告発率は平成20年度以来の高水準
査察調査が終了して処理した事案について事案の悪質・高額等の内容を検討した結果、検察庁へ告発した件数は113件のうち83件(同116件)と100件を割っているが、処理件数が告発件数よりも減少していることから、いわゆる告発率は73.5%となっている。告発率は、前年度から2年連続して上昇するとともに、平成20年度以来の高水準を記録しており、税務職員の総数が増えない中で事案の複雑化等が進んでいるため、国税当局が“量より質”を重視している感も見られる。
告発分にかかる脱税額は、69億2600万円(同92億7600万円)と前年の74.6%と実に4分の3まで減少しており、調査開始した昭和48年以来の過去最少水準を更新したが、1件あたりの脱税額は8300万円と300万円ほど前年度から増えている。
告発事案を主な税目別でみると、法人税事案で55 件(脱税額38億2600万円)と今回も圧倒的に多く、加えて昨年以上に件数及び脱税額の占める割合が高くなっており、景気の上向きから本業による所得の不正脱漏が増えているようにも感じられる。次いで、重点事案の一つである消費税事案が18件(20億3100万円)、所得税事案が8件(8億8600万円)、源泉所得税事案が2件(1億8300万円)で、相続税事案は前年度に引き続いて1件もなかった。
業種別(同一の納税者が複数税目で告発されている場合は1者)をみると、「不動産業」が26者でワースト1に返り咲き、以下、「建設業」の15者、「クラブ・バー」の4者となっている。国税当局による調査選定により当然重点業種が上位にくるが、「不動産業」と「建設業」は平成27年度以降5年連続でワースト1、2 位を占めており、今回もこの傾向は続いている。
消費税の不正還付で9件告発
国税当局が令和2年度で積極的に取り組んだのが、①消費税の輸出免税制度を利用した消費税受還付事案、②自己の所得を秘匿し申告を行わない無申告ほ脱事案、③国際事案、④社会的波及効果が高い事案。
消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ、消費税事案については他税目に比べ積極的な取り組みが続いていて、令和2年度は 18件を告発した。また、輸出免税制度を悪用して取引実態のない輸出取引を装う手口により還付申告を行う消費税の不正還付(受還付事案)に関しては、“国庫金の搾取”にあたり悪質性の高い不正事案で、これを見逃すことは適正・公平な課税の実現にも影響を及ぼしかねかいとの認識から重点的に調査が行われている。令和2年度では消費税ほ脱犯との併合事案を含めて9件告発しており、その不正受還付額は3億8400万円と前年度に比べて6100万円増えている。
消費税不正受還付事案をみると、国内の金地金取扱業者に金地金を販売(課税取引)していたA社は、香港法人に販売したと仮装して輸出売上(免税取引)を計上し、不正に消費税の還付を受けていた。
単純無申告ほ脱犯適用事案7件
納税者の自発的な申告・納税を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがすこととなるため、重点事案の一つとして積極的に取り組んでいる無申告事案。令和2年度は、自己の所得を秘匿し申告を行わない「無申告ほ脱犯」として13件告発しているが、前年度の27件と比べると半減している。また、悪質性の高い無申告に厳正に対処するために平成23年に創設された「単純無申告ほ脱犯」を適用した事案はこのうち7件。主な事例をみると、不動産売買に伴う測量、設計及び土地家屋調査業務を行っているB社の実質経営者である甲は、売上代金を借名名義の預金口座に入金させ、B社に売上がないよう仮装する方法により所得約1億7900万円を秘匿し、法人税の確定申告書を提出しないで法定納期限を徒過させ、法人税4200万円を免れていました。