日本法人に勤務していた者が海外支店等に転勤し、非居住者となった後、日本法人の株式を譲渡するケースがあります。この場合、当該日本法人の株式の譲渡による所得は日本で課税されるのでしょうか。

≪ケース≫
A(日本人)は、日本に居住し日本法人に勤務していましたが、昨年4月から3年間の予定でシンガポール支店に出向し、現在はシンガポールに居住しています。Xは日本に居住しているときに購入したX社(日本法人)の株式を売却することを考えています。
もし、X社株式の売却によって売却益が生じた場合、日本で課税されるのでしょうか。
なお、Aは日本国内に恒久的施設を有していません。
給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤した場合、一般的には日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者となります。したがって、このケースのAは非居住者となります。
非居住者が、内国法人の株式を売却したことによる所得は、いわゆる「事業譲渡類似株式」の譲渡や「不動産化体株式」の譲渡など一定の場合を除き、原則として日本では課税されません。
例外的に課税される場合
非居住者の場合、日本で課税を受けるのは国内源泉所得のみとされています。
また、非居住者に対する課税は、日本国内に恒久的施設を有するか否かでその方法が異なります。給与所得者が海外出向中であれば、一般的には恒久的施設を有しない非居住者に該当するものと思われます。
恒久的施設を有しない非居住者が株式等を譲渡した場合に課税されるのは、次の①から⑥のいずれかに該当する場合です。
①買集めによる株式等の譲渡
・・・同一銘柄の内国法人の株式等の買集め、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はそのあっせんにより譲渡をすることによる所得
②事業譲渡類似の株式等の譲渡
・・・内国法人の特殊関係株主等である非居住者が行うその内国法人の株式等の譲渡による所得
③不動産関連法人の株式の譲渡による所得
④税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式等の譲渡による所得
⑤日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡による所得
⑥日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡による所得
このうち、①から⑤に該当するものについては、「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に区分し、他の所得の金額と区分して税金を計算する申告分離課税となり、⑥に該当するものについては総合課税の対象となります。なお、これらに該当する場合は確定申告が必要です。
なお、これらに該当する場合であっても、租税条約により日本で課税されないことがあります。