事業を行ううえで、何よりも重要なのはキャッシュだ。資金繰りを考えると節税の機会があれば積極的に活用すべきだろう。今回は減価償却資産の処分等について、節税につながるポイントを紹介したい。

■使用しない「減価償却資産」は処分するのが基本
個人事業主として事業を行っていると、確定申告等のタイミングで減価償却資産という言葉を耳にすることがあると思う。減価償却資産とは、事業を行ううえで業務のために用いられる資産で、一般的に時間の経過により価値が減少していくものだ。種類としては、建物・建物附属設備・機械装置・器具備品・車両運搬具などさまざまであるが、例えば土地のように時間の経過に応じて価値が減少するわけではないものは、減価償却資産には該当しない。
これら減価償却資産の会計処理については、取得時に全額費用となるわけではなく、耐用年数に応じ徐々に費用化される。一方で、分割払い等の場合を除けば、キャッシュとしては取得時に一括して出ていくこととなる。結果として、キャッシュアウトが発生するものの、費用化は徐々に行われるため、キャッシュアウト分の税金が軽減されることもなく、資金繰りを圧迫することになるのだ。
よって節税・資金繰りの観点から、黒字を前提とするならば、減価償却資産を早期に費用化することがひとつのポイントとなる。そのため、償却が終わる前に使用しなくなった償却資産を保有している場合は、早急に現物を処分し、除却損を計上することが必要になるだろう。
■実際に存在する資産でも、有姿除却として損失計上が可能
一方、現実問題として、処分しようにも処分費用がかかるため処分できていない、という場合がある。このような場合には、減価償却が完了するまで待つしかないのだろうか。
実はこのようなケースに対応する「有姿除却(ゆうしじょきゃく)」という方法がある。これは、一定の要件に該当する場合に、実際に処分しなくても有姿除却として損失を計上する方法だ。
その要件とは、以下のようなものである。
・その使用を廃止し、今後事業に使用する可能性がないもの
・特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことが明らかなもの
つまり、「有姿除却」とは実際に処分はしていないものの、今後事業に「使用しない」「できない」ということを前提として、その減価償却資産の費用化を会計上計上するという処理である。よって、今は使うつもりはないが、定期的にメンテナンスをしており、いつでも使用できる状態にあるようなものは「有姿除却」とすることはできない。
なお、費用として計上する金額は「帳簿価格」-「処分見込価額」(スクラップ価格)となる。
この「有姿除却」という方法であれば、実際の処分を伴わないため、決算ギリギリであっても除却損の計上が可能となる。
ただし、実務上は要件を満たすことを示す資料を準備しておく必要があるため、その点は注意が必要だ。
■資産管理の重要性
個人で事業を営んでいると、モノ(事業用資産)の管理というのはどうしても疎かになってしまいがちだ。しかし、健全に事業を行っていくには、ヒト・モノ・カネ・情報を十分に活用していく必要がある。
まずは、年末等のタイミングで、事業用の資産として何を保有しているのか、使用していない減価償却資産でこの先も使用しないものがないかを見直し、自らの資産保有状況を確認する。そして、不要なものは処分または有姿除却し、確実に節税しておく。
このような資産管理をきっちりすることで、節税だけではなく、事業のムダを省き、ひいては経営の安定化につながるだろう。