかった政府系金融機関に、検査対応等のアドバイスを行いました。金融検査マニュアル等と政府系金融機関の体制を比べて、どのような部分でギャップがあるのか分析し、改善していくという作業です。あと、当時かなりの勢いで破綻していた信用組合のデューデリジェンスや、資産内容の精査も行いました。
現法人でのキャリア
池田公認会計士事務所を立ち上げられてから、赤坂有限責任監査法人を設立されています。2004年に公認会計士事務所を立ち上げて独立されましたが、なぜこのタイミングだったのでしょうか。
池田:当時のポジションはマネージャーで、仕事もそれなりに複雑でした。新規で業務を受注し、スタッフをアサインメントするといった業務です。しかし、マネージャーになると残業代がなくなるので夜中まで仕事をしていても収入は減少。それに加え、シニアマネージャーへの昇進もないことにも失望して、退職することにしました。
ほかの監査法人や会計事務所への転職も考えたのですが、現パートナーのメンバー数人が当時一緒に働いており、「池田さんが独立するなら、一緒にやりましょう。付いていきますよ。」と言われたことや、彼らの支えもあって、独立を決意しました。
はじめは、付き合いのあったコンサル会社の机を1つ間借りして、そこの会社の仕事をさせていただいたり、自分でとってきた案件を対応したりしていました。そうしているうちに、複数社から「監査をやってくれないか」とお声がけを頂きました。2008年4月1日施行の改正公認会計士法で有限責任監査法人を作れるようになったので、赤坂有限責任監査法人を設立しました。
経営についてと今後のビジョン
経営をされる中で、大変さ、面白さはどういった点でしょうか。
池田:やはり大変な点は採用でしょうか。面接だけでは、その方の人柄や能力はなかなか分かりませんから。また、監査業界の構造変化に伴い、直近で採用を強化していることも大変だと感じる一因です。今、監査法人の交代が相次いでいます。監査の難易度とコストを鑑み、大手から我々のような中小法人に変えるケースが多いのです。さらに、IPOで新しく株式公開する際の監査も、大手監査法人は引き受けません。現在の監査法人のマーケットは上位5位で90%のシェアを握り、残り10%ほどを215法人で取り合っているという状況ですが、これもいずれピラミッド型に近づいてくると思います。
一方、面白い点といえるのは、社会的期待が非常に高いこと。これは監査法人を経営していて面白いと思える源です。また、当法人の特徴として監査、税務、アドバイザリーの3つを同時に提供しているのも、他ではほぼやっていないので面白いと思いますね。
さらにこの3つを同時に提供するためには、規模が大きすぎると分離させないといけなくなります。だから3つを同時に提供するための最良の規模であるミドルサイズに法人を保つ。そして、その実現のためには当社の理念でもある、「スピード、クオリティ、サスティナビリティ」が必要です。
3つのサービスのうち、どれを重視しているということはなく、クライアントの求めることをやっていたらたまたま3分の1ずつになりました。様々な会計にかかわるサービスを一気通貫で行えるからこそ、適正報酬にできることが大きな強みだと思っています。
池田代表は一代でこの監査法人を大きくされています。信念や、絶対に守ろうとするものはありますか?
池田:まず、お客様に対して脱税ほう助や不正を助長することは決してしません。所員に対しては、働きがいのある、人間らしい仕事を推進したいです。所員にとって、企業サポートをするのはもちろん使命ですが、過度なプレッシャーを与えるといったことは絶対にしません。所員の働きがいも、法人の経済成長も最大限に目指していくことを常に意識しています。
お話を伺っていると、先生のお人柄が優しいという印象を持ちます。実際に面接を受けた方からの「働きやすい環境ですね。」という声や、こちらの法人の非常勤の方からの「非常勤で毎日いるわけではないのに、見かけたら声を掛けてくれる。すごく嬉しいから頑張ろうと思う。」といった話も聞こえてきます。
池田:法人を支えているのは、自分1人ではないですから。パートナーもいて、ここまで一緒にやってきましたしね。それに、自分1人では何も決められません。そんなカリスマ的リーダーシップみたいなものは自分にないので、地道にやっていくしかないと思っています。非常勤の会計士を含めて100名を超えましたが、所員一人ひとりに目を向けるというのは極力意識していることですね。
今後のビジョンについても教えてください。
池田:監査、税務、アドバイザリーに加えて法律的サービスも充実させるために、弁護士が1人加わりました。また、クライアントからのご要望に応えるために、規模的にも拡大していくつもりで人材採用を進めています。ただ、先ほど言ったとおりミドルサイズが理想ですので、それを崩さない範囲での人員拡大、増強をやっていきたいと思っています。
KaikeiZineの読者へメッセージをお願いします
池田:10数年前の会計士の標語に「会計士は企業のドクターです」というものがありました。もし会計士が企業のドクターと言うのなら、診断と処方をセットで行わなければなりません。処方をするから、適切に診断できるのですから。しかし、現状は診断しかしない会計士がほとんどを占めます。だから私はこの現状に対して、会計士は監査の知識だけでなく、税務やアドバイザリーの知識も必要なのではないかと考えているのです。
税理士の損害賠償がどんどん増えているのも、複雑な判断を適切に行えないことが原因です。税理士も税務しか知らないのでは適切な判断ができません。すごく不思議な話ですが、税理士は税効果会計が分からない。会計士の方が詳しい。一方で会計士は、税務を理解している人は少なく、消費税に関する知識が乏しい。それぞれの専門分野の知識を持っていたとしても、両者の視点を持ち、踏み込んで考えなければ、クライアントに適切なアドバイスはできません。もっと税務と監査の壁を取り払って、一緒にやるべきです。
当法人では、監査、税務、アドバイザリーの3つを同時に提供しています。フレックスやリモートも導入している働きやすい環境ですので、会計士、税理士としてさらに成長できる場だと思います。
【編集後記】
中小ならではの強みを活かし、監査、税務、アドバイザリーと幅広くサービスを提供している赤坂有限責任監査法人様。今後は法律的サービスも充実させるビジョンもあり、ますますワンストップサービスが実現しそうですね。池田代表、ありがとうございました!
赤坂有限責任監査法人/株式会社 赤坂国際会計/赤坂税理士法人
●設立
2008年6月
●所在地
東京都港区元赤坂1-1-8 赤坂コミュニティビル4F
●理念
Speed,Quality,Sustainability