今回の実力派会計人は公認会計士・税理士の市ノ澤翔氏。YouTubeを活用し、ビジネスをエンターテイメントにしたいと語り、登録者数はおよそ1万人(2021年9月時点)に及ぶ。茨城県で会計事務所を開業するまでのキャリアやYouTubeを始めたきっかけ、人生の最終目標について詳細に話を伺った。(取材:KaikeiZine編集部)

約6年間のフリーター生活を抜け出し公認会計士へ
会計士を目指すまでの道のりを教えてください。
市ノ澤:幼少期は鎌倉で過ごしました。小学生からは茨城県の守谷というところで育ち、高校までずっとサッカー一筋でした。中学生からは練習も厳しくなってきましたが、楽しさの方が勝っていて辞めたいと思ったことはありませんでしたね。その一方で勉強は大嫌いで、友達と毎日外で遊んでいました。もともと特に勉強をしなくても中学校ぐらいまではそれなりにテストの点数は取れていたと思います。歴史の年号を暗記しても意味が無いと思っていましたし、海外に行く気も無いので英語の勉強も無駄だと思っていました。しかし後で英語で苦労する事になるんですが…今で言えば教科書に書かれているようなことはネット検索をすれば2秒で分かりますし当時から学校の勉強は将来の役に立つとも思えないし意味が無いと考えていたのです。
高校卒業後はフリーターをされていたとのことですが、大学への進学は考えなかったのでしょうか。
市ノ澤:大学は遊びに行くところだしお金を払って遊びに行くのは勿体ないという私なりの考えがありました。なので就職するわけでもなく、いろいろなアルバイトを転々とし、結局5、6年フリーターを続けた23歳のときに「今のままでも楽しいけれども、自分の力を証明するため、人に話を聞いてもらえる存在になるために何か難しい資格を取ろう」と思い立ちました。資格がたくさん載っている分厚い本を見ていくと、三大難関試験として公認会計士・弁護士・国家Ⅰ種とありました。国家Ⅰ種(※現在の国家公務員総合職)は面接があり学歴が無ければ合格不可能です。また、その頃弁護士にフィーチャーした人気番組がちょうどスタートした頃でテレビに弁護士がたくさん出ていたので、有名な弁護士は沢山いる。そんな中に今更参入するのも面白くない。という事で消去法で公認会計士にしよう、となったわけです。そう考えたときに、公認会計士がどんな資格でどんな仕事をしているのか全く知らなかったのですが、フリーター時代のレジ打ちバイトの先輩が「公認会計士になれば勝ち組だ」と言っていたことをふと思い出しました。
※国家総合職は、かつての国家Ⅰ種に代わり平成24年度から新たに導入された国家公務員採用試験です。
早速予備校に申し込みに行きましたが会計士講座の開始は8月頃で、勉強を始めようと思ったタイミング的にその年の講座には間に合わなかったので、翌年の講座開始までの間で、簿記2級と1級を取得しました。そして8月に講座が始まり、1年後の論文式試験に合格をして、12月から監査法人に入りました。
合格後は、PwCあらた監査法人に入所されました。就職先を選ぶ上で決め手になったのは何でしょうか。
市ノ澤:今までアルバイトしていたのはガソリンスタンドや飲食店、コンビニや工場など。それに比べて、当時あらた監査法人がオフィスにしていたのが新丸ビルの30階あたりの1フロア。論文式の結果が出る前に行ったオフィスツアーで見たおしゃれな雰囲気に圧倒され、元々はKPMGに行こうと考えていたのですがそちらは説明会すら行かずに決めてしまいました。
しかしクライアントは外資系の会社がとても多く、仕事では英語が必須でした。私は英語の勉強をこれまで全くしてこなかったのですが、入所後一カ月の研修資料はほぼ英語。研修初日に辞めたいと言ったら、周りは引いていました(笑)。皆やっと合格して念願の監査法人に入ったのに、私は初日で辞めたいとか言っているのですから。それでもなんとか耐えて、4年程勤務し、製造業や商社、小売業などの一般事業会社の監査に携わり、様々な業種を幅広く見ることができました。

監査法人時代の苦労から学んだ時間の大切さ
修了考査合格後は、事業会社に転職されたのですね。
市ノ澤:はい、監査法人には資格取得を目的で入ったので元々長く勤めるつもりはありませんでした。修了考査合格後にちょうどその当時のクライアントに声をかけてもらいタイミングも良く次も決まっていたわけではなかったので転職しました。しかし業務内容に何だか物足りなさを感じてしまい、担当していたM&Aのプロジェクトが終わったタイミングで退職して独立することにしました。
独立されて代表として意識されていることはありますか。
市ノ澤:自分が実務をやらないようにする、ということです。それをしてしまうと、組織として全く伸びていきません。私の仕事は新規事業を立ち上げたり、新規開拓したり、そういう経営的なところに時間を使うべきだと考えています。今はまだ作業的な仕事もあるので、徐々にシフトできる体制を構築していきたいと思っています。
あとは、事務所のあり方についても今いろいろと考えています。自分が監査法人で働いていたときに嫌だと思っていた長時間労働を自分の会社ではさせたくなくて今までは残業を完全に排除していました。もちろんそれも大事なことなのですが、全員にとってこれがいいことなのか、という迷いもあります。上を目指したい人の場合、もっと成長するため仕事や勉強に時間を使いたいという考え方もあります。9時~17時で働いてあとは自由にしたいという人はそれでいいと思いますし、時間を費やして上を目指したい人にも選択肢を用意したい。雇用形態を工夫して、両者が満足できる環境を作っていきたいですね。

“人を巻き込む天才”世界一のサッカーチームを作りたい
現在YouTubeでも活躍されています。始めたきっかけは何でしたか。
市ノ澤:ビジネスをエンターテイメントにしたいと思って始めました。つまり、今で言うとプロセスエコノミーの考え方です。プロセスエコノミーとは、プロセスを販売するということ。例えば、昨年話題になったニジプロジェクト(Nizi Project)は有名です。NiziUという、グループとして完成したものを売るのではなく、まだ、何者でもない子達がスターになるまでの一部始終をオーディションから全て配信してマネタイズする。
これを当社で作るなら、例えば飲食店を作る場合に、できたものだけを提供するのではなくてその裏側も全部YouTubeで配信するということです。リアルタイムで見られる『プロジェクトX』のようなものというと分かりやすいかもしれません。まだ計画している段階ではありますが。最終的にはサッカーチームの立ち上げから世界一のチームに成長するまでの過程をお届けしていきたいですね。
YouTube動画の冒頭で、人を巻き込む天才とおっしゃっています。人を巻き込んで、今後やっていきたいことは何でしょうか。
市ノ澤:「人を巻き込む」というのは、そうなりたいという願望ですね。声に出していれば、そうなっていくのではないかと思って発信しています。実は、私の最終的な目標は、サッカーチームを作って、そのチームを世界一にすること。これはいろいろな人を巻き込まないと実現しません。自分の中の計画では、私の地元の茨城・守谷にスタジアムを作って、そのそばに新しく駅を作りたいと考えています。今は山や森のような場所なのですが、つくばエクスプレスの線路が近くを通っていて、高速もあり、サービスエリアも近い。あわよくば滑走路を作って、飛行機の発着もできるようになったら最強ですね。今作れば、都心から1番近いクラブになるんじゃないかなと思います。なかなか予定通りには進んでいませんが、あと10年以内にはチームを作って、30年以内には世界に近付ける位置にいたいと思っています。
夢がありますね!その際は、現在の事務所はそのまま残して、別の事業として展開されるのでしょうか。
市ノ澤:会計事務所はもちろん継続します。これもサッカーチームに繋がっているんです。サッカーは括りで言うとエンターテインメントですよね。エンタメを発展させていくためには多くの方がたくさんエンタメにお金を落とす、という事が必要だと考えていますが、自分の生活ができないのに、エンタメにお金をたくさん落としてくれる人は、いないのです。日本にある会社の99.7%は中小企業なので、日本経済は中小企業が支えていると言っても過言ではありません。日本経済を支えている中小企業が成長し、沢山利益を出す事が出来れば、そこで働く人達の給料も増え生活も豊かになります。そうすることで、結果としてサッカーやエンタメに落ちてくるお金が増えて、エンタメが成長していきます。日本国内のサッカー選手では1億円プレーヤーはほぼいませんが、海外では10億円プレーヤーがたくさんいます。そういう状態にしなければ優れた選手も育ちませんし、チームのレベルもリーグのレベルも世界のトップにはなれません。それを実現するためにも中小企業を良くしなければなりません。
現在、多くの会計事務所は、価格競争に巻き込まれて低付加価値、低生産性状態に陥ってしまっていると感じます。本来であれば数字のことが良く分かっていなかったり、数字を見る事の重要性に気付かずに損をしてしまっている中小企業の経営者を、我々税理士が支えなければいけません。しかし、本来しっかりと稼げる、成長できる能力のある中小企業が埋もれてしまっているのが現状なのです。そういう現状を解決するには、当社で例えば100社の中小企業を見たとしてもどうにもなりません。それよりも、将来的には会計事務所を教育する仕組みを作りたいと思っています。正しい経営や会社を改善する方法を税理士に学んでもらって、当社でお客様を紹介して対応してもらうという仕組みです。
世界一のサッカーチームを作りたい。そのためには日本経済が良くなっていく事が必須です。そして日本経済が成長し続けるためには中小企業を盛り上げていく必要がある。そこで、中小企業を支えているこの税理士業界を盛り上げていくことが、最終目標に繋がると思っています。
【編集後記】
代表という立場のもと、日々健康も意識されているとのことで水素ガスを取り入れているとお話してくださりました。その意識の高さにとても感心しました。世界一のサッカーチームが市ノ澤様のもとで誕生するのを心待ちにしています。市ノ澤様、ありがとうございました!
Monolith Partners(モノリスパートナーズ)(旧 市ノ澤翔会計税務事務所)
株式会社リーベルタッド
●創業
2014年7月
●所在地
茨城県守谷市御所ケ丘2-3-6安彦ビル103
●理念
明日人生が終わるとしても今日それをやると毎日言えるような、心の底から楽しくてたまらない充実した人生を我々に関わる全ての人々に実現させると同時に、中小企業支援事業、エンタメ事業を通じて楽しく日本を盛り上げ世界中の人々を熱狂の渦に巻き込みます