高利回りで、課税当局も情報収集が難しいという理由から、外国の銀行に口座を開設する人が増えているという。日本の銀行預金であれば、定期預金で1%でも付けば、非常に高い商品だが、外貨投資であれば10%超と言いうのもザラ。金融機関の情報にしても、税務署も他国の銀行には調査権限が及ばない。ところが、この海外の金融機関情報に関して、各国課税当局で共有しようという動きが出てきた。

アジアの銀行において預金金利の高い国は、モンゴルやミャンマー、インド、インドネシア、ベトナム、カンボジアなど挙げられる。こうした、高利回りの海外の金融口座を持つ日本人も増えてきたが、口座を開設するオフショアは、アジアの金融拠点でもある香港やシンガポールが多いという。というのも、世界的な大銀行であるHSBCやシティバンクなどもオフショア業務専門の口座を設け、多くの非居住者がこれらの口座を利用しているからだ。
利回りなどについては、金融機関やファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に確認してほしいが、日本居住者による、海外の銀行口座開設は思った以上に難しいのが現実だ。たとえば、香港のシティバンクやHSBCについて、従来は郵送で口座開設も可能だったが、仲介業者が金融当局に厳しく規制されている。それでも、現地に赴き、口座を開設する富裕層は多いと言うことで、経営者の間では事業に絡めての「視察旅行」で、こうした海外金融口座を開設するケースもあると言う。
こうした外国の金融口座を持つメリットは、金利が国内よりも高いという理由だけではない。基本的にオフショア機関は、個人及び企業情報を公開する義務がないため、プライバシーと秘密性を提供している。極端な話、マネーロンダリングや麻薬の密輸等に関連していたと証明されない限り、情報が政府機関や課税当局に漏れることはまずありえない。
非居住者の金融情報を共有
ところが、ここにきて風向きが変わってきた。国境を越えたグローバルな経済活動が本格化してくると、各国税務当局もこのまま放って置けない状況になってきている。
平成26年2月にOECD(経済協力開発機構)は、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)を公表し、G20でこれを了承した。(関連記事:【第2回】税金問題の国際化 世界が国際税務の包囲網)
その基準は、
①自国に所在する金融機関から非居住者が保有する金融口座の口座残高、利子・配当等の年間受取総額等の情報の報告を受ける。
②租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供する。
―というもの。
CRSがスタートすると、日本の国税庁も外国税務当局から、日本の居住者がその外国の金融機関に保有する口座情報を自動的に年に1回提供される。
これに対応するため日本政府は、平成 27 年度税制改正で国内に所在する金融機関から口座保有者の氏名、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等の情報を報告させる制度を導入。同制度は平成 29 年1月1日から実施され、同30 年4月30日までに国内に所在する金融機関から初回の報告を得ることになっている。そして同年9月30日までに、初回の情報交換が行われる予定だ。
法定調書なども合わせてすべての情報を把握
課税当局がこうした金融機関情報を入手したあとは、現在集めている法定調書との紐付けを急ぐものと思われる。現在、富裕層情報として海外資産については「国外財産調書」「国外証券移管等調書」があり、国内には「財産債務調書」がある。これらと、平成29年1月からの海外金融機関情報の共有と合わせて、すべての資産情報が課税当局に把握されることになる。
経済のグローバル化の進展で、国境を越えた海外資産の保有・運用形態が複雑・多様化しているが、これに合わせて課税当局の包囲網も世界レベルで出来上がってきている。