2021年版4大監査法人の決算分析シリーズ。最後の第4回目は非監査業務に強みを持つPwCあらた有限責任監査法人(以下PwCあらた)について、2021年度を中心に直近5期の決算を分析していきます。
1.業務収入
まずは業務収入、いわゆる売上の推移から見ていきます。
(1) 売上推移

2021年6月期(以下、2021年度)の売上は548億円となり、前期比5億円(+0.9%)の増収となっています。
有限責任化に伴い決算を開示した2016年度以降、これで5期連続の増収となりますが、2021年度は+5億円、増収幅は1%弱にとどまり、毎年30~50億円ずつ売上を増加させていた2016~2020年度に比べると成長速度が鈍化しています。
ただし2017~2021年度の年平均成長率(以下、CAGR)は+6.7%であり、成熟市場である監査業界においては高い水準にあります。他のBIG4と比べると2位有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)の+5.7%を上回り、トップとなっています。
2021年度だけで見ると成長にはブレーキがかかりましたが、5年という中期的なスパンで見ると相変わらず高成長と言えそうです。
続いて監査業務と非監査業務に分けて売上推移を見てみます。
(2) 監査業務
① 売上推移

2021年度の売上は280億円となり、前期比+19億円(+7.3%)の増収となっています。
監査売上はきれいな右肩上がりとなっており、順調に成長している様子がうかがえます。2017年度からのCAGRは+6.6%となっており、売上全体の伸びと同水準です。
なお2021年度の監査売上280億円は他の大手法人の1/3程度であり、その差は徐々に縮まっているものの、規模の面ではまだ大きく差がついています。
(参考 大手監査法人の監査売上推移)

監査業務について、クライアント数と1社あたりの売上に分けてみてみます。
② クライアント数推移

2021年度の監査クライアント数は1,158社となり、前期比△24社(△2.0%)となっています。
2019年度の1,203社をピークとしてクライアント数は2期連続で減少しており、4期前の2017年度と比較しても+30社(+2.7%)と微増となっています。ここ5年間で監査売上は+60億円と30%弱増加しているものの、クライアント数はそれほど増えていないことが分かります。
③ 1社あたり売上推移

2021年度の1社あたり売上は2,394万円となり、前期比+205万円(+9.4%)となっています。
2018年度の2,090万円を底として3期連続で単価は上昇しています。また4期前の2017年度(2,104万円)と比べると+290万円(+13.8%)上昇しており、CAGRは+3.3%です。2017~2020年度は2,000~2,100万円台で推移していましたが、2021年度は2,400万円近くに大きく上昇しており、これが監査売上の増加につながっています。
以上より、監査業務の売上についてはクライアント数減少の影響を単価アップで跳ね返して増収となっています。ここ5年のトレンドで見てもクライアント数は微増にとどまる一方で単価は大きくアップしており、これはトーマツやEY新日本有限責任監査法人(以下EY新日本)と同じような傾向です。
(3) 非監査業務
① 売上推移

2021年度の売上は268億円となり、前期比△13億円(△4.9%)の減収となっています。
「業務及び財産の状況に関する説明書類」を開示した2017年度以降、毎年大幅に売上を伸ばしてきましたが、2021年度は初めて減収となり、2016年度から続いていた増収は4期連続でストップとなっています。なおBIG4のうちトーマツを除く3法人はいずれも非監査売上を減少させており、この分野では長引くコロナの影響があったのかもしれません。
非監査業務についてもクライアント数と1社あたりの売上に分けてみてみます。
② クライアント数推移

2021年度の非監査クライアント数は1,205社となり、前期比△58社(△4.6%)となっています。
監査業務同様、こちらもクライアント数を減らしています。売上の減少幅と同程度のマイナスとなっていることから、クライアント数の減少が減収につながっていると考えられます。2017年度と比べると+85社(+7.6%)となっているものの、2019年度の1,314社をピークとして2期連続で減少しており、監査クライアントと合わせてみると数を絞り込んでいる様子がうかがえます。
③ 1社あたり売上推移

2021年度の1社あたり売上は2,175万円となり、前期比△16万円(△0.7%)となっています。
こちらも低下しているとはいえ微減にとどまっており、1,800万円台だった2017~2019年度に比べると引き続き高い水準をキープしています。減収に関して、単価の面ではさほど影響はないようです。
以上より、非監査業務については主にクライアント数の減少により売上が減少したと言えます。PwCあらたは非監査業務に強みを持っていますが、2021年度は非監査売上が減収となったことで売上全体の成長も鈍化しています。また2020年度には非監査売上が全体の半分以上を占めていましたが、2021年度は再び監査の割合が大きくなっています。

ただし減収だったとはいえ非監査業務におけるPwCあらたの存在感は相変わらず大きく、BIG4の中では2位をキープしています。トップのトーマツとの差は広がりましたが、来期以降、再び成長していくことが期待されます。
(参考 大手監査法人の非監査売上推移)

次に費用に目を向けてみます。