今回の会計人ライブラリーは“社外役員”というキャリアを深掘りします。そのキャリアの魅力と現実、求められる本当の覚悟とは?公認会計士で現役の社外役員でもある柴田千尋氏に、社外役員になってから後悔しないための著者『社外役員の極意』について、また長期的なキャリア戦略についても聞きました。

社外役員の極意
柴田千尋 著
中央経済社
発売日:2026/4/10
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著者が語る書籍の見どころ
コーポレートガバナンス改革で“社外役員”の需要が高まるなか、その役割やリスクを正しく理解しないままキャリアチェンジを目指す人が珍しくないと、公認会計士の柴田氏はいいます。
“専門性を生かせる”メリットがある一方で、“数合わせでの就任”“発言を求めない経営者がいる”という現実もまたあるのです。
こうした課題に一石を投じるのが、現役の社外役員として現場を知り尽くし、社外役員や公認会計士のための転職エージェントを運営する柴田千尋氏による書籍、『社外役員の極意』です。
今回は柴田氏に、プロフェッショナル向け実践ガイドブックに込めた思い、おすすめの本で学べる長期的キャリア戦略などについて伺いました。
Q. はじめに、柴田さんのご活動について教えてください。
A. 監査法人での勤務を経た後、アクサ生命保険の内部監査部門やコンプライアンス部門で経験を積み、その後、上場会社にて社外出身の常勤監査役に就任しました。
上場会社4社での社外役員経験と、公認会計士としての実務経験を生かしを生かし、社外役員や公認会計士のための転職エージェント「サニーキャリア合同会社」を経営しています。
Q. 今回出版された『社外役員の極意』はどんな本ですか?
A. 上場会社での社外役員経験と、転職エージェントとしての支援経験の両方を生かして書いた、社外役員に特化した実践的なガイドブックです。
この本を書く上で最もこだわったのは、“光”だけでなく“影”の部分も正直に伝えることでした。社外役員に関心を持つ方の多くは、「ワークライフバランスが取れそう」「専門性が生かせる」といったポジティブな印象から興味を持ちます。しかし、実際にはリスクも大きい。訴訟リスク、不安定な報酬、任期中の身動きの取りにくさ。そして「キャリアの黒歴史リスク」。就任先で不祥事が起きた場合、たとえ自分が関与していなくても、「あの会社の役員だった人」というラベルが長く残り続けます。
また会社側にも、社外役員を形だけ置こうとする企業や、発言を求めない経営者がいるのも現実です。こうしたミスマッチの解消も、本書の大きなテーマです。
社外役員を目指す方々に光と影の両面を正直に届け、リスクを理解した上でも挑戦を志す方へ具体的な道筋を示した本にしました。
Q. この本を書こうと思ったきっかけは?
A. きっかけは、弊社を訪ねてきた一人の会計士との対話でした。彼女は「社外常勤監査役になりたい」という希望を持っていましたが、具体的な職責を知らないだけでなく、内在するリスクについての認識もほとんどゼロでした。
これは彼女だけの話ではありません。社外役員を目指す多くの方が、リスクや責任の重さを十分に理解しないまま、この世界に足を踏み入れようとしているのです。応募者側も募集企業側も、知っている立場から体系的に伝えられる人間は他にあまりいないと感じました。社外役員バブルと言われるいまだからこそ、「数合わせのために就任する」のではなく、「本質的な価値を理解した上で、覚悟を持って機能する人材」を社会に増やしたい、という思いから執筆に至りました。
Q. ところで、柴田さんに影響を与えた本を教えてください。
A. 2冊あります。
1冊目は、ドリー・クラーク著『ロングゲーム』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。「人生はロングゲーム。目先の忙しさにとらわれず、長期戦略を持って生きよ」という本書のメッセージが、私の行動原則そのものと重なります。私は常に長期戦略を意識して動いてきました。出版という夢を持ち始めてから実現までに4年かかりましたが、その間も「いつかではなく、いつまでに、どう動くか」を自分に問い続けていました。この長期戦略という考え方があったからこそ、知り合いの編集者に企画書を送るという具体的な一歩を踏み出せ、『社外役員の極意』の出版につながりました。
『ロングゲーム』にある“戦略的忍耐”の考え方は、キャリア設計にもそのまま当てはまります。目先の忙しさに流されず、自分の北極星を定め、動き続ける。本書はそのための実践的な指針を与えてくれます。
2冊目は、北野唯我著『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)です。
自分自身のキャリアを考える際も参考にしていますし、エージェントとしてキャリアに悩む方と話すときにも、この本の考え方がベースになっています。「自分のマーケットバリューとは何か」を構造的に考えさせてくれる本で、キャリアを感覚ではなく戦略的に設計するための視点を与えてくれます。また、「いいエージェントの五箇条」にも言及されており、クライアントとの向き合い方を考える上でも参考にしています。
この2冊に共通しているのは、「長期視点でキャリアを設計する」という姿勢です。目先の年収や肩書ではなく、10年後・20年後に自分はどこにいたいのかを問い続けることが、変化の激しい時代を生き抜くプロフェッショナルに求められる思考法だと思っています。
Q. 今後はどのような活動を考えていらっしゃいますか?
A. 『社外役員の極意』を書いて痛感したのは、「本を読むだけでは、人は動けない」ということです。知識を得ることと、実際に行動に移すことの間には、大きな壁があります。
そこで今後は、本書に書いた“極意”を実際に実践できる場として、「社外役員の極意塾」という講座を開催したいと考えています。社外役員として機能するための思考法、実務上の判断のしかた、選考プロセスへの臨み方、そうした具体的なスキルを、対話を通じて身につけていただく場を作りたいと考えています。
私がこの活動を通じて実現したいのは、「お飾りではなく、機能する社外役員を社会に増やすこと」です。日本のコーポレートガバナンスを本当の意味で強化するためには、人数をそろえるだけでは不十分で、一人ひとりが覚悟を持って実質的な役割を果たせる人材が増えることこそが、企業と社会にとって不可欠だと信じています。
Q. KaikeiZineの読者へメッセージをお願いします。
A. 皆さんは、日々の業務で常に多忙だと思います。しかし、忙しさに流されて「自分のキャリアをじっくり考える時間」を後回しにし続けることは、長期的には大きな機会損失です。
ぜひ一度、立ち止まって考えてみてください。「10年後、自分はどのようになっていたいのか」「今やっていることは、そこへの道につながっているか」と。
社外役員というキャリアは、会計士・税理士の専門性を生かせる選択肢の一つですが、決して平坦な道ではありません。孤独があり、重い責任があり、法的リスクもあります。だからこそ、まずは“光と影”の両面を正しく知ることから始めてほしいのです。『社外役員の極意』には、その全貌を詰め込みました。
人生はロングゲームです。目先の結果に一喜一憂せず、自分の北極星を見つけ、長期戦略を持って歩み続けてください。
著者紹介

柴田千尋
大手監査法人で会計監査等に従事後、アクサ生命保険株式会社にて内部監査業務、コンプライアンス業務を経験。
大手監査法人時代の上司の紹介で、上場会社の常勤監査役に就任。
現在は上場会社の社外役員を務めながら、社外役員転職エージェントのサニーキャリア合同会社を経営。三児の母。




