2021年版4大監査法人の決算分析シリーズ。第1回は業務収入で業界首位に立つ有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)について、2021年度を中心に直近5期の決算を分析していきます。

1.業務収入
まずは業務収入、いわゆる売上の推移から見ていきます。
(1) 売上推移

2021年5月期(以下、2021年度)の売上は1,236億円となり、前期比+90億円(+7.9%)で過去最高を記録しています。
決算期変更により8か月の変則決算となった2017年度を除き、4期連続で1千億円を超え、また売上記録を更新しています。2018年度からの年平均成長率(以下、CAGR)は+5.7%となり、売上は順調に増加していると言えます。
トーマツの決算書上、売上は監査業務と非監査業務に分けられており、続いて業務ごとに推移を見てみます。
(2) 監査業務
① 売上推移

2021年度の売上は832億円となり、前期比+22億円(+2.8%)で、監査業務としても過去最高の売上を記録しています。
こちらもきれいな右肩上がりとなっており、2018年度からのCAGRは+3.9%となっています。売上全体の伸び(+5.7%)にはかなわないものの、成熟市場である監査業務でも引き続き売上を拡大させています。
なお2020年度の監査売上は809億円であり、EY新日本有限責任監査法人(860億円)(以下EY新日本)、有限責任あずさ監査法人(827億円)(以下あずさ)に続く3位でしたが、2021年度は832億円となり、2法人の背中が見えてきています。
監査業務について、クライアント数と1社あたり売上に分けてみてみます。
② クライアント数推移

2021年度の監査クライアント数は3,232社となり、前期比△64社(△1.9%)となっています。
クライアント数については、グラフにはない2013年度の3,642社をピークとして毎年減少しており、売上とは異なるトレンドとなっています。数年前から大手法人よる監査クライアントの絞り込みや上場準備会社における監査難民化の噂も聞こえていましたが、数字を見る限り、トーマツでは監査クライアントを厳選している様子がうかがえます。
③ 1社あたり売上推移

2021年度の1社あたり売上は2,549万円となり、前期比+98万円(+4.0%)となっています。
グラフを見ると売上と同じ右肩上がりのトレンドになっており、3期前の2018年度(2,205万円)と比べると+16%と大きく上昇し、CAGRは+4.9%となっています。監査売上のCAGR(+3.9%)に対しても単価の上昇は大きく、増収の要因は単価のアップにあることが分かります。
以上より、監査業務の売上についてはクライアント数減少を単価アップで吸収し、全体として収入は増加しています。このトレンドはここ数年継続しており、単価とクライアント数の推移からはトーマツの監査業務に対する方針が推測されます。
(3) 非監査業務
① 売上推移

2021年度の売上は404億円となり、前期比+67億円(+20.2%)で非監査業務としても過去最高の売上となっています。
監査同様、こちらも右肩上がりとなっています。3期前の2018年度と比べると100億円増加し(+33.0%)、CAGRは+10.0%と売上全体の伸び+5.7%を大きく上回っています。もともとBIG4の中でPwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)に続き非監査売上の割合が高いトーマツですが、引き続き得意の非監査業務が全体の売上をけん引しています。
なお2020年度の売上は336億円であり、BIG4の中で1位となっていましたが、2021年度は404億円とさらに増加し、トップをキープする可能性が高くなっています。売上に占める非監査業務の割合は32.7%と約3割に達しており、これは非監査割合が半分程度であるPwCあらたに次ぐ高さとなっています。一般的に非監査業務の成長率は監査業務に比べると高く、この分野に強い点は今後のトーマツの成長において有利に働く可能性がありそうです。

非監査業務についてもクライアント数と1社あたりの売上に分けてみてみます。
② クライアント数推移

2021年度の非監査クライアント数は3,067社となり、前期比△17社(△0.6%)となっています。
ここ5期でみると2019年度の3,123社をピークに2期連続で減少していますが、監査業務に比べると減少幅は小さいものとなっています。また4期前の2017年度と比べると+127社(+4.3%)と増加しており、クライアント数の減少が続く監査業務とは異なるトレンドと言えます。
③ 1社あたり売上推移

2021年度の1社あたり売上は1,315万円となり、前期比+230万円(+21.3%)となっています。
2018~2020年度にかけて1,000万円程度で横ばいでしたが、2021年度は+21.3%と大幅な伸びを見せており、単価の上昇が非監査業務の増収につながっていることが分かります。
以上より、非監査業務についても、クライアント数減の影響を単価アップでカバーし、全体として増収というトレンドになっています。
トーマツの売上についてまとめると、監査/非監査いずれもクライアントを厳選しつつ、報酬の増加や高単価の新規契約獲得に注力し、全体としても、また業務ごとに見ても過去最高の売上を記録しています。2022年度以降も得意とする非監査の分野で高成長を維持できるか、また監査売上で先を行くEY新日本、あずさに並び、追い抜くことが出来るか。業界首位トーマツの売上には注目です。
次に費用に目を向けてみます。