上場準備会社は組織体制を随時変更しながら成長していくことが求められます。組織体制の変更には人材の採用や定着が課題となります。人の採用や教育には時間がかかります。付け焼き刃の対応は通用しません。特にIPOを狙う上場準備会社は計画的に対応をしていくことが大切です。本記事では従業員の目線を折り込んでIPOにおける必要な組織体制や人材について解説していきます。

目次

  1. 組織体制を強化する必要性
  2. 意思決定機関の確立
  3. 内部牽制の仕組みづくり
  4. 適切な人員配置
  5. 採用活動
  6. 定着の重要性
  7. まとめ

1.組織体制を強化する必要性

IPOをする会社、すなわち上場会社は、財務知識についてプロとは限らない一般投資家が株式を売買する対象であり、社会的な影響力も大きいため、タイムリー・ディスクロージャーとコンプライアンスを合理的に説明できる水準で組織体制を強化することが求められます。組織体制の要点は、以下の4つです。

①意思決定機関の確立

②内部統制の仕組みづくり

③適正な人員配置

④内部監査制度

2.意思決定機関の確立

上場する会社には、合議機関を経て、主要事項が組織的に決定される体制として意思決定機関の確立が求められます。具体的には取締役会の設置や監査役会の設置です。これらを設置するためには定款を変更したり、登記を変更したりする必要が出てくる可能性があります。また、役員も必要となります。必要な役員は以下のとおりです。

  • 常勤取締役3名
  • 社外取締役1名
  • 常勤監査役1名
  • 社外勤監査役2名
  • 独立役員1名

*機関設計は様々なパターンがあるので、マザーズ上場を目指す際のオーソドックスな機関設計の例とします。

 

意思決定機関を合議制で進めていくための運用に実行力を持たせるには「規定作り」も必要です。ルールが明確でなければ権限移譲を行うことは難しいわけです。ルールがあることで、ワークフローを整備しやすくもなり、稟議システムを設けられ承認権限を設定できるからです。規定は細かく分けると50個以上になりやすいですが、大別すると「基本規程」、「組織規程」、「人事労務規程」、「総務庶務規程」、「業務規程」に分けられます。

3.内部牽制の仕組みづくり

内部牽制とは、1つの取引を複数の人および組織を介して処理することで相互に牽制し、不正や誤謬を防止する仕組みを作ることです。

方法の例としては、各部門へ責任者を配置し、責任者の兼任関係(横と縦)を解消します。規程等を周知徹底し、担当者によるダブルチェックや上長による承認フローを明確にするなどして対応していきます。経理体制の強化としては、記帳業務と出納業務を分離します。

4.適切な人員配置

内部牽制を組み込んだ組織整備を行っても、人材不足では、 実質的に内部牽制が機能しません。タイムリー・ディスクロージャーのためにも十分な人員が必要です。このため適切な人員配置が重要となります。

 

たとえばタイムリー・ディスクロージャーには、毎月10日以内で締めて月次決算を行う決算の早期化のための人員補強が必要です。単に数字を締めるだけではなく、予算分析資料や取締役会向けの資料も必要となります。他にも中期経営計画の策定や決算短信、四半期報告書、有価証券報告書なども必要となります。上場時においては、新規上場申請者に係る各種説明資料の作成も必要です。年に一回、税務申告のための決算しかしていない中小企業からしたら相当な人員増となるでしょう。

 

法務部も増員が必要です。反社チェックフローを整備し、契約書への暴力団等排除条項の挿入することはもちろん、コンプライアンス体制を構築することが必要です。

 

労務もコンプライアンスが重要です。未払残業代が発生しないように、時間集計が適切に行われる勤怠管理の仕組みや運用のチェック体制が必要となります。単に人事の人員を増やすだけではなく、現場の労務環境を監督できる管理職の実行体制から作ることが必要となります。

5.内部監査制度

 

未上場の会社と大きく異なりやすい点が、経営者に代わって効率的な経営が行われているかどうか等を検証する内部監査制度です。原則として社長直属の社内で独立させた組織が、社内の各種規程や社内ルールに従って業務が遂行されているかを検証します。内部監査を行う部署は社長に代わって経営効率の向上につながる提言・指導まで行います。

 

内部監査は上場時の審査において運用実績も大切な要素として確認されます。

 

内部監査は闇雲に実施されるわけではなく、下記のような一定のルールを用います。

①年度ごとに監査計画の立案

②監査計画書に基づいて内部監査を実施

③監査対象へ報告会の実施

④内部監査報告書を以て社長へ報告

⑤社長名による改善勧告

⑥改善状況の確認

 

内部監査制度とは少し枠組が異なりますが、内部通報制度(公益通報制度)の整備も必要です。内部通報制度を社内で告知し、内部通報の窓口を設置します。

6.採用活動

IPOで実は難題とされていることが採用活動です。必要になってから人を集めはじめても間に合わないのです。十分な役職を人員で埋められずn-2期を繰り返している会社もあるほどです。CFOに適した希少人材などは多額な報酬を設定しても集まらないことすらあります。採用される側も都合があるので入社時期を見越して採用活動をすることが重要です。

 

採用は、売上や利益を拡大していくにあたり、営業などフロントスタッフも必要です。担当者を増やすということは管理職も必要になります。営業が増えて売上が増えるということは生産人員も強化していくことが必要です。

 

採用は計画的に対応すれば解決できる課題です。計画的に行うためのポイントは次の3つ。人事が完璧なのに最終面接がなかなか出来なくて採用を逃している企業も散見されます。経営者も採用にコミットすることが大切です。募集する媒体や情報発信に意識が行きがちですが、下記のようなそもそも論が実は一番重要なのです。

  • 事業計画
  • 成長する組織を見据えた人員要件の整理
  • 募集スケジュールと面談体制スケジュールの確保

7.定着の重要性

先程も述べたとおり採用活動がとても重要ですが、同時に従業員の定着も大切です。上場準備会社は、組織の変化が大きいため、馴染めずにやめてしまったり、教育が不十分でついてくることができなくなり退職してしまったりする方が発生しやすい環境となるためです。採用活動は採用コストもかかります。採用後は教育コストもかかります。新しい人員に即戦力を期待し過ぎることは事業運営にリスクを伴います。従業員が辞めたいと思うより、頑張りたいと思う定着環境はほったらかしでは醸成できません。解決するためには3つの観点が大切です。

 

①モチベーション管理

  • 雰囲気作り

上場準備会社が雰囲気推しな社内イベントをよくやっていて、そういった行事に冷ややかな方もいらっしゃいますが、実は、合理的な活動です。上場準備会社は随時変化していると言ってもよいくらい変化が大きいです。頭でわかっていても感覚に馴染んでこないといったことが起きやすいです。イベントを実施して印象的な節目を設けることは、自然と全社的に同じ目線で社内に目を向ける機会となり、組織の在り方を空気で掴めることに繋がります。社内イベントはシーズンイベントの楽しみとしても良いですし、表彰などを口実にしてもよいでしょう。大事なことは実施することです。貴重なオフジョブコミュニケーションとなり、インターナルブランディングを実現します。

 

  • 1to1コミュニケーション

仕事上の中だけではなかなか本質的な個人の意志にふれることは難しいです。管理できている気になっていたら、突然辞められてしまって職責が空いてしまったなんていう残念なことが起きがちです。できれば会議室などではなく、ランチや会社の近くのカフェ、場合によっては経費を使ってでもちょっと気持ちが切り替わるところで働き方やキャリアについてオフサイトミーティングを1to1で行うことが望ましいでしょう。少なくとも会社として従業員の声を聞く姿勢を見せることができ、若手には有効な手段と言えます。

 

  • 条件の見直し

上場準備会社は入社したときから状況が目まぐるしく変わっていることがあります。これは従業員の条件も同じです。入社当初は部下がいなかったけど、1年経っただけで気付いたら10人の部下の面倒を実質的にみているといったことや、会社の業績がとても好調なのにボーナスが対して増えないなどがあると従業員は頑張っている分について損と感じがちです。

 

②研修など教育

上場準備会社で従業員の退職理由に「必要なことを教えてもらなかった」があります。変化の激しい環境でノウハウやそもそもなぜその対応を自分がしないといけないかについて理解させてもらえずに疲弊して不満が溜まって辞めてしまうケースです。OJTで教えるには非効率な内容もあります。IPOの知識などはまさにです。逆に手厚い研修の制度があると、経営者からの従業員への期待と安心を感じ、会社へのありがたみを持ちやすいです。もちろん研修が多すぎて業務へ負荷が多すぎると不満に繋がります。適切な研修企画が重要となります。特に最近の若い層は、直属の上司などによるOJTよりも、研修の充実を好む傾向が強いといえます。幹部候補へも、幹部に相応しいマネジメント教養を計画的に教育していくことが求められます。

 

③会社ブランディング

給与や残業時間といった条件だけでなく、従業員は自信のアイデンティティや、ソーシャルな結びつき、会社の多様性への受容の一致など、なぜその会社で働くのかが益々重要視されてきています。特に若い人は条件よりもそういった定性的な愛着要素を重視する方が増えています。ブランディングとして会社のアイデンティティを確立し、帰属意識を醸成することは、従業員の定着に有用なポイントとなっています。

8.まとめ

上場準備会社は、組織体制を随時変更しながら成長していくことが求められます。組織体制の変更には人材の採用や定着が課題となりますが、スムーズに対応できている会社は稀でしょう。全社一丸となって助け合える環境をつくることが重要です。採用を従業員が紹介することも強力な助力となります。全体像を従業員も一緒になって理解し、向き合える環境整備がファーストステップでしょう。

 

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