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平成27年分 富裕層の海外資産のトップは有価証券 国外財産調書から国税庁が実態把握

富裕層の海外資産を把握するために導入された「国外財産調書」制度。平成27年分の提出者数は8893件で、前年分と比較して若干提出件数は増加した。ただ、富裕層全体数からすると、この提出数は少ないとの指摘もある。今後、どれだけ国税当局が富裕層の海外資産情報を収集していくのか関心が高まっている。

世界の名だたる政治家や富豪、有名企業などがタックスヘイブンに資産を移転していたことが明るみになった「パナマ文書」には、約400件の日本の個人や法人の情報が含まれていた。パナマだけが国際的なタックスヘイブンではないので、全世界で見たとき、日本人がどれだけ海外に資産を持っていっているのか実態はつかめていない。

では、なぜ富裕層が海外に資産を持っていくのか?それは、「国税当局も把握できない」という理由がひとつにある。税務調査においても、日本の国税当局の力が及ぶのが国内のみということからも、資産を海外に移転させたら簡単に調査できないとの考えもあるようだ。

ただ、国税当局も黙って見ているだけではない。情報収集に力を入れており、その中心的施策が「国外財産調書」制度だ。

国外財産調書は、その年の12月31日時点で5千万円を超える国外財産を保有している「居住者」と、「非永住者を除く外国人居住者」に、自主的な申告による提出が義務付けられている。もし、提出しなかったり、虚偽記載がある場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるほか、国外財産から生じた所得などに申告漏れや無申告が発覚した場合には、加算税が5%加重される厳しい内容だ。

一方、提出者にはインセンティブもあり、記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税が5%軽減される。

アメとムチを使い分けた税制では珍しいものだが、その国外財産調書の提出状況をこのほど、国税庁が明らかにした。

それによると、総提出件数は全国で8893件、総財産額は約3兆1643億円だった。

前年比で見てみると、総提出件数は約700件増加しており、108.7%増となっている。総財産額においても、約500億円増加している。

国税局別提出件数のベスト3は、東京国税局5792件、大阪国税局1223件、名古屋国税局673件となっており、東京、大阪、名古屋の3国税局で全体の86.5%を占めている(図1参照)。ちなみに、国税局は全国に11局(札幌、仙台、関東信越、東京、金沢、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、熊本)・1所(沖縄)の12ある。

国税局別の総財産額においても、ベスト3は東京国税局2兆3274億円、大阪国税局3927億円、名古屋国税局1793億円となっており、こちらは3局で全体の91.7%を占めている。(図2参照)

 

財産の種類別内訳では、総財産額3兆1643億円のうち、有価証券が1兆5327億円で全体の48.4%となっており、次いで預貯金6090億円(19.2%)、建物3250億円(10.3%)、貸付金1821億円(5.8%)、土地1277億円(4%)の順だ。

現実には国外財産の把握は困難

とはいえ、これらの数字は、あくまで自主申告の範囲だ。申告されない国外保有財産は、基本的には国税当局としても把握が困難だ。8893件という総提出件数をどう見るかはさまざまだが、野村総合研究所が2014年11月に純金融資産保有額を基に保有世帯数の推計調査を実施した際、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満を「富裕層」、同5億円以上を「超富裕層」として、これらを合わせた2013年時点の世帯数は100万7千世帯と発表した(野村総合研究所のリリース)。この数字と比較すると、国外財産調書の提出は、まだ浸透途上にあるとも推測できるのではないだろうか。

実際に、両親が海外に幾つか不動産を所有する私の知人に国外財産調書の話をしたところ、「なぜ海外の不動産まで自主的に日本の国税庁に報告しなければいけないのか」と、制度自体の理解もしていなかった。経営者でもなければ、税理士を顧問にする人は少ないだけに、国外財産調書が広く浸透するはまだ時間がかかるものと思われる。

個人的な見方だが、国外財産調書に記載された財産の種別から預貯金が思ったよりも少ないように感じる。推測だが、有価証券や土地、不動産はモノがあるだけに相続が発生したら把握されやすい。預貯金に関しては、プライベートバンキングなどにもっと資産があるのではないだろうか。

とはいうものの、現在、日本の国税当局だけでなく、世界の国税当局が国境を越えた富裕層の資産移転に高い関心を示している。証券等の有価証券の取引、銀行口座情報など、自国民の情報は、国境を越えて情報交換できる制度を構築している最中だ。そのため、下手に海外資産を隠すよりも、生前から合法的な相続税対策を検討しておくほうがずっと賢いと考える。

海外には日本国内よりも利回りのよい投資商品も多くあり、将来の資産形成を考えれば、海外に資産の一部を移転させるのも至極当然の話だ。ただ、資産形成のための情報は、投資商品だけでなく、税金問題もセットで対策を考えておく必要がある。税理士の中には、資産形成・相続対策に詳しいプロが少なからずいる。税理士も医者同様に専門領域があり、誰に依頼するかでサポートに雲泥の差が出てくる。その道の専門になってくればもちろん報酬も高額になるが、後になって国税当局に否認され、追徴税額を納税するより総合的に見ればずっと効果的といえる。精神的にもよい。

著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は租税研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャーとしても活動。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
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■KaikeiZine
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