金融関連の会計・税務コンサルティング業界でリーディングファームである東京共同会計事務所(東京都・千代田区)。最近では、国際税務、なかでも移転価格税制対応に関するコンサルティング分野において一際存在感を増している印象を受ける。移転価格税制とは、海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し課税する制度のことをいうが、コロナ禍の影響を受けて世界各国が税収減に見舞われるなか、移転価格に関して以前にも増して厳しい指摘が行われ課税処分に至っている事例が散見されている。今回は、東京共同会計事務所の移転価格戦略コンサルティンググループの主要メンバーである丸山裕司氏、香坂慎太郎氏、渡部公丞氏に、グループ立ち上げの経緯、サービスの特徴、移転価格税制を巡る今後の展望などについて話を伺った。
移転価格戦略コンサルティンググループ発足のきっかけを教えて下さい。
丸山:メンバーのバックグラウンドは様々ですが、直近は同じ大手国際会計事務所の移転価格チームに所属しており、その中でも金融機関の金融サービスや事業会社のグループファイナンスを取り扱う金融移転価格に関するコンサルティングを専門とするチームとして動いていました。
私がプロジェクトをリードする形で大企業を中心に様々な企業と案件をご一緒させていただいていましたが、誤解を恐れずに言えば本業部分に比べ様々な要因によって移転価格対応が大きく劣後していたローン等の金融取引についてはOECDから2020年に公表された金融取引に関するガイダンスをきっかけに潜在的ニーズが高まっていくのを肌で感じていました。
一方で、我々が所属していた大手国際会計事務所はグループ内に監査法人を擁していましたので、監査人の独立性の観点からクライアントに提供するサービスに制限がかかってしまい、クライアントの経営課題に対して突っ込んだアドバイスを提供することができないことにコンサルタントとして日々もどかしさも感じていました。
移転価格対応に関する潜在的ニーズの高まりに加え、コンサルタントとしての問題意識も相俟って、より真正面から日本企業が抱える経営課題に向き合えるコンサルタントでありたいという思いからチームとして独立しようという考えに至りました。
ちょうどその頃、弊所の代表である内山が移転価格サービスの体制を強化したいと考えていたことを知り、何度か話し合いの場を持ちました。東京共同会計事務所は金融分野の会計・税務コンサルティング業界で日本におけるリーディングファームであり、またグループ内に監査法人を持たない独立系の大手会計事務所であることは認識していましたし、更に内山の考え方や目指すものに共感するところもあって、我々の思いを実現するためにはこれ以上最適な会計事務所はないだろうという結論に至りチームとしてjoinすることを決めました。
具体的にはどのようなサービスを展開されていますでしょうか。
渡部:我々が大手国際会計事務所の移転価格チーム出身ということもあり、移転価格サービスとして一般的に認識されているサービスは基本的に全て展開しています。東京共同会計事務所が世界第6位に位置するRSM Internationalのコレスポンデントファームであるため海外ネットワークを活かした案件も多くあり、例えば直近ではシンガポールや中国といったアジア諸国のRSMメンバーとも仕事をしています。
それに加えて先程も丸山の方からお話したとおり我々は金融移転価格を得意分野としています。世界的にみても金融移転価格を専門分野であることを謳いながら実際にコンサルティングサービスを一定の品質以上で提供できる会計事務所・コンサルタントは大手を含め極めて限定されています。なぜなら金融移転価格は移転価格税制の理解はもちろんのこと、金融規制、金融サービス・金融取引の内容、信用格付けの評価方法、金融市場、金融商品、金融工学などの幅広い知識が必要なため、一般的な移転価格コンサルタントにとっては非常にハードルが高いものだと考えられるからです。
丸山を筆頭に我々は大手国際会計事務所において長年に亘り金融移転価格の専門家としてサービスを提供していたことから、金融移転価格コンサルティングを中心に、特に現在においては日本企業のグループファイナンスに関する移転価格コンサルティングに注力してサービス提供しています。
具体的には、信用格付け分析、ローンの金利分析、債務保証委託に関する保証料分析、キャッシュプーリングに関するプーリングベネフィットの配分、キャプティブに関する再保険料の分析など、分析やアドバイスはもちろんのこと、移転価格リスクの評価から移転価格ポリシーの策定・移転価格文書化まで幅広くサービス提供しており、チーム立ち上げから現在に至るまでにすでに多くの企業から分析のご依頼をいただいています。
さらに、最近では同業他社でもほとんど取り扱っていない金融移転価格をテーマにしたセミナーも積極的に開催しているのですが、関心の高さを反映していずれのセミナーにも数百人程度の方々にご参加いただいています。アンケート結果も大変好評で、企業内で移転価格業務に従事される皆様の関心の高さを実感しています。また、金融移転価格のテーマで専門雑誌への寄稿の依頼も最近は多く頂いており、情報発信にも力を入れています。
移転価格で企業が押さえるべきポイントについて教えて下さい。
渡部:移転価格は一般的に更正金額が多額になる傾向にありますし、日本企業が展開している主要な海外各国においても移転価格税制の導入が進んでいることから、グループ全体での移転価格リスクを可能な限り抑えることに目を向けることが重要かと思います。
つまり、現行の法令や調査の動向等を踏まえた上で、今年或いは来年に調査が入った場合の移転価格リスクを想定しながら、自社グループ内にはそのリスクがどこにあるのか、そして金額的にどの程度のものになりそうなのかを特定することがまず押さえるべきことかと思います。もちろん法令上作成や提出が義務付けられている移転価格文書への対応をしているかどうかの確認も必要です。
移転価格リスクと一言で言っても棚卸資産取引における価格や利益率の観点もあれば、金融取引のように親子ローンの金利が独立企業間取引と比べてどうなんだという議論もあり取引の種類が多いほど見るべきポイントは多岐に渡ります。
ですので、自社グループ内で行われている取引を整理するところまでは社内でも対応が可能かとは思いますが、実際どの取引がどういう移転価格リスクを抱えているのかを認識するには専門家の助けが必要かもしれません。
移転価格税制においての注意点について教えて下さい。
香坂:移転価格税制は、グループ内取引が独立企業原則に即した価格、いわゆる独立企業間価格で行われているかどうかを日本のみならず取引相手国における移転価格税制も考慮した上で両面からみていくことが求められる厄介な税制です。
日本企業が進出している多くの国、とりわけ最近ではアジア諸国においてもOECD移転価格ガイドラインに準拠した移転価格税制が導入されてきていますし、一部の国では金融取引について明確なガイドラインを示しているものもあります。
そのため日本の法令のみならず海外の法令やOECD移転価格ガイドラインも考慮したうえでグループ内取引の価格決めや運用をしてくことが求められてきているというのはここ最近で注意すべき点になってきているかと思います。
直近では2022年1月にOECD移転価格ガイドラインが公表され、金融取引の取り扱いについても明確に記載されました。金融取引に関するパートは抽象的概念的なものではなく、実際の価格決めに際して検討すべき内容を実務的に議論している点が注目されています。
マスターファイルやローカルファイルが世界各国で導入されたように、OECD移転価格ガイドラインに記載された内容は世界各国の法令に反映され得るものとして注視しつつ今後のローカルファイルや移転価格ポリシーをどう運用していくかを検討しはじめるのも早すぎることはないでしょう。
コロナ禍における本邦・海外税務当局の課税動向について教えて下さい。
香坂:本邦・海外ともに2008年のいわゆるリーマンショックを契機とした金融危機後に見られた傾向から、一般的に移転価格税制の執行は今後厳しくなる可能性が考えられます。すでに海外諸国においては、直近のCOVID-19の影響で世界の経済活動が停滞していることを受けて、景気後退期の連結利益悪化環境における損失を現地海外子会社に被せることを防ぐために特にアジア諸国では厳しい調査が行われている事例が散見されるようになってきています。
つまり、海外子会社の業績が著しく悪化しているような場合に、その要因となっている損失やコストを海外子会社に負担させるべきものなのかどうかという点が調査において議論になっているということです。これは一例ですが、例えば各国の強制的なロックダウンに起因する操業停止にかかる直接的なコストについては、本社及び海外子会社の機能・リスク分析を行った上でどう取り扱うかの議論になりはするものの、実務的にはいわゆる移転価格調整の対象に含まれないという見方が一般的になっていて、その解釈に基づけば、これらのコストは、現地の海外子会社が負担すべきという扱いになるかと思います。
とはいえ、こういった通常起こり得ないようなケースには最初から正解があるわけではないため、税務調査で特に議論となりやすい傾向にあります。よって、税務当局への説明の仕方も含め事前に対応を十分に検討されておくことが望ましいと言えます。
一方、日本の税務調査においても海外と同様の議論が行われると考えられますが、もう一点論点を挙げるとすれば金融取引について厳しく調査されることが予想される、ということでしょうか。背景には、金融取引に関する移転価格ガイダンスが公表され今年に入って公表された2022年版のOECD移転価格ガイドラインにも盛り込まれたこと、金融機関での勤務経験を有する即戦力人材を国際税務専門官として東京国税局が中途採用で募集していたこと、多くの日本企業で海外子会社の業績悪化が顕著になっていることなどが挙げられます。
実際、この1~2年間で親子間ローンの金利の妥当性、債務保証委託取引に関する保証料率の対価性や料率の妥当性についての指導や課税事例も以前にも増して多く耳にしています。特にこういった時期では国外関連取引の価格設定に変化があるかどうかはよく見られるポイントですが、それは金融取引においても例外ではなく最近ではより顕著になっているということです。
どのようなお悩みを抱えた企業がご相談に来られますか
丸山:ご相談に来られる多くの企業はグループファイナンス取引に関する相談が圧倒的に多い状況です。繰り返しにはなりますが金融取引に関する移転価格ガイダンスが公表されて以降、金融取引に対する関心の風向きが変わったと思います。
自社のグループファイナンスへの影響として移転価格リスクはどれぐらいあるのか、借手の信用格付けはどのように評価すればよいのか、金利のベンチマーク分析はどのように実施すればよいのかなどの実務的なご相談から、公表されてからの同業他社の対応状況やグループファイナンス取引に関する最近の日本の税務調査の状況についての問い合わせも多くいただいています。
また、COVID-19の影響を受けて、改めてグループとしての財務ガバナンスの強化、グループ内余剰資金の有効活用などを目的としてキャッシュプーリングの導入やキャプティブ子会社の設立を検討している企業からのご相談も徐々にではありますが増えています。
金融取引はこれまでの移転価格実務では殆ど馴染みのない分野だったと理解していますので、ある程度プラクティスが確立している棚卸資産取引や無形資産取引に比べて対応に苦慮されていたのではないでしょうか。
しかし最近では金融取引について多くの企業がOECDや税務当局、同業他社の状況にアンテナを張りながら先手先手で対応を検討されている状況にあると実感しています。
さらに最近では、金融取引に関わらず今まで移転価格対応を全く行ってこなかった中堅企業、中小企業などからのご相談も顕著に増えています。2000年代までは連結売上高が数千億円を超えるような大企業だけが移転価格調査の対象となる傾向がありましたが、直近では連結売上高が百億円に満たない企業までもが移転価格調査の対象となる事例も散見されるようになったことを受け、さすがに何も移転価格対応をやっていないという状況は望ましくない、という判断で相談いただいているものと思います。
これから移転価格対応を検討されている企業に向けてコメントをお願いします。
香坂:ローカルファイルの作成義務が生じていて喫緊で作成しなければいけないといった状況であればすぐにでも対応することが必要かもしれませんが、基本的にはグループ内取引を見渡した時に、まずはどの取引にどういった移転価格対応が必要となるのかを整理しないことには移転価格リスクを見落としてしまい適切な対応ができない可能性があります。
ですので、まずはグループ内取引を整理した上でこういう取引状況だけれども自社における移転価格リスクはどこにどの程度あるのかといったことを専門家のサポートを受けながら状況整理していくといいのではないでしょうか。
実際、様々な国の子会社と様々な取引をされている企業からご相談を受けると、まずは状況整理のために移転価格リスクを特定するところからサポートさせていただいているケースが多くあります。
また、移転価格税制は消費税や源泉税といった一般的な税務とは異なり予め定められた具体的な計算ロジックが用意されているわけではなく、どこでどのように入手すればよいのか具体的な指針もない第三者間の取引価格を独立企業間価格と見做して比較しなければいけないといった税制で、しかも実際にやろうとすると解釈の余地も多く残されていることが分かってくるため実務に落とし込もうとするにも中々対応が難しい税制と言われています。
丸山:特に金融取引の価格設定などに至っては今回のインタビューで何度も触れているように税務業務や本業のビジネスをしている上ではなかなか必要とされない高度な金融知識が求められますので、余計に対応が難しく二の足を踏んでしまいがちです。
一方で各国の税務当局はOECDや各国の動向、世の中の変化にとても敏感で外部の知見も積極的に取り入れながら次々に新たなアプローチを研究し税務調査を行いますから、やはり企業側としてもそれに応じた積極的な対応は必然的に求められるのだと思います。
企業を取り巻く環境はCOVID-19の影響もあり厳しい一方で、移転価格税制は年々複雑になっていく上に移転価格調査も継続的に行われており、今後は金融取引まで対象になっていきます。
税務担当者の方は非常に勉強熱心でアンテナを広く張っている方が多い印象ですので、今移転価格税制への対応において何を気にしなければいけないのかを一度ディスカッションさせていただければと思っています。特に金融取引については、そもそもどういう外部環境がどういう状況にあるのかといったところから、実務的な対応方法、そして金融のマニアックな話まで色々とさせていただけると思います。
渡部:マニアックな話になると我々も勉強させていただくこともあり、ミーティング中に大変盛り上がることがあります笑
丸山:そうですね。我々はクライアントとはオープンに様々なトピックをお話させていただいていますので、カジュアルにお話されたい企業の方でも是非一度ご連絡頂ければと思います。
【略歴】
丸山 裕司 氏
移転価格戦略コンサルティンググループ 統括
パートナー
大手監査法人、外資系コンサルティング会社等勤務を経て東京共同会計事務所に入所。
業界随一の豊富な実務経験を誇り、調査事例や判例・裁決例等にも精通。特にグループファイナンス取引及び金融サービスに関する移転価格コンサルティング実績が豊富であり、執筆やセミナー活動も積極的に行う。
米国公認会計士 (ニューハンプシャー州)
東京大学法学部卒業 (学士)
香坂 慎太郎 氏
移転価格戦略コンサルティンググループ 副統括
シニアマネージャー
国際会計事務所等勤務を経て東京共同会計事務所に入所 。
移転価格の専門家として10年以上の経験を有し、日系・外資系の大手事業会社及び金融機関における様々な移転価格コンサルティングに関する実績が豊富。特に、グループファイナンス取引関連のアドバイスに強みを持つ。
大手総合金融サービス会社における移転価格業務の経験も有している。
早稲田大学商学部卒業 (学士)
渡部 公丞 氏
移転価格戦略コンサルティンググループ
マネージャー
大手コンサルティング会社、国際会計事務所等勤務を経て東京共同会計事務所に入所。
国際会計事務所では、金融移転価格チームに在籍し、日系・外資系金融機関の移転価格コンサルティングだけではなく、事業会社のグループファイナンス取引に関する移転価格コンサルティング、M&A税務デューデリジェンス等の豊富な実務経験を有する。
中央大学商学部会計学科卒業 (学士)
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