女性公認会計士の転職理由で必ずと言っていいほど挙がるキーワードがある。「ワークライフバランス」だ。希望の転職を実現するには、転職先の選定や求人選びの際に、どれだけ広い視野で考えられるかが重要だ。
一般企業への転職を希望する女性公認会計士が年々増えている。一般企業という言葉で一括りにしているが、実際には大手企業をイメージする人が多く、休日がしっかり確保できる、定時退社ができるといった期待を持っていることが伺える。実際に、一般企業への転職を希望する女性公認会計士の9割が、ワークライフバランスを転職目的のひとつに考えていることがわかった。(REX調べ)
しかし、一般企業に転職を果たすも、理想と現実のギャップを感じ、早期に退職してしまうというケースもある。
一般企業=ワークライフバランスが充実しているというイメージを作り出す背景として、大手企業のクリーンなイメージが先行している。上場企業であれば、コンプライアンス重視の労務管理が徹底され、福利厚生が充実しているケースが多い。また、TVや雑誌で取り上げられるような先進的な取り組みや洗練されたオフィス環境も、良いイメージ作りに貢献している。
一方で会計業界には、依然として「忙しい」「男性優位」といったイメージを持つ人が多い。繁忙期が大きく偏る会計業界では、長期的な勤務をイメージしにくいといった女性公認会計士の声もよく聞く。決算期は毎日終電帰りだという女性公認会計士が、疲れた顔で転職相談に来社するケースも少なくない。自分自身の経験則だけでなく、他の監査法人やコンサルティングファームで働く女性の公認会計士仲間が、同じように忙しい日々を送っているという話を聞けば、会計業界への転職を敬遠するのも頷ける。結婚や出産、育児、介護などのライフイベントにキャリアを左右されやすい女性にとって、休日出勤の有無や残業時間の多さは、求人選びにおいて優先事項にならざるを得ない。なんとなくイメージのいい一般企業へ転職をし、今の就業環境をなんとか変えたいという気持ちも理解に難くない。
しかし、最近では会計業界も変わりつつある。
大手監査法人や税理法人を中心に、残業時間を減らすための組織改革やダイバーシティの積極的な推進、女性の長期的なキャリア形成をサポートするための社内制度づくりに注力する法人も多い。中小規模の会計事務所でも、フレックス制度を取り入れて業務管理を個々に任せる事務所や、ママさん公認会計士の積極採用、時短勤務者の採用など、どのライフステージの女性も活躍できるような職場づくりに、積極的に取り組むところも増えてきている。
会計業界内での転職は、公認会計士として活躍していく上でのメリットも大きい。これまで培ってきた知見やスキル、経験をそのまま業務に活かせる機会が多いからだ。「資格の優位性を活かしながらワークライフバランスを実現したい」という人であれば、会計業界の求人も視野に入れるべきだ。
昨今の転職市場は、売り手優位の状態が続いている。一時期のピークは過ぎたものの、この傾向はもうしばらく続くと予想される。求人側では、人材確保のために福利厚生を見直したり、オフィスのファシリティを整えたりと、社員の満足度向上を目的とした取り組みに注目が集まっている。また、これまで対応しきれていなかった女性の労働環境改善に取り組む法人も多く、優秀な女性に長く活躍して欲しいというニーズが顕在化してきている。数年前まで激務だと業界内で噂されていた法人が、今や定時退社を推奨し、多くの既婚女性が活躍する人気の法人になっているというケースもあるほどだ。
満足度の高い転職を実現するためには、事前の情報収集が大切だ。自分が転職を通して実現したいことだけに目を向けるのではなく、業界全体の動きや傾向を知ることで、広い視野でキャリア選択ができるようになる。また、自分の経験やスキルがどの程度なのか、年収は適正なのか、今後どんなキャリアプランがあるのかなどの客観的なアドバイスも、求人選びには非常に有効だ。プロからのアドバイスを聞き、自分では気付かなかった適性を知る機会を得たり、業界についての理解が深まることも多い。相談しているうちに自分の志向が整理され、スムーズに転職活動を終えられるというケースも少なくない。
女性公認会計士のキャリア選択の幅が広がってきた今、客観的な視点を持って広く情報収集をすることが転職成功の秘訣だ。公認会計士の転職支援に強いエージェントを利用することも、効率よく転職を成功させるための足掛かりになるかもしれない。