今回の会計人ライブラリーでは、公認会計士・税理士であり、事業承継・資産承継のエキスパートである岸田康雄氏の著書 『【事例研究】事業承継・M&A支援ガイドブック』 をご紹介します。ビギナーから経験者まで幅広いレベルに対応、会計士や税理士はもちろん事業承継に関わるすべての専門家に役立つ指南書です。
【事例研究】事業承継・M&A支援ガイドブック
岸田 康雄(岸田康雄税理士事務所、事業承継コンサルティング株式会社、公認会計士・税理士など)
ロギガ書房・発売日:2024/11/12
http://logicashobo.co.jp/book/【事例研究】事業承継・ma支援ガイドブック/
著者本人が語る本の見どころ
Q まずは「【事例研究】事業承継・M&A支援ガイドブック」の紹介をお願いします
A 「事業承継の本質を解き明かす、支援者必携の一冊」です。
事業承継は、単なる法務・税務の手続きを超え、事業の持続性や経営者の人生設計にまで及ぶ複雑なプロセスです。
本書は、その核心を「課題の発見」にあると捉え、支援者が実務で直面する多様な問題を体系的に整理するための「フレームワーク」を提示します。
税理士・会計士・弁護士・中小企業診断士、さらには金融機関の営業担当者まで、事業承継に関わるすべてのプロフェッショナルにとって、実務の指針となる一冊です。
豊富な事例研究を通じて、親族内承継・従業員承継・第三者承継の各場面での具体的な課題とその解決策を詳しく解説。経営資源の引き継ぎやM&A、後継者教育といった実務に欠かせないテーマも網羅しています。
事業承継の支援者として必要な視点と実践力を養い、顧客に信頼される専門家へと成長するための確かな指針となる一冊です。
Q これまでさまざまな観点から事業承継やM&Aについての書籍を刊行されています。最新のこの著書では、特にどのような点に力を入れましたか?
A 本書では、事業承継の本質を「課題の発見」にあると捉え、支援者が適切に問題を特定できるようにすることに力を入れました。
従来の事業承継の議論は法務や税務の技術論に偏りがちですが、実際には、事業の持続可能性や経営者の心理的な問題、後継者の育成など、多面的な視点が求められます。
そこで、本書では「事業性の問題」「経営者の生き方の問題」「承継手続きの問題」という3つの視点で体系化したフレームワークを提示し、支援者が見落としがちな課題を網羅的に捉えられるようにしました。
さらに、豊富な事例研究を通じて、実務で直面する具体的なケースに即した解決策を示すことにも注力しました。
Q ビギナーや経験者など、どのような読者に手に取ってほしいですか?
A 本書は、事業承継の支援に関わるすべての専門家に役立つ内容となっています。
特に、以下のような方々にお薦めしたいです。
- 事業承継支援をはじめたばかりの方
承継の全体像を理解し、どのような課題があるのかを把握するための入門書として活用できます。 - 経験を積んだ中堅の専門家
より実践的な支援を行うための具体的な視点やアプローチを学び、顧客への提案の幅を広げることができます。 - 税理士・会計士・弁護士・中小企業診断士・金融機関の営業担当者
自身の専門領域にとどまらず、事業承継に必要な総合的な知識を深め、他の専門家と協力しながらより効果的な支援ができるようになります。
Q 事業承継にあたるには、「さまざまな専門家の協力と総合的なアプローチが必要」とあります。KaikeiZineは公認会計士・税理士の訪問が多いので、会計士・税理士が気をつける点(あるいはめざしてほしい点)について教えてください。
A 会計士・税理士のかたがたは、事業承継において財務・税務の観点からのサポートが中心となりますが、それだけでは事業承継の成功は保証されません。
本書では、税務対策や財務面の整理だけでなく、「事業そのものの存続性」や「経営者の生き方」といった観点が不可欠であることを強調しています。
会計士・税理士の方々には、次のような点を意識していただきたいと考えています。
- 税務・財務の枠を超えて、事業性の評価を意識する
事業の存続可能性や成長戦略を考慮し、経営者と後継者に寄り添ったサポートが求められます。 - 後継者の意向を深く理解し、経営者の「生き方」の問題にも目を向ける
後継者のキャリアプランや経営ビジョンが曖昧なままでは、承継後の経営が不安定になります。
そのため、後継者の意向を引き出し、必要な準備をサポートすることが重要です。 - 他の専門家との連携を意識する
事業承継は法務・財務・経営・人事の課題が絡み合うため、弁護士や中小企業診断士、金融機関などと協力し、総合的な支援体制を整えることが不可欠です。
本書では、会計士・税理士のかたがたがより幅広い視野を持ち、顧客に対してより価値のある提案ができるようになるためのヒントを多数紹介しています。
Q 岸田先生は長く事業承継やM&Aに携わっていらっしゃいますが、魅力ややりがいはどこにあるのでしょうか?
A 事業承継やM&Aは、単なる企業の売買や税務手続きではなく、企業の歴史や経営者の想いを未来へつなぐ、大変意義深い仕事です。
特にやりがいを感じるのは、以下のような瞬間です。
- 経営者の想いが形になったとき
長年経営してきた会社を後継者に引き継ぐことは、経営者にとって大きな決断です。
その過程で、不安や葛藤を抱える経営者に寄り添い、承継が成功したときの安堵の表情を見ると、支援してよかったと実感します。 - 後継者が成長し、新たな経営の道を歩み始めるとき
後継者が自信を持ち、新しい時代の経営者として歩み始める瞬間に立ち会えることは大きな喜びです。 - 企業が次の世代へと受け継がれるとき
事業承継が成功すれば、従業員の雇用が守られ、地域経済にも貢献できます。
企業が継続し、新しい成長を遂げることは、支援者として非常に誇らしい瞬間です。
事業承継やM&Aは、決して簡単な仕事ではありません。
しかし、経営者や後継者の人生に深く関わりながら、企業の未来を支える仕事には、大きなやりがいがあります。
本書が、多くの支援者の皆さまにとって実務の指針となり、より多くの企業の承継成功につながることを願っています。
Q 岸田先生ご自身についても聞かせてください。
A 私は、長年にわたり事業承継・資産承継の支援に携わってきました。
もともとは公認会計士として会計監査や財務デューディリジェンスを手がけ、国内外の金融機関や投資銀行で経験を積みました。
しかし、その過程で「企業の成長や存続には、単なる財務分析や税務対策だけではなく、経営者の人生そのものに寄り添う視点が不可欠である」と強く感じるようになりました。
特に事業承継の分野では、税務や法務の知識だけでは解決できない、経営者の想い・後継者の育成・企業文化の継承といった、数字に表れにくい課題が数多く存在します。
私はこれまでのキャリアのなかで、個人の相続対策から大企業のM&Aに至るまで幅広く関与してきましたが、そのどれもが単なる財務戦略ではなく、「未来をどう紡いでいくか」という経営者の意思決定が鍵を握っていました。
事業承継は、経営者の人生の集大成ともいえる重要な決断です。
それだけに、専門家の役割は単なる「手続きをこなすこと」ではなく、経営者が安心して未来を託せる環境を整えることにあります。
そのため、私は支援者として常に「経営者が本当に望む形で事業を次の世代へ引き継げるようにするにはどうすればいいか」を考え、財務・法務・経営の観点を統合したアプローチを重視しています。
また、事業承継だけでなく資産承継や相続対策の分野でも、税理士として多くの富裕層の相談に応じてきました。
資産を単に「遺す」だけではなく、どのように「有効に活かすか」という視点が重要です。
これまでの経験を活かし、相続税申告や信託の活用、生命保険を組み込んだ資産運用など、より長期的な視野でのコンサルティングを行っています。
さらに、知見を広く共有することも私の使命の一つです。
これまで数多くの書籍を執筆し、税理士や金融マンの方々に向けたChatGPT活用法から、事業承継・M&A・資産運用の専門書まで、多岐にわたるテーマで情報発信を続けています。
専門家としての経験や知識を体系化し、後進の支援者がより良いサポートを提供できるようにすることも、大切な役割だと考えています。
今後も、「数字の裏にある想い」を大切にしながら、経営者や支援者に寄り添い、より実践的で本質的なサポートを提供していきたいと思っています。
Q 岸田先生が大事にされている本と、その理由を教えてください。
A 私が大事にしている本の一つに、『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン 著)があります。
この本は、企業が成功を続ける中で、なぜ優れた企業ほど革新に失敗しやすいのかを論じたものです。
事業承継やM&Aの現場では、「この会社が今後も成長を続けられるのか?」という視点が不可欠ですが、この書籍は「成功が次の成功を妨げる可能性がある」という本質的な問題を明確に指摘しています。
多くの中小企業では、先代の経営者が築き上げた成功モデルを引き継ぐことが大前提となります。
しかし、時代が変わる中で、「かつての成功パターン」が「次世代の足かせ」になるケースも少なくありません。
後継者は先代のやり方を踏襲するだけでなく、新しいビジネスモデルや技術革新を取り入れながら、次の時代に適応していく必要があります。
私は、事業承継を考える際に「この会社は過去の成功にとらわれていないか?」という視点を持つようにしています。
その意味で、『イノベーションのジレンマ』は、事業の存続と成長を考えるうえで大きな示唆を与えてくれる一冊です。
また、『ファミリー・ビジネス 永続の戦略 同族経営だから成功する』(デニス・ケニョン・ルヴィネ/ジョン・L・ウォード 著)も、事業承継を支援する立場として重要な本です。
特に、日本の中小企業の多くは同族経営であり、単なる経営の継承だけでなく、家族との関係性や価値観の調整も大きな課題になります。
本書では、ファミリー企業が長く存続するための仕組みや、家族内の対立をどうマネジメントするかについて実践的な考察が述べられており、承継支援に携わる上で非常に参考になります。
さらに、『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建 著)もよく参考にします。
事業承継では、単なる財務や法務の観点ではなく、「この会社はどのような強みを持ち、どのような未来を描くのか?」というストーリーを明確にすることが求められます。
本書は、競争戦略をストーリーの観点から捉えるというユニークな視点を提供しており、後継者が経営ビジョンを考える際の指針として役立つと感じています。
これらの書籍は、いずれも単なる理論ではなく、実際の経営や事業承継の場面で活かせる視点を与えてくれるものです。
特に、長年の成功が必ずしも未来の成功を保証しないという点は、事業承継やM&Aにおいてもっとも重要な視点の一つだと考えています。
Q 今後の執筆やセミナーの予定などがあれば教えてください。
A 事業承継支援の知見を深める場として、研究会・セミナーを定期開催しています。
私が代表幹事を務める「事業承継支援コンサルティング研究会」では、毎月の研究会や単発のセミナーを開催し、事業承継やM&Aの実務に役立つ知識を提供しています。
事業承継は経営者や専門家にとって一度きりの重要なプロセスであり、成功させるためには最新の情報と多角的な視点が欠かせません。
毎月の研究会では、事業承継に関わる専門家が集まり、最新の法改正・成功事例・支援の実務ノウハウを共有し、実際のケースについて意見交換を行います。
支援者としてのスキルを磨きながら、他の専門家とのネットワークを広げる場としても活用いただけます。
研究会はこのような方におすすめです。
- 事業承継の最新トレンドを学びたい税理士・会計士・弁護士・診断士
- 顧問先の事業承継支援を強化したい専門家
- 自社の事業承継を考え始めた経営者
- M&Aや資産承継の実務を知りたい金融機関・コンサルタント
ぜひ当研究会を活用し、知識を深め、実務に役立ててください!
著者紹介
氏名 | 岸田康雄 |
プロフィール | 公認会計士、税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、中小企業診断士、宅地建物取引士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)、行政書士。
一橋大学大学院修了。中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託などの会計監査および財務デューディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルス・マネジメント営業部、みずほ証券グローバル投資銀行部門、日興コーディアル証券企業情報部、メリルリンチ日本証券プリンシパル投資部門、税理士法人に在籍し、個人の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い資産承継と事業承継をアドバイスした。 【主な著書】 |
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