祖父・父・子と三代にわたって受け継がれてきた会計事務所を法人化し、さまざまな改革を実行してきた「M&N辰巳税理士法人」。時には大きな効果が出たこともあれば、思い通りに進まず軌道修正を迫られたこともあった。こうしたトライ&エラーは、いまも絶え間なく行われている。連載最終回は、現時点の成果と今後の展望についてCEOの辰巳悠樹氏が解説する。ここから、過渡期にある会計業界の可能性が見えてくるのではないだろうか。

この記事の目次

辰巳悠樹(M&N辰巳税理士法人)
1958年創業の「M&N辰巳税理士法人」のCEO。事務所としては、京都で約60年間多くのお客様を真摯にサポート。自身としては、強みである「営業力」をより活かせるようにMBA(経営学修士)を取得するなど、「組織として強くなる」という方針のもとに事務所の規模や業績拡大に貢献している。また顧客の拡大にあたり、「製販分離」やクラウドツールの導入などを実施し、事務所の改革も進めている。

※この連載は、「すべてのスモールビジネスを支える統合型経営プラットフォーム」を掲げるfreeeの協力でお送りしています

組織改革とデジタル化によって業務効率が向上

今回KaikeiZineでの連載の機会をいただき、私自身の経験に基づいて会計業界が抱える課題や、会計事務所を成長させるためのさまざまな取り組みをご紹介してきました。
最終回となる4回目は、当法人の現時点での成果と今後の展望についてお話しさせていただければと思います。

私たちは会計事務所を組織として機能させるために、はじめにあらゆる活動の指針となる経営方針を打ち出しました。
属人化していた会計業務を分業化して、チームで取り組む体制に組織改革(CX)を行い、さらにクラウド会計ソフト「freee会計」の導入をはじめ、デジタル化(DX)を進めたことで、業務効率が飛躍的に向上しました。
これにより、以前はスタッフ1人につき約30件の案件を担当するのが限度だったところが、1人100件程度担当できるようになりました。

「freee会計」の効果は目覚ましいものがありました。
何といっても記帳入力のスピードが圧倒的に速くなった。
レシートの写真を撮ってアップロードするだけで、あらゆる情報を自動的に読み取り、仕分けしてくれるのが画期的でした。
さらに、インターネットバンキングと連動できるのも非常に便利です。

当法人では、こうした機能を備えたソフトを活用して、「記帳MEN」という記帳代行サービスを開始したところ好評で、個人事業主や零細企業を中心に多くのクライアントにご利用いただいています。
「記帳MEN」という安定したストック収入の基盤ができたことは、会計事務所を成長させていく上で大きな支えとなっています。
ただ、前回もお話ししたように、こうしたツールを効果的に使うためには、事前に組織体制を整えておくことが大切だというのも忘れてはいけません。

ニーズにマッチしたサービスで顧客満足向上

当法人のもっとも大きな成果として挙げられるのが、顧客満足の向上です。

分業化とデジタル化を推進したことで、いかに業務の効率化と業務(サービス)の質を両立させるかが課題となりました。
その課題解決に向けて試行錯誤した結果、スタッフの意識改革やクライアント別のカルテ作成などを行ったことで、クレームはほぼなくなりました。
記帳代行サービス「記帳MEN」や独立支援サービス「独立PRO」など、クライアントのニーズ別にサービス内容を分けてマッチングを図ったことで、新規クライアントの獲得と顧客満足の向上にもつながりました。
私たちのクライアントの多くを占める個人事業主や零細企業のかたがたは、特に専門的なサポートを求めているわけではなく、大半の要望が決算や確定申告の負担を軽減したいというものです。
そうしたかたがたに、ライトな内容のサービスをリーズナブルな料金で提供することで、満足度を高めたのです。

それとは別に、より専門的で個別性の高いサポートを求めている、規模の大きな法人や事業を大きくしたいという目標を持つクライアントに対しては、税理士が手厚い支援を行っています。
もちろんその場合でも、分業化のメリットを最大化させる業務フローを構築しています。

このように、クライアントの規模やニーズによってサービス体系を分けることで、顧客満足の向上だけでなく、我々の事業の拡充にもつながりました。
現在、会計事務所に対する顧客のニーズは細分化されており、以前のように「会計・税務サポート」といったひとくくりのサービスでは、顧客にアピールするのが難しくなっているわけです。
これからは、自分たちにどのような強みがあり、その強みをどう生かすのかといった点を明確にアピールすることが重要だといえるでしょう。