今回の実力派会計人は、税理士・大久保圭太氏。お洒落なバーカウンターが印象的なオフィスのColorz国際税理士法人の代表を務め、現在は税務サービスのほか財務コンサルティングや、M&A、企業再生を中心に、累計1千件以上の財務戦略を立案している。自社ブランディングにも力を入れ、勢いのある法人だが、独立初年度は役員給与・月10万円…社内教育にも苦戦をするなど意外な一面が…。今回は、大久保氏のこれまでのキャリア、そして今後の展望に迫ります。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)

サークル活動に夢中だった大学生が税理士になるまで

税理士を目指したきっかけを教えてください。

大久保:学生の頃は映画を撮るなど創作することが好きで、自由に過ごしていました。就職活動の時期になって将来はどうしようか、やりたい事もないなーと考えて本屋で見つけた本が『働かないで生きていく』というタイトル(笑)。とはいえ、現実的に考えて生活保護を受けながら、月々10万円台で節約生活をするのも嫌でした。

そのとき隣の棚にあったのが”税理士”の資格を紹介している本。偶然、伯父・伯母が税理士で開業していたこともあり、税理士業がどのような仕事かはある程度イメージできました。それなりに稼いでいて楽しそうな印象でしたので、安易な理由ですが、私も税理士を目指すことにしました。これまであまりに自由に過ごしてきたので、親戚には「お前が税理士!?」と当初笑われましたが、それでも伯父は、「それなら私の事務所に来なさい」と言ってくれてお世話になることになりました。

その伯父の事務所で3年ほど税理士試験の勉強と両立をしながら勤務しました。医師や零細企業のお客様が多く、帳簿を手書きで書いているような昔ながらの会計事務所でした。10数名ほどの従業員がいて、ベテランの方ですと何十年も働いてくれるような定着率の良い事務所だったとは思うのですが、お客様に色々提案しようとしたところ、伯父からは、申告書作成以上のことをやるなと言われまして…。

私の中では、帳簿を作成しそれを元に、顧客に提案をし経営改善や会計処理の効率化を促していくのが税理士の仕事だと思っていたので、伝票を持ち帰り入力し、FAXするだけの仕事にあまり面白さを感じませんでした。親戚とはいえ未経験で働かせてくれた伯父と伯母にはもちろん感謝していますが、その当時から申告書もいずれはAIに代わり無くなるだろうと私は考えていたので、より私にしかできない付加価値の高い提案をして喜ばれる仕事・クライアント目線で仕事をしてみたいと思い、その事務所を出ることにしました。

その後、中央青山PwCコンサルティング株式会社(現:みらいコンサルティング株式会社)にご入社されています。

大久保: 入社当初、クライアントに税務業務だけでなく経理業務の改善を提案していく必要があるという会社方針があり、新しくできた部署に配属されました。今までの会計事務所では申告書作成をすればよいと言われていたのに、今度は逆に「申告書を作らなくていい、クライアントの役に立つことだけに集中してほしい」と言われました。まさに私がやりたかったことだったので楽しかったですね。

コンサルティング業務に専念し、業務フローの改善やJ-SOXなども行っていましたが、改善ができると現場の方からは感謝されるんですよね。それがやりがいでもあったのですが、税理士を5科目取得できたこともあり、2011年独立をすることにしました。東日本大震災が起きた年でもあり、独立に際しては不安に思うこともありましたが、一度決めたら行動してしまうのが性分でしたので(笑)。

しかし、独立当初は苦労しました。

初年度は役員給与、月10万円…それでも顧客に向き合い続ける

その後、ACS(アカウンティングコンサルティングサービス)という事務所名で独立されます。

大久保:独立当初はほとんど仕事がありませんでした。初年度は、役員給与月10万円しか取れませんでした(苦笑)。経理業務の改善や計画策定のような業務が世の中には求められていると思っていましたが、実際にはなかなかそういった仕事がなくて。

独立前に経理改善の仕事ができていたのは、もともとの顧問先や大手コンサルティング会社という看板がある上で、大手の顧問先に提案するから受け入れられていた事に気が付きました。

信頼関係を築けていない街の小さな会計事務所から業務フロー改善の話をされても「今の税理士がやってくれているから」となってしまいますよね。開業する前は税務顧問10万円以下というのは見たこともなかったですし、10社ぐらい案件があれば食べていけるだろうと楽観していましたが、当初の思惑は大きく外れてしまいました…

それでも、お客様からの要望に応え、単に節税対策をするのではなく、税理士としての専門的知識や立場から「会社を強くするためにはどうしたらいいか」等のアドバイスし続けたところ、お客様が付いてくれるようになりました。それが3年目くらいです。

その時期に、案件が溢れていて手が回らないというある会計事務所と弊社がM&Aをした事が大きく転換するきっかけになりました。外食業界のお客様で攻める経営(店舗拡大や進出を積極的に行いたい等)をされているところが多く、それに伴ってこちらもご提案をしていきました。ただ、仕事が回っていない会計事務所から引き継いでいるので、最初はクレームだらけでした。それでも真摯に一生懸命対応させていただい甲斐あって、お客様との信頼関係を築くことができました。

ブランディングの為、事務所名を変更。Colorz国際税理士法人が誕生しました。

大久保:有難い事にお客様の紹介等により案件が増え、逆に人手が足りないという時期でしたので、大幅に増員をすることにしました。ACSだと似たような社名もたくさんありますし、どういった事務所か分かりにくいので社名を変更しました。

Colorzの意味は「多様性」。様々なカラーでそれぞれの個性を活かしていければと思い、その名前にしました。Colorzの最後が「z」なのはノリです(笑)。

新卒採用などを積極的に行い、30名ほど正社員がいた時期もありましたが、現在はアライアンスメンバーとして業務委託等様々な働き方にシフトチェンジしていっています。人材の育成の難しさを身に沁みると同時に、ここで改めて伯父・伯母のすごさを感じました。古い経営方法をしていると思い事務所を出ましたが、会計における基礎を大事にし続けていて安定もしている。それもあり私が勤めていた頃の先輩方も今も勤務しつづけているそうです。

申告書作成もAIに代わると思っていましたが、まだその波もきておらず、結局うちも申告書作成は人がやっています(笑)。

結局のところ、それも含めて多様性なのかなと思いますね。何が正解で、何が間違っているという事はもちろんありませんが、専門家それぞれが得意なことを活かしながら、何か一緒にできればさらにクライアントのお役に立てると思っていて、今は独立している税理士の方々と業務委託の形での提携を積極的に行っています。例えば、クラウド会計の導入が得意という方がいたら、導入はその方にお任せし、財務戦略に私たちが入るというように、それぞれの得意な分野で力を合わせていく方向にシフトをしています。これもまた、多様性を活かしたいというColorzの理念に合ったやり方だと思っています。

経営支援はクリエイティブ!未来のキャンパスに色彩を

大久保先生にとってこの仕事はどのようなものだと思われますか?

大久保:中小企業の支援はクリエイティブだと思います。当法人のクライアントは、30~40代の経営者が中心ですが、IPOやM&Aといった出口戦略を描く方が多くいらっしゃいます。

しかし、経営者は財務のことは分からないので、こちらが話していても「じゃあ、その目標に向かってどうしたらいいの?」というぐらいの感覚です。ですから、こちらが戦略を提案して、そこを目指してもらえるように「絵を描いていく」。これはクリエイティブな仕事だと思っています。経営者がなぜそれをやりたいのか、という部分を聞いていくと、一つのストーリーができあがってきます。そういうストーリーを描いていくのがこの仕事の面白さだと私が考えています。そういう意味では、税理士は豊かな発想が求められるとてもクリエイティブな職業ですよね。

クリエイティブな仕事に答えはありませんし、終わりもありません。もしかしたら、完成だと思った絵に一筆いれるだけでまた別のものになるかもしれない。それだけ、自由に未来は創造できるものだと思っています。これからも経営支援を通じ、私自身も挑戦していきたいと思います。

 

【編集後記】

つらいときでも顧客に向き合い続けてきた大久保先生。これからも財務コンサルティングを通じて、お客様の夢を叶えていくのですね。大久保先生有難うございました!

Colorz国際税理士法人

●創業

2011年

●所在地

東京都千代田区平河町2-10-10

●理念

お金を超えて、世界を変える。

企業URL

https://www.colorz-grp.com/

 

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