システム導入でつまずく企業には、「業務が言語化されていない」という共通点があります。税理士で業務設計士®を名乗る武内俊介氏(株式会社リベロ・コンサルティング代表)の連載第8回は、販売管理を例に、AIやツールの力を最大限引き出すための「業務定義シート」と「業務の地図」について具体的に解説します。

この記事の目次

リベロ・コンサルティング代表・税理士・業務設計士の武内俊介氏

武内俊介

株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。

金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。初の著書、『業務設計の教科書』が2025年12月25日に技術評論社より発売。
また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。
武内氏のnoteX

※この記事は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

前回は、会計ソフトそのものの機能や使い方ではなく、AI時代において会計業務をどのような前提でとらえ直すべきかを取り上げました。
会計ソフトを起点に考えるのではなく、その前後にある業務やデータの流れまで視野を広げる必要がある、という問題意識を共有しました。

業務ごとに適したソフトウェアを選び、組み合わせて使うというやり方(ベスト・オブ・ブリード)が、AIの進化によって選択しやすくなってきています。
では、会計につながる各業務は、これからどのように再定義されていくのでしょうか。

今回は、その代表的な領域として販売管理を取り上げます。
販売管理と会計が連携する、というのは単にデータをつなぐことではありません。
販売管理のなかで扱う情報や判断のポイントが整理されていなければ、結果として会計に必要な情報もそろいません。
販売管理の業務そのものを見直せば、後工程である会計や決算とも無理なくつながる状態を作ることができます。

ここで意識したいのが、後工程を意識して前工程を整える、いわばPULL型の発想です。
会計人に期待される役割は、「経理処理をする」ことにとどまらず、業務全体のなかで、どのような情報が、どのタイミングで、どの工程に渡されるべきかを整理するところにも広がりつつあります。

販売管理は「受注と請求」の業務ではない

販売管理という言葉から、多くの人が思い浮かべるのは、「受注をして、請求書を発行する業務」ではないでしょうか。
営業が案件を受注し、経理が請求書を作成する。
販売管理は、それらの事務処理を指すものとして理解されがちです。

しかし、この捉え方は販売管理業務のスコープをかなり狭く見ています。
本来、販売管理の目的は、請求書を作ることではありません。
見積りから受注、納品、請求に至るまでの業務を一連の流れとして捉え、誰が・いつ・どの取引について判断や確認を行うのかが分かる状態に整えることにあります。
正しい情報がそろっていれば、正しく会計処理を行うことができます。

一方で、営業と経理がそれぞれの役割を分担しながら業務を進めていくなかで、業務が部門ごとに分断され、お互いの業務内容や判断の前提が十分に共有されていないという事態は起こりがちです。
そうなると、会計処理に必要な情報が経理にスムーズに連携されないため、決算時などに必要な情報を経理が探し回ることになり、月次決算の遅延などにつながるのです。
業務設計をする際は、販売管理として必要な判断や確認を明確にしたうえで、業務の流れそのものを整理し直すことを第一に考えます。

ここで重要なのは、個別の作業を効率化しようとするのではなく、業務全体を一つのかたまりとして捉える視点です。
だからこそ、販売管理の見直しは、「ツールを何にするか」から始めるべきではありません。
販売管理という業務のなかで、どの時点で、誰が、何を判断・確認し、どの情報を次の工程に渡すのか。
その業務の輪郭を言葉としてそろえることが、ここでいう業務の定義です。
これが、業務設計の出発点になります。

ツールの前に、業務を定義する

販売管理を見直す場面では、「どのツールを使うか」という話題が先に出がちです。
ただ本来考えるべきなのは、ツール以前に、業務そのものがどこまで言葉で整理され、構造として把握できているかという点です。
業務の定義が曖昧なままだと、何を実現したいのかがはっきりせず、結果として自社のやり方に合わないツールを選んでしまったり、ハイスペックで機能を持て余すようなツールを導入してしまったりすることがあります。

そこで最初に取り組みたいのが、販売管理業務の「業務定義シート」を作ることです。
ここでいう業務定義シートとは、細かな処理手順を列挙したマニュアルではありません。
販売管理として何を扱うのか、どこからどこまでを対象とするのか、判断や確認が必要になるポイントはどこか。そうした業務の輪郭を言葉にするための整理です。

次に取り組みたいのが、「業務の地図」を作ることです。
業務の地図は、誰が・どのタイミングで・どの情報を受け取り、次の業務に渡しているのかを俯瞰するためのものです。
一見すると業務フロー図と似ていますが、手順を順番に描くことが目的ではありません。担当者や部門をまたいで、情報や判断がどこで受け渡されているのかを把握するための整理です。

販売管理は、営業、経理、場合によっては現場や管理部門など、複数の関係者が関わる業務です。
個々の担当者が正しく仕事をしていても、全体像が共有されていなければ、情報は分断されてしまいます。
業務定義シートと業務の地図は、拙著『業務設計の教科書』でも紹介しているものです。
押さえておきたいのは、この2つには順番があるという点です。
いきなり業務の地図を描き始めてしまうと、整理したつもりでも、前提となる認識がそろわないまま話が進んでしまいがちです。

まず取り組むべきなのは、「言語化」なのです。
販売管理として何を扱うのか、どこまでを業務の範囲とするのかを言葉で定義し、関係者の認識をそろえることで、曖昧さが入り込む余地を減らします。
そのうえで、業務の地図によって担当者や業務の流れに当てはめ、「構造化」して全体像を把握します。
この順番で整理することで、業務のなかで何が起きているのか、情報が滞りやすいポイントはどこかが見えてきます。
その結果として、販売管理ツールに求める役割や必要な機能も、判断しやすくなります。

以下が販売管理業務の業務定義シートと業務の地図の具体例です。
図を見る際には、「どの取引を対象にしているのか」「判断や確認がどこで発生しているのか」に注目してみてください。

※実際の業務設計では、業務の地図を作ったあと、各工程について「個別定義シート」を用いて、判断ポイントやINPUT・OUTPUTをさらに言葉で整理していきます。ただし今回は、業務設計の出発点にあたる考え方を示すことを目的としているため、業務定義シートと業務の地図までを提示しています