いま会計人には、「処理の速さ」ではなく「業務を設計する力」が求められています。処理の遅れやミスの多発を紐解くと、原因は経理業務ではなく前工程の設計にあるものです。結果を変えるためには、プロセスを変えるしかありません。税理士で業務設計士®を名乗る武内俊介氏の連載第9回は、変化の大きな時代に会計人がどこで価値を発揮すべきかを、「業務設計」という切り口から整理します。

この記事の目次

リベロ・コンサルティング代表・税理士・業務設計士の武内俊介氏

武内俊介

株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。

金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。初の著書、『業務設計の教科書』が2025年12月25日に技術評論社より発売。
また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。
武内氏のnoteX

※この記事は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

前回は、「AI時代を見据えた販売管理の業務設計」をテーマに、業務の前提や判断基準を整理し、情報の流れを設計することの重要性について考えました。
AIは業務をそのまま代替してくれる存在ではなく、業務がきちんと定義され、構造として整理されてはじめて力を発揮するものです。

では、生成AIがさらに普及していくなかで、会計人の役割はどうなっていくのでしょうか。
「会計の仕事はAIに奪われる」といった言葉を耳にすることがあります。
しかし、仕事をひとくくりにして議論しても意味はありません。重要なのは、業務の中身を分解して考えることです。
例えば、入力の速さやミスの少なさ。こうした能力は主に「処理」の領域にありますが、処理は今後ますます自動化が進みます。
だからこそ問われるのは、その処理を支える前提と判断です。

今回は、業務を分解しながら、会計人はどこで価値を発揮するべきなのかを「設計」という観点から整理していきます。

AIに代替される業務、されない業務

業務は大きく「設計」「判断」「処理」の3つのカテゴリに分けて考えることができます。
日々の業務にはこの3つが混在していますが、あえて分解することで、どこに価値があり、どこが自動化されやすいのかが見えてきます。

「設計」とは、成果を出すために何をどの順番で、どの基準で進めるのかをあらかじめ定めることです。
例えば、「売上を素早く、かつ正確に認識するために、どのような業務プロセスを組み立てるか」を考えることが設計にあたります。
受注情報はいつ確定させるのか、どのタイミングで必要なデータを集めるのか、請求確定までに誰がどのチェックを行うのか。
こうした流れを組み立てることが、判断の土台を整えるために不可欠です。

「判断」とは、その設計や専門知識を踏まえて、個別の取引や事象をどのように扱うかを決めることです。
例えば、例外的な取引をどこまで認めるのか、収益認識の可否をどう判断するのかといった場面です。
判断は、あらかじめ定められた設計があってこそ安定します。

「処理」とは、設計と判断を経て、実際に仕訳を入力したり、請求書を発行したりする具体的な作業です。
会計ソフトへの入力やデータ集計など、日々目に見えやすい部分の多くがここに該当します。
処理は効率化や自動化の対象になりやすい領域です。
例えば、毎月届く同じ形式の請求書を会計ソフトに入力する作業には、ほとんど判断が含まれていません。
ルールが明確で繰り返し可能な処理は、今後ますます自動化されていくでしょう。

システムやソフトウェアが得意なのは、与えられた前提のもとで処理を最適化することです。
ルールや判断基準が整理されていれば、その範囲内で高速かつ安定的に処理できます。
しかし、その前提そのものを定義することはできません。
どの情報を、どのタイミングで、どの基準で扱うのか。例外はどこまで許容するのか。
こうした前提を整える行為は、「設計」と「判断」の領域に属します。

会計人は、ときに設計を明文化しないまま、経験や暗黙知で業務を回してしまうことがあります。
処理は一見スムーズに回っていても、その構造が共有されていなければ再現性はありません。
だからこそ、設計と判断をどこまで言語化し、共有できているかが重要になります。
会計人がまさに力を発揮すべきなのはその領域です。

会計を起点に設計するという発想

会計人は業務全体の責任者ではありません。
しかし、月次の遅れや修正仕訳の多発といった問題をていねいに見ていくと、その原因の多くは経理部門の内部ではなく、その手前の工程にあります。
必要な情報がそろっていない、確認ルールが曖昧で差し戻しが発生している、データの受け渡し方法が統一されていない。
こうした小さな設計上の不整合が積み重なり、結果として「処理の遅れ」や「ミス」として表面化します。
最終的にすべての取引が会計数値として集約される以上、前工程の設計ができているかどうかが、数値の正確性や網羅性、そしてどれだけ早く月次を締められるかに直結します。

会計業務の本質は処理ではなく判断にあります。
そして正しい判断をするためには、判断材料となる情報が、適切に整理された状態でそろっていなければなりません。
重要なのは、判断に必要な情報を具体的に定義することです。
どの情報が、どの水準で整理され、どの期限までに手元にあるべきなのかを明文化し、そこから逆算して前工程を組み立てていく。
こうした後工程起点の考え方、いわばPULL型の発想で会計を起点に業務プロセスを再設計することが合理的なアプローチです。

例えば「月次をもっと早く締めたい」という課題があったとき、原因を探ると、経理の処理が遅いのではなく、情報不足による確認の往復が発生していることが少なくありません。
この状態でAIを導入しても、前提条件が整っていなければ効果は限定的です。

まずは業務全体を俯瞰し、どこで滞りが生じているのかを把握する。
そして、判断と処理が安定するように設計から整える。
前工程が整えば、確認の往復は減り、月次の締めも早くなります。

会計数値は業務プロセスの結果として生まれるものです。
数値そのものは直接操作できませんが、プロセスは設計によって変えられます。
業務設計に関わることは、再現性の高い改善につながるのです。