IPOを行う会社は組織として活動を行います。組織を効果的かつ効率的に機能させ、主体的かつ自律的に統制するためには、仕組みが必要です。今回は、その重要な要素である権限委譲について説明します。
目次
- 権限委譲の目的
- 権限委譲のメリット
- 権限委譲の注意点
- IPOにおける権限委譲のポイント
- まとめ
1.権限委譲の目的
権限委譲とは、業務上の権限を部分的に部下へ委ね、部下の自己裁量で業務を行えるようにすることを言います。
権限委譲が必要とされるのは、組織として主体的かつ自律的に業務に向き合うことができ、生産性を向上させるためです。
もう少し詳しく考えてみましょう。会社の活動が大きくなると組織の規模も大きくなってくるため、すべてのことを社長が判断し確認することは不可能になります。業務によっては指示で解決できる内容だけでなく、判断を必要とするものも多いでしょう。そして、判断の範囲や手順に関するルールがないと責任を鑑みた対応を行うことができません。
ビジネス環境では変化へ柔軟に対応する適応力が求められており、さらに市場は競争が激しくスピード感のある対応も求められるためです。
取れるリスクや対応力は、職責上の権限や責任が影響します。仮に想定では個人の能力として対応ができるものであったとしても、他者に補償を要するような問題が生じ、且つ個人で対応できないような課題が生じた際に、責任を問われることとなる相手方にとっては、個人で対応できないから仕方ないとはなりません。
このように解決しなければならない事柄があるとき、組織として対応するためのリスクの取り方や対応について判断できる指標が必要となるわけです。
特にIPOの観点でいえば、業務に対するリスク・コンプライアンスとして重要な要素と言えるでしょう。
2.権限委譲のメリット
①裁量範囲を持って取り組むことはモチベーションに繋がる
裁量を持つことで、自分のアイデアを反映させ、主体性、独自性を発揮できることに繋がり、業務に面白さや存在意義を感じやすくなるでしょう。また、自分の判断で進められることは、業務の進めやすさや存在感を感じることができるため、自己効力感を高めることに繋がります。
②不確実性への対応スピードが上がり、対応ニーズに気づけるようになる
たくさんの確認ステップを踏むとその分対応スピードは落ちます。逆に言えば、確認ステップが少ないほど対応速度が早くなるのです。また、普段から「判断」を意識できていると環境の変化に気づきやすくなり、対応ニーズを理解できるようになります。
③マネジメント層が経営に専任しやすくなる
情報が「相談対応」ではなく、「報告の確認」で済むようになりアウトプットの手間を大幅に減らすことができます。マネジメントできる範囲が広く深くなるため、効果的で効率的な経営に専任しやすくなります。
④組織が安定しやすくなる
権限委譲を行う際は、ビジネス環境をよく理解した上でルール化を実施します。そのため、属人性を減らすことに繋がり、業務移譲もしやすくなるでしょう。人の流動や規模拡大に際する対応力が向上します。
3.権限委譲の注意点
①ポテンシャルを超えない人員配置
ベンチャーで起こりがちな問題です。やる気や勢いはあるし、現況の業務はこなせているからと安易なチャレンジをさせると、途端に混乱して立て直しすらできなくなり、自信も失って退職するということが起こりがちです。どのような業務を任せることができて、どれくらいの挑戦なら達成可能なのか、部下の業務遂行能力を多面的に把握していくことが重要です。失敗の確率を下げるために、権限委譲の仕組みを作ってもすぐに部下に運用させずに上司が運用をしてみせ、イメージをもたせることが有用です。結果として、単なる無茶ぶりとならないように気をつけましょう。部下が対応すべき領域について、容易にやれる筋道を見える化できるくらいでなければいけません。
②やってはいけないことの明確化
権限委譲は「権利」の委譲と誤解されがちです。併せて「限界」も伝達することが重要です。「限界」の意味としては、「責任」も併せて対応が必要であることや、「当然にやってはいけないことは何か」についても改めて周知徹底を図ることが重要です。権限委譲をしても、活動のスタンスとして、コンプライアンスが緩和されるわけではないのに権限を最大限発揮するために、気が緩む方がでやすいことも事実です。
③全体最適の視点
権限委譲をすることで近視眼的な行動になる方も多いです。あくまでとなっているかの視点を常に持てる確認の仕組みが重要です。全体最適化は一時点に限らず、将来への影響も含めて考慮することが重要です。裁量が増えるということは全社に与える影響も大きくなるため、持っておくべき重要な視点となります。また、ルール上の権限委譲で認められているからと、実行すべきでないこともOKとなりがちです。余った予算の無理な消化がわかりやすい例です。
4.IPOにおける権限委譲のポイント
IPOでは実態として権限委譲が出来ているかも確認しますし、制度としては下記が整っていて、周知徹底され、運用されているかを確認します。
①業務分掌規程
各自の役割認識や責任意識が芽生えるように、中期経営計画を達成するための各部門の役割を明確化できるような整備となっているかが大切です。内部牽制が有効に機能する形で作成する必要があります。業務の適正さを判断する材料としても活用でき、人事評価の下地とも言えます。作成の大まかな流れとしては、組織図をつくり、全従業員の所属と業務の洗い出しを行い、業務に関する情報量について粒度を揃えて、整理していきます。
②職務権限規程
業務分掌規程により役割を明確化するとともに、権限委譲の範囲や度合いを職務権限規程として責任を明確化にします。なお、職務権限規定は職務に焦点を当てて定められた規程であり、就業規則の服務規程は会社で働く社員が守るべき最低限のルールを定めたものとして立ち位置や向き合うスタンスが異なります。作成の大まかな流れとしては、業務分掌規定の過程で整理した組織図に対して業務を書き加えていき、まずは業務を洗い出します。そして、各部署で重複している職務や非効率な作業を見つけて整理します。職務が整理されたら、次は権限を振り分けます。
③稟議制度
一定金額以上や一定案件について、複数の意思決定権者の判断を反映させ、組織的に意思決定していくために設けます。重要な事項が1人の判断に委ねられることがないよう、会議体の設計と合わせて検討して設計します。稟議書には、関係者のスケジュールを調整した会議開催の手間を省けるメリットがあります。稟議としては、稟議の事柄、稟議の目的、稟議の理由、承認して欲しい内容を明確にできるフォーマットが求められます。
④諸規程の作成
企業が活動を行う上で業務上のルールや処理手順を明文化する意味合いで作成します。活動の属人化や従業員による会社の意図しない活動を防ぐ役割があります。規程の内容は実態に即し、実際に運用可能かを見直していく必要があります。形式的なマニュアルとしては役割として不十分とみなされます。
5.まとめ
権限委譲の仕組みについて、IPOへチャレンジする会社は、成長によって見直しが度々必要となることもあるでしょう。単にIPOのための仕組みづくりとしてだけではなく、急成長を適切に支えるためにも重要です。従業員にとっても役割と責任が明確になって働きやすくなり、評価の合理性も説明しやすくなります。仕組み化に向けて前向きな取り組みが望ましいでしょう。
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しかし影響を受ける従業員には十分な説明がされないことがどの会社でも慣習となってしまっています。
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