IPOの審査で重要な役割を担っているものの、意外と思われがちな労務。特に残業代未払いなど従業員にとって身近な項目は必須。労働時間の集計から丁寧な対応が必要です。従業員にとっては安心して働ける環境づくりでもあるIPOのポイントです。本記事ではIPOに関する労務体制の強化方法について記載します。

目次

  1. 労務体制の強化の必要性
  2. IPOにおける審査対応で注意すべきポイント
  3. まとめ

1.労務体制の強化の必要性

IPOを行う企業はコンプライアンスを意識した経営が重要であり、労務コンプライアンスもそのうちの一環です。問題が起きていないからOKではなく、リスク管理まで必要です。労務に課題があるということは、コスト発生リスク、訴訟リスク、行政処分リスク、社会的信用リスクといった具体的な経営リスクとして認識されるためです。

 

・コスト発生リスク

残業代未払いがイメージしやすいでしょう。労働基準法によって、未払残業代の時効は、2020年3月31日までに発生したものについては2年、2020年4月1日以降に発生したものは3年となっています。退職従業員についても未払いがあれば残業代の精算が必要です。企業によっては従業員からの訴訟リスクともなり得るテーマであり、センシティブな対応が求められます。

ベンチャー企業では労働者との契約で残業代を固定にしていることがよくありますが、みなし残業時間を超過する時間については残業代を精算する義務があります。労使関係で合意が書面で取れていても法律としてダメな内容ならダメだということです。

また、勤怠管理も重要です。企業によっては美徳とされるような隠れ残業はもっての外となります。企業側には残業代の支払いが義務となり、そもそも勤怠管理すらできていないと厳しい評価となるのです。勤怠管理ツールだけではなく業務を可視化するような業務管理ツールの導入が対策として有効でしょう。

 

・訴訟リスク

IPOでは係争事件はセンシティブに取り扱われます。ましてや労働訴訟は会社の体質から疑われる内容となり、より扱いに細心の注意が必要です。セクハラ、パワハラ、アルハラといった各種ハラスメント、残業代未払いなど様々な負の可能性を生じさせない社内制度などの仕組みづくりや、組織文化が重要になります。また、仮に訴訟が起きた際には、会社としての責任を果たしていることの合理的な説明とスムーズな対応が必要となります。

 

・行政処分リスク

労働環境が悪質な場合には業務の取り消しや免許の取り消しがあり得ます。また、労働基準監督官が行う監督指導についても指導を受けてしまわないように仕組みを整えることが必要です。

労働基準監督官が行う監督指導の例は、以下が挙げられます。

  • 時間外労働に関する届出を労働基準監督署に届け出ていない、または届け出た上限時間を上回って時間外労働(残業)を行わせている
  • 機械や設備などの安全基準を満たしていなかった
  • 時間外労働(残業)等に対して割増賃金を支払っていなかったもの(一部未払を含む)
  • 健康診断を実施していないなど

給与の計算だけではない、労働環境に関する内容にも配慮が必要です。

IPOにチャレンジしている企業でも是正勧告を受ける企業は意外と多いです。上場審査に関するQ&Aでも明示されていますが、是正勧告を受けてもIPOができなくなるわけではありません。労働環境が改善されたという是正報告を提出することでクリアできます。

 

・社会的信用リスク

大規模な行政処分が下り、マスコミ報道されるまでではないにしても、不満を持った従業員がSNSに書き込みをして炎上させてしまったり、転職情報サイトなどに会社実態として投稿されてしまったりすることが懸念されます。一度記載されると削除のための費用は膨大、または消しきれないという可能性もあります。

2.IPOにおける審査対応で注意すべきポイント

IPOの審査対応において労務関連で問われるポイントは次のとおりです。

①経営目標に沿った人事組織施策

組織マネジメントの安定度を理解されます。直近3年間の従業員の移動状況(離職率等)、給与・賞与の水準、平均年齢、平均勤続年数や今後の人員計画を合理的に説明できることが重要です。たまたま採用して辞めましたは通用せず、合理的で計画的な人事施策が求められます。

 

②法令を遵守し、実態にあった規定などの整備・運用

就業規則、賃金規程、退職金規程、育児・介護規程、人事考課規程などの人事労務関係規程の整備や、適切な労働環境を機能させる組織規程、職務権限規程、職務分掌規程、規程管理規程などを実態に合わせて、かつ、法令に基づいて整備する必要があります。有期契約従業員や臨時従業員、高齢者・障害者雇用、出向者や派遣社員など、従業員区分ごとに作ることも必要です。

また、労使協定や法定帳簿類(労働者名簿、賃金台帳、労働条件通知書)の整備及び保管も重要なポイントです。

 

③労働保険・社会保険の適切な加入

雇用保険や労災保険と言った労働保険、健康保険や厚生年金保険といった社会保険に適切に加入する必要があります。たとえば、雇用保険は、事業所規模にかかわらず、①1週間の所定労働時間が20時間以上で、②31日以上の雇用見込がある人を雇い入れた場合は適用対象となり、雇用保険制度への加入は事業主の義務です。労災保険は、労働者を一人でも雇用する会社は適用されます。健康保険及び厚生年金保険は、法人の事業所は強制適用です。

 

④労働時間・休憩時間の客観的な記録と管理

未払い残業代の有無はIPOで大きなテーマです。賃金の適正な支払いが行われているか、体制から構築することが求められます。賃金の計算ロジックだけではなく、適切な勤怠管理によって時間集計が適切に行われる状況を担保することが必要です。労働時間の管理は1分単位で必要。15分や30分を1単位のように記録しているだけでは不十分となります。労働時間の把握は、タイムカードだけでは証跡として不十分です。パソコンの使用記録や入退室記録などと照合することが必須であり、専用の管理ツールを導入することが解決の早道であることが多いでしょう。

 

⑤安全衛生管理体制

要件を満たした管理監督者の取り扱いや、時間外労働のアラート、長時間労働のアラートが得られることがポイントです。管理監督者は、①組織図、職務権限規程などに照らしたとき、該当者の権限・責任・職位がふさわしく、経営会議に参画して意見が言えることや、②会社の拘束を受けず本人裁量により時間管理が任されていること、③一般社員と比べて総合的に十分な待遇(報酬)がなされていることが必要であり、名ばかりの管理監督者(名ばかり管理職)では不十分です。

休日労働の管理、有給休暇取得状況の管理、振休・代休の適切な管理が求められます。

 

⑥社員教育制度

各階層において期待される仕事や役割を理解するための、階層別の教育制度やコンプライアンス研修、ハラスメント防止に関する研修など定期的に実施されている研修が何かを把握する等、教育体制も整備・運用しておくことが大切です。特に、全従業員へ教育の機会が大切ですが、管理職や中堅社員以上の層に対して教育機会を設けることはバナンスやコンプライアンスの強化が求められることから、特に重要と言えます。

 

⑦労働基準監督署からの是正状況

まずは是正のための指導を受けないような状況を作ることが大切ですが、是正指導を受けた場合は、適切な労働環境に改善したことを認めてもらうための対応が必要です。

 

⑧労働問題に関する訴訟や紛争の有無

訴訟が起きていないことが当然に理想ですが、起きていても企業側の責任についての合理的な説明や、対処をできる体制を作っておくことが重要です。訴訟にまでなっていなくてもSNSにおける炎上などリスクを抱えていてはいけませんので、適切な管理体制を行うことが求められます。

3.まとめ

上場会社は従業員がしっかり守られている感じがしませんでしょうか。IPOチャレンジする会社も上場したらそうなるように労務コンプライアンスが求められます。従業員にとっては安心して働ける環境づくりとも言えるでしょう。IPOは従業員にとっては、キャリアにおけるブランディングなりますし、働きやすい環境を手に入れるチャンスとも言えますね。

 

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