国外関連者に対する債権の放棄は税務調査で問題視されることが多く、寄附金認定されるケースも見受けられます。今回紹介する事例では、国外関連者に対して資金貸付けし、その後、貸付債権を放棄して「子会社整理損」を計上したところ、一連の行為は「通常の経済取引として是認できる合理的理由は存在しない」として寄附金認定されました(平成22.3.25東京高裁)。
事実関係
- 日本法人であるX社(代表者甲)は、オランダで設立されたA社(株主は甲のみ)が行う自動車レースのフォーミュラワンに係る事業(以下「F1事業」)の資金調達のため、平成11年2月にA社と債務保証契約を締結した。なお、A社はX社の国外関連者に該当する。
- A社は、平成12年10月から11月にかけて銀行から229億円の借り入れを行い、X社は、当該債務保証契約に基づきA社の債務を保証し担保提供した。
- その後、X社が提供した担保の価値が下落したこと等から、担保提供からA社への資金提供に切り替え、平成13年9月から11月にかけてA社に229億円の資金提供を行った。X社はA社への資金提供をA社への貸付金として会計処理した。A社は当該資金を原資として銀行からの借入金を弁済した。
- X社は、平成14年3月にA社に対する貸付金について債権放棄し、「子会社整理損」として損金の額に算入して法人税の確定申告をした。
- 国税当局は、上記の債権放棄額は、X社が貸付金の名目で支出した寄附金であり、「国外関連者に対する寄附金」に当たるとして課税処分を行った。X社はこれを不服として訴えを提起した。
国税当局の見解
- F1事業は非常に高額の資金を要する上、極めてリスクの高い事業であり、現に本件F1事業は、資金不足によって、一度も軌道に乗ることなく行き詰まっている。このように、本件F1事業は当初から経済的に合理的な事業とはいえず、むしろ、当初から成功の見込みがほとんどなく、拠出した資金の全額ないしほぼ全額が回収不能となる可能性が極めて高い事業であった。
- 本件担保提供と資金提供を一体として検討すると、X社が貸付けの形で資金提供を行い、その後債権放棄をしたことは、実質的にみれば、A社の債務の無償引き受け、又はA社に対する利益供与若しくは贈与とみることができ、通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しない。
- X社は、保有する株式の売却によって多額の売却益が生じており、それによる税負担を軽減するためA社に対して資金提供を行う一方で、A社の債務を免除することによる損失を計上することを計画し、これを実行したものである。すなわち、X社は資金提供をする時点において、A社から資金提供に係る金銭の弁済を受けることを予定していなかったといえる。
- 以上の事実関係から、本件資金提供に係る金銭は「寄附金」に該当する。