令和になり、税理士業界はさまざまな変化を遂げています。この記事ではデータを比較しながら、業界で働く方や今後働きたいという方のために税理士の現在や業界の動向を明らかにしていきます。
この記事の目次
税理士登録者数の推移
令和元年から5年にかけて、税理士の登録者数は毎年微増し続けています。
過去のデータをさかのぼると、例えば昭和50年代は年平均で1,500人程度、平成10年代が年平均で700人程度増えています。
令和になってからは年平均で600人程度で、登録者数の増加は鈍化しています。
では、今後の税理士業界はどうなっていくのでしょうか?
- 税理士試験受験者数の推移
- 税理士の高年齢化問題
- 税理士の女性進出
- 税理士の勤務環境
この4点から、税理士業界の未来像を見ていきましょう。
税理士試験をとりまく状況
税理士試験の受験者数の推移
上のグラフから、令和の受験者数の推移に2つのポイントがあることがわかります。
- コロナの感染拡大が始まった令和2年に一度減少し、再び増加傾向に向かっている
- 特筆すべきは令和5年で、受験者数が前年から4,040人と大きく増えている
さらに平成の数字もあわせると、長いスパンで見ても好転に向かっているのが見えてきます。
- 受験者数は平成22年から毎年減少を続けていたが、令和3年から約10年ぶりに増加に転じている
- 受験者が3万人台に乗ったのは平成30年以来
令和5年から、税理士試験の受験資格要件が緩和されています。
同年の受験者数の大幅増の要因は、この影響が大きいと考えられます。
今回の要件緩和のひとつに、必修である会計科目の簿記論と財務諸表論の受験資格制限が撤廃され、誰でも受験ができるようになりました。
その結果、簿記論の受験者が前年から3,205人増(対前年比124.9%)、財務諸表論の受験者が前年から3,142人増(対前年比131.1%)と、大幅に増加しています。
その他の科目の対前年比が92.9%~104.1%であるのに比べても、必修の2科目の受験者増に受験資格制限の撤廃が大きく影響していることは明らかです。
また令和5年の受験者を年代ごとに見ると、25歳以下の受験者が対前年比142.4%と大きく増加、26~30歳も対前年比119%と増えていて、要件緩和が若い世代の受験意欲を高めているだろうことも見て取れます。
税理士試験の合格者数
- 一部科目合格者数は、令和5年で6,525人と急増している
- 5科目到達者数は、令和5年は600人と前年から微減している
令和5年の一部科目合格者数を科目ごとに見ると、財務諸表論が3,726人で、前年より2,224人増(対前年比248.1%)と爆発的に増加しています。
財務諸表論は合格率も28.1%と、令和の5年間の全科目で最高の合格率を記録しています。
一方で、財務諸表論と同じく令和5年で受験者を増やした簿記論は、合格者数が2,794人と前年より171人減っています(対前年比94.2%)。
財務諸表論が、一部科目合格者数の急増に寄与していることがわかります。
5科目到達者数が微減しているのは、大学院修了による科目免除の利用者の増加が影響していると考えられます。
一定の条件のもとで大学院での研究に取り組み修了すると、会計学あるいは税法の試験が一部免除となるものです。
必要な合格科目数が少なくなるというメリットだけでなく、専門的な研究で知見を深められるという面でも人気が上がっています。
社会人が働きながら学べる大学院も多くなっています。
5科目合格と大学院修了による科目免除の両者が増え、税理士登録の底上げにつながることが期待されます。
今後の税理士試験について
受験資格要件の緩和により、税理士試験への関心は確実に高まっています。
受験者数や合格者数の大幅な増加は、将来的に税理士登録する人材の増加、税理士全体の底上げにつながっていくことが期待できます。
税理士の高年齢化問題
税理士登録者の年代
少子高齢化による人手不足がさまざまな業界で問題となっていますが、税理士業界もまた高齢化していると言われています。
平成26年に日本税理士会連合会(以下日税連)が実施した第6回税理士実態調査によると、税理士登録者のうち50歳代以上が全体の71.9%を占めています。
税理士の高齢化には、以下のような背景があると考えられます。
- 国税OBの税理士登録
23年又は28年以上税務署に勤務し、指定研修を修了した国税従事者は、税理士試験の全科目免除で税理士資格が取得できます(10年又は15年以上税務署に勤務した国税従事者は税法に属する科目のみ免除)。
長年税務署で培った経験と知識を活かせることから、国税OBが税理士として活躍するケースは珍しくありません。
退職後のセカンドキャリアとして税理士を選ぶ人も多く、これが高齢化の一因になっています。
- 開業税理士には定年退職がない
一般企業と異なり、開業税理士には定年退職がありません。
そのため高齢になっても現役で活躍する税理士は多く、これも高齢化につながっていると推測されます。 - 会計事務所の後継者が不足している
令和5年の受験資格要件の緩和で受験者数や合格者数が上向くまでは、若者を中心に税理士を目指す人の数は減少し続けていました。
会計事務所の後継者不足も深刻で、高齢の税理士が引退したくてもできない状況を招いていると考えられます。
しかし高年齢化は自然な流れであり、必ずしも否定的に捉えるべきとも言えません。
長年の経験と知識を持つベテラン税理士の存在は、クライアントにとって大きな価値があります。
むしろ業界として取り組むべきは、少子化が進む中で若手の税理士数や受験者数をいかに維持するかです。
そうして業界全体の活力を維持していく必要があるのです。
税理士試験受験者の若手の動向
長年税理士試験は受験者数の減少が危惧されてきましたが、令和に入ってからは特に30歳以下の受験者数が増えています。
- 特に25歳以下の増加が顕著。令和5年の受験者は前年から2,094人増(対前年比142.4%)、令和元年からは3,317人増(189.51%)
- 26~30歳も令和4年から785人(対前年比119%)と増加に転じている
以前から日税連は、若年層の受験者増加のために全国15大学で税理士による租税講座を開講するなどの取り組みを行ってきましたが、令和5年の受験者増加の直接的な要因は税理士試験の受験資格要件緩和でしょう。
受験者数の減少対策や多様な人材確保を目的に、日税連・財務省・国税庁が4年にわたり議論を重ね、今回の受験資格要件緩和の改正は行われました。
要件緩和のひとつに、会計科目の簿記論と財務諸表論の受験資格を撤廃し、誰でも受験できるようにしたことがあります。
若い年代が試験にチャレンジするのを促すことにつながっていると考えられます。
国税庁は、令和5年から20歳以下の受験者のデータも取り始めています。
20歳以下の受験者の1,328人のうち一部科目合格者が481人で合格率は36.2%で、他の年代と比較してトップです。
税理士試験受験者の合格率
令和5年の合格率を年代別に見てみると、年代によって顕著な差があることが見えてきます。
一部科目合格者数と5科目到達者数の合計から算出した合格率は、20歳以下が36.2%、21~25歳が29.7%で、それ以降は年齢が上がるごとに合格率が落ちていきます。
理由としては、以下が考えられます。
- 20歳以下はもちろん、21〜25歳も学生が一定数を占めていると考えられ、学業に専念できる時間が多く、環境も整えやすい
- 受験資格の撤廃により若年層がチャレンジしやすくなった簿記論と財務諸表論は、他の税法科目に比べてもともと合格率が比較的高めのため、それが若年層の合格率向上につながっている
商業高校や大学の商学部などでは、税理士試験の受験をサポートしているところもあります。
たとえば日本大学商学部は、「税理士講座」を開講し、在学中の合格を目指すサポートを行っています。
全国商業高等学校長協会は税理士試験の受験を奨励し、支援体制を整えています。
若手の受験環境を見ると引き続き高い合格率を維持すると想定され、税理士の若手登録者数の維持あるいは増加に貢献することが期待できます。