女性比率が少ないと言われている税理士業界で、社員の70%以上が女性スタッフという会計事務所がある。東京都・新宿区にある税理士法人YFPクレアだ。現在、80名以上のスタッフを率いる代表の柳田氏は、女性のきめ細やかさは税理士業界に欠かせないスキルだと語る。今回は柳田氏のこれまでのキャリアから法人の成り立ち、そして自社HP、社内制度、社名までも女性に受け入れやすいようにしてきたというYFPクレアの魅力について話を伺った。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)
銀行員を経て、会計事務所に転職
税理士になったきっかけを教えてください。
柳田:税理士になったのは32歳。実は資格取得をするまでに10年かかりました。
大学卒業後は、地元である群馬県前橋市の銀行に入行。融資の書類チェック不動産担保の査定などを担当していました。銀行に就職したのは、一度は一般企業での経験を積んでおきたいと思ったのと、その中でも銀行は税理士になるにあたって有利な仕事だと思ったからです。
実際に就職をしてみるとかなりハードな職場で…。それでも税理士の勉強は継続したかったので、安いアパートを埼玉県上尾市に借りて、金曜の夜に車で移動。土日は大宮の税理士講座に通って、日曜にまた帰るといった生活でした。それもあって銀行はすぐに辞めて、そのあとしばらくは勉強に専念して3科目。その後、今の浦和オフィスの前身で当時のYFP総合会計に入って、1科目。そのあと東京都足立区にある友人が経営していた事務所を手伝ってほしいと言われて転職して、そこで5科目揃えました。
浦和オフィスに就職されたきっかけは何ですか?
柳田:大宮の税理士講座で一緒だった友人が北浦和のTKC事務所で働いていたので、おなじTKC事務所を推薦してくれたのがきっかけです。28歳の時に入社して、3年ほど勤めました。
浦和オフィスは、資産家・地主さんが多く、資産税が強い事務所。地主さん、不動産関連の申告・税務が多かったので、現在のYFPクレアの柱になっている不動産・事業承継系の案件をたくさん扱いました。お客様の年齢層が60代くらいなので、自分の感覚とギャップがあります。28歳でまだ若かったので、そのギャップを埋めるのは少し苦労しました。
ただ、この時にとても勉強になったこともありました。代表の山田先生は職人気質な方だったのですが、厳しくも新人の私に様々なことを熱心に教えてくれました。会計のプロとしての基礎を教えてくださったのも山田先生です。また、現在の副代表が当時の課長だったのですが、その課長が人の懐に入るのが上手く、お客様との接し方を教わりました。最終的に正しいか正しくないかの判断はこちらでしつつも、お客様の方向性を常に確認することの大切さを知ったのです。
一度は去った事務所の代表に…YFPクレアの誕生秘話
34歳のときに池袋で独立されています。独立のきっかけはありましたか。
柳田:もともと独立しようと思っていたのでタイミングだったというのもありますが、一番の理由は、創業支援をやりたいという気持ちが強くなったからです。当時の税理士業界は、創業は手間がかかる上にお金にならないということで、避ける傾向にありました。しかし、中小企業の社長と二人三脚で事業計画を作成したり、夢を叶えるための支援をしているほうがやりがいもあり、面白いのです。ですから新しい会社をどんどん世に作っていきたいという気持ちで、独立を決めました。社名は、クレア池袋会計と名付けました。
YFP浦和オフィスと合併し、代表社員に。
柳田:実は、独立をして2年目のときに山田先生が突然亡くなり、税理士が急遽必要とのことでYFPと合併の話が出てきました。急なお話だったので検討期間もほぼなく、代表税理士になることを決めました。最初は、2年ほど預かるくらいの気持ちだったのですが、結果的には今も続いて11年目に。従業員は80名ほどになりました。この11年で支社も増え、池袋の事務所のときに横浜の行政書士さんから介護事業者をたくさんご紹介いただいたことをきっかけに横浜オフィスをスタート。東京・埼玉・神奈川と拡大したので、その流れで千葉にも支店を置きました。
クレアに込められた想い。当時にしては珍しい女性活躍推進を実行
クレアという社名の由来を教えて下さい。
柳田:社名は妻が考えてくれました。女性らしく柔らかい雰囲気とラテン語で創り出す”creare”という意味があるクレアと名付けました。独立時、妻を入れた数名の子育て中の主婦スタッフと働いていたので女性が働きやすい環境になっていたのは自然の流れです。
その経緯もあり、常に組織を作る上で意識していることは、子どもを持った女性が働きやすい環境かどうかです。女性のきめ細やさは、会計業界に向いていると思います。女性が働きやすければ、必然と男性も働きやすいことになるので定着率も上がっていくのです。
また、私自身が受験生時代に終電で帰って土曜も出勤をして、そして資格の勉強もして、といった時期を過ごしています。だからこそ、今の人たちには仕事もしっかりやって、資格も取って、家庭も大事にしてほしい。私の経験が反面教師になっています。私は働きながら勉強した期間が7年でしたが、結局その頃一緒に働いていた人たちは、誰も資格を取れませんでした。毎年2月3月や5月は、どうしても仕事が忙しくて勉強が中断されて、だんだん諦めてしまうのです。
プライベートも大事にできる職場を作るのはもちろん部下のためでもありますが、そういった職場に変えていかなければ人材も流れてしまいます。正社員40人の中だと、現在資格のために勉強している方は15人ほどいます。慈善的にというよりも、事務所として結果を出すために環境整備を意識しています。
御社では残業軽減の取り組みにも力を入れていると伺っています。
柳田:現在、当法人では月20時間まで残業できるのですが、それを超えるとレポート提出をしてもらっています。裏では反省文と言われているらしいのですが…(笑)ただ反省をしてもらいたいわけではなく、どのように工夫をしたら残業が減らせるかを考えて日々の業務を効率的に取り組んでほしいという思いからこのルールを導入しました。
もちろん最初はたくさん提出されていましたが、合併から9年後、やっとそのレポートが0になりました。
長期的に活躍できる環境を。YFPクレアの目指す先とは
そこまで業務改善に力を入れられるのはなぜでしょうか。
柳田:「残業しなくていいですよ。」とこちらが面接で言って、そう思って入社した方がいたとしても、事務所全体で残業している人ばかりだったら居心地が悪くなってしまいますよね。ですので、事務所全体で、法定内の週40時間労働でやりきりたいと思っています。そうしないと、残業無しの人だけ不公平になってしまいますから。残業しない人が疎外感を感じず、キャリアを積める事務所にしていきたい。だから逆に残業したい人には向かない事務所なので、それは採用のときにちゃんと伝えます。
今後も長期的に働ける環境に力を入れていきたいと思っています。当法人の2020年の離職率は8.1%。本当はここを5%に抑えたいと思っています。家族が海外転勤になったり、実家の事務所を継ぐなど、いたしかたない理由での退職もありますから、なかなか達成は難しいのですが。
ただこれまで培ってきたスキルや、事務所で長く活躍したことで得た地位やポジションがなくなってしまうのはもったいないことです。
仕事も家庭も資格も、全て大事です。どれかを諦めてほしくありません。もし子育てがなくても、仮に介護があって田舎に帰るとなったときに対応できるよう、資格は取ってもらいたいし、仕事もテレワークで続けられるようにしていきたいと考えています。今後クラウド化がさらに進めば、家庭の事情などでキャリアを中断せずに済みます。介護・育児が必要な時期は、そちらに注力することも必要です。どちらも継続できるような仕組みを整えていく予定です。
仕事も家庭も資格も全てを諦めないで人材が長期的に活躍できる会計事務所が、これからの時代に成長していける事務所であると私は思います。長期的に活躍してくれればそれだけノウハウが培われるので組織としても成長することができます。それはクライアントに対しても、高付加価値を提供できることに繋がります。優秀な人材が活躍できるような職場にしていきたいと考えています。
【編集後記】
女性が多数活躍をしているYFPクレア様。まだまだ女性活躍が進んでいない中、いち早く働き方改革を進められてきたことが伝わりました。柳田先生、有難うございました!
税理士法人YFPクレア
●設立
2008年03月01
●所在地
東京都新宿区四谷4-1細井ビル6F
●理念
1.私達は常に革新的に考え、行動します。
2.私達は強い分野を持ち、それをお互いに尊敬します。
3.私達は自分達の教育へ投資します。
●企業URL